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レティシア書房店長日誌

関根光才監督「燃えるドレスを紡いで」
 
 環境負荷が高い産業の一つと言われているファッション産業。現在、世界で作られている服の75%が廃棄されていて、行き先のなくなった服が、アフリカのケニアに押し付けられ、巨大なゴミの島が出来上がっているということです。その現実を突きつけられた日本のデザイナーの姿を追いかけたドキュメンタリー映画です。(京都シネマで上映中)

 ケニアに向かった中里唯馬は、日本人としては森英恵以来二人目となるパリ・オートクチュール・コレクション公式ゲストデザイナーに選ばれた人です。衣服の最終到達点で、彼が見た光景は地獄のようでした。廃棄された服が、何重にも重なり島のようになり、大きなサギのような鳥が群れをなして、そのゴミの山に止まっている。一部は川に流れ込み、そのまま海へと向かい海洋汚染の一因になり、あちこちで燃やされている衣服からの化学物質で、大気が汚染されています。現地の人々から、もう服を作るなと責められ、さらに、干ばつで干上がった村では、老婆からあなたはここで何を見て何を学んだのか答えろ、と詰問される。その姿を映画は克明に捉えていきます。

風で舞い上がる廃棄された服

 何より中里唯馬という人が素晴らしい。ケニアから帰った後、ファッション産業界にいて、服を作っている自分が今後どうあるべきかを試行錯誤していきます。彼は、あまり顔に苦悩の色を出しません。いつも穏やかです。パリコレ当日の殺気立った雰囲気の中でもそれは変わりません。
 ファッション界で自らの表現を向上させることと、新しい流行を作っては古いものを置き去りにしてゆく仕事でいいのか……、という葛藤。砂漠で何を学んだか答えろと詰問されても、そう簡単に答えが出るものではありません。持ち帰ってきた廃棄された服の山を前にして、スタッフと共に次のステップを模索していきます。そしてここでも、語気が激しくなることもなく、終始穏やかです。
 手元にあるゴミの服を再生させる技術を持った会社が日本にあることを知り、そこに持ち込んで、見事に再生させてパリコレへと向かいます。出来上がった作品には、デザイナーとしての自負と、大量廃棄の一端を担いでいる罪悪感を、矛盾なく消化させて新しい世界を作り出そうとしている魂がこもっていました。
 

パリコレ作品

 「私たちは、息をするように、当たり前のように服を着て生活しています。本作を観た方たちが、少し立ち止まって、衣服って何だろう、何で着ているんだろう、そんな風に考えるきっかけになっていただけましたら嬉しいです。」とは、中里の観客へのメッセージです。
 「衣服は何処からやってきて何処へ行くのか」という問題を、一過性のこととして片付けるのではなく、彼がデザイナーとして生きる命題として考えつづけることを映画は捉えて、幕を閉じます。中里唯馬という人の魅力を見事に伝えた作品だと思います。彼の考え方に共鳴した故坂本龍一が、ショーのために音楽を提供しています。


●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)

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