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吾輩は古本屋である①

現在本を読む時間がありません。そこで逆にこの環境を利用し、少しずつ創作に挑戦します。まずは夏目漱石をオマージュして【吾輩は古本屋である】を書きました。

吾輩は古本屋である。利益はまだない。柳沢という地に移転して間もなく二年経つ。あの時はコロナ過で図書館が閉まっていた。だから住民に重宝されたことだけは記憶している。店主とは一八年の付き合いだ。彼はここで初めて商店会に入った。

この商店会というのは商店街の老人が若者を取りかこみ飲み交わし説教をするという噂である。しかし当時は何という考えもなかったから別段恐しいとも思わなかったようだ。

柳沢は住みよい町だが商売をするには難しいところもあった。昼間は幼児と老人が多い。幼稚園は特に多い。本を買う人は見当たらない。しかし夕方から元気な若者が増える。暗くなると都会からどっと労働者が帰宅する。こういう街をベッドタウンというのだそうだ。

暇が増え店主は読書に没入するようになった。散文も書いている。小説家にでもなるまいか。以前の町では馬車馬のように働いていたので大きな変化である。人生の第二幕かもしれない。ただ夏目漱石や永井荷風などを好んで読んでいる。人工知能が話題となる現代である。これでは行く末が心配であるまいか。

ただ彼は時々ラケットを背負い出かけるようになった。服装も運動着である。声を枯らして戻ってくる。妙なことをしていると思った。するとどうやら学校の部活指導をしているらしい。若き日の研鑽は人様の役に立つようだ。

かくして吾輩と店主はこの地で営業を続けている。この地域には善き人が多い。常連とされるお客さんも少しだけ増えた。しかし本はたくさん売れ残っている。吾輩は古本屋である。

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