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【恒例洋楽新年企画#3】DJ Boonzzyの第64回グラミー賞大予想#4~R&B部門

立春も過ぎたというのに昨日は雪もちらついたりして、相変わらず寒い毎日ですね。北京オリンピックも始まったけど、香港やウイグル自治区のこととか考えると純粋に喜んで観る気にもなれず、確定申告の準備とかいろいろ忙しいのでTVも最近あまり見てません。早くMLB始まらないかなぁ。さてこのグラミー予想もこの間に何とか進めなくてはね。ということで次はR&B部門です。

13.最優秀R&Bパフォーマンス部門

  Lost You - Snoh Aalegra
✗ Peaches - Justin Bieber Featuring Daniel Caesar & Giveon
○ Damage - H.E.R.
◎ Leave The Door Open - Silk Sonic(受賞)

  Pick Up Your Feelings - Jazzmine Sullivan(受賞)

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何年か後に2021年のメインストリーム・シーンを振り返ったら「あの年はオリヴィア・ロドリゴとシルク・ソニックの年だったよなあ」ってきっと言ってると思う。それくらいこの2組のアーティストは2021年を商業的にも、作品の存在感的にも席巻してた、と思う。そして主要部門ではわずか4年前には3部門独占したブルーノ・マーズだけど、ここ数年はビリー・アイリッシュの登場などもあってフレッシュなアーティストに票が集まりがちなので、おそらくオリヴィアが最低2部門は押さえるんだろうな。ということはR&B部門はシルク・ソニックが取れるところはさらって行くんじゃないかというのがかなり濃厚。特に「Leave The Door Open」が出た後のYouTubeにはこの曲の解析やコピーをするミュージシャンたちの動画が溢れていたことを考えると、アカデミー・メンバーの票は間違いなく集まりますね。なので、本命◎は間違いなくシルク・ソニック

で、それに唯一対抗できそうなのが、近年のグラミー・ダーリンの一人、H.E.R.。去年のBLMアンセム「I Can't Breathe」でソング・オブ・ジ・イヤーを取ってその地位を確固たるものにした彼女、今年は主要部門のSOYとアルバムの他、このR&B部門でもプログレッシヴR&B部門以外にはすべてノミネートという凄まじい勢いで、シルク・ソニックがいなければきっとR&B部門はノミネート全部門制覇してただろうな、というのは容易に想像が付くところ。なので当然彼女が対抗○。

そして穴✗は、ペルシャ人でスウェーデン出身という、国籍人種的ダイバーシティの権化のようなスノー・アレグラや、これまで受賞経験のない女性アーティストではビョークと並ぶ記録を持つジャスミン・サリヴァンも資格十分なんだけど、ここはROYにもノミネートされてる、男性R&Bオールスター・チームの「Peaches」に付けときます。

14.最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス部門

✗ I Need You - Jon Batiste
○ Bring It On Home To Me - BJ The Chicago Kid, PJ Morton & Kenyon Dixon Featuring Charlie Bereal

  Born Again - Leon Bridges Featuring Robert Glasper
◎ Fight For You - H.E.R.(受賞)
  How Much Can A Heart Take - Lucky Daye Featuring Yebba

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さて前の部門と全く異なり、大いに予想にあたって悩むのがこのトラディショナルR&Bパフォーマンス部門。本来であれば、最近のグラミー・ダーリンの一人で、今回一昨年からのBLMの潮流に乗った映画『Judas And The Black Messiah』の主題歌で、しっかり去年のアカデミー賞の最優秀オリジナル・ソング部門を受賞していて、楽曲自体も70年代のカーティス・メイフィールドの名曲群を彷彿とさせるようなアーシーで腹の底に響いてくるような「Fight For You」がぶっちぎりの大本命◎で全く悩まなくていいはずなんですが、今回のノミネーション、いやあどれも無茶苦茶楽曲やパフォーマンスのレベルが高いモノばかりなんですわ。

中でもこれはズルい!と思わず叫んでしまったのは、若手のネオR&Bソウルの旗手、BJザ・シカゴ・キッドと、今やニューオーリーンズを代表するR&Bシンガーソングライターで、最近ゴスペルアルバムも出したPJモートンが、ケニヨン・ディクソンというあまり知られてないシンガーと、これも知名度高くないギタリスト、チャーリー・ビリアルのギターをフィーチャーした、あのサム・クックの名曲「Bring It On Home To Me」。これがまあ名唱なんですわ、マジで。しかもMVではみんなスーツに黒ネクタイで、明らかに日曜のミサの返りに近くのホテルの一室に集まってジャムってる、っていう雰囲気がもう最高で。手前に座っている若いのがBJで、窓際に座って黒縁眼鏡とあごひげが賢者風なのがPJ、そしてバンダナ頭に巻いてるのがケニヨンですねえ。そして気持ち良く鳴ってるギターの音色がまたいいわ、これ。どうもこれはPJの企画によるワンタイム・プロジェクトらしく、ネットでも「これだけじゃなくてアルバムやってくれ!」とシルク・ソニックへの人気にも似た声が多数上がってる模様。H.E.R.いなかったらこれが本命間違いなしなんですが、残念ながら対抗○止まりかなあ。

最初このノミニーリストを見て、他の曲聴く前は、唯一聴いたことのあったリオン・ブリッジズが対抗○かなあ、と思ったんですが、いやとんでもないです。正直リオンの曲はこの中で一番平凡に聞こえてしまうくらい、他の2曲もレベル高いですね。2020年代を代表するクルーナー、ラッキー・デイと、数々のR&Bヒップホップ系との共演で注目を集めている白人女性シンガー、イェバのデュエットも本当に素晴らしいのですが、穴×を付けるとすると、やはり今回11部門ノミネートと、今年のグラミーの台風の目の一人になってるジョン・バティーストかな。そしてこの曲も本当に黒人音楽の伝統へのリスペクトがはち切れそうな、アップリフティングでポジティブなジャンプ・ナンバー。明らかにブラック・ミュージック・マンス系の展示をしてる美術館で、展示作品から飛び出した黒人ダンサーたちと歌って踊るジョンと女性のポジティブ・ヴァイブがとにかく楽しいこの曲も、穴×にしとくのがもったいないくらいのレベル。いやあ今年のR&B部門、かなり熱いですわ

15.最優秀R&Bソング部門(作者に与えられる賞)

◎ Damage - H.E.R. (Anthony Clemons Jr., Jeff Gitelman, H.E.R., Carl McCormick & Tiara Thomas)
  Good Days - SZA (Jacob Collier, Carter Lang, Carlos Munoz, Solána Rowe & Christopher Ruelas)
× Heartbreak Anniversary - Giveon (Giveon Evans, Maneesh, Sevn Thomas & Varren Wade)
○ Leave The Door Open - Silk Sonic (Brandon Anderson, Christopher Brody Brown, Dernst Emile II & Bruno Mars)(受賞)

  Pick Up Your Feelings - Jazmine Sullivan (Denisia "Blue Jean" Andrews, Audra Mae Butts, Kyle Coleman, Brittany "Chi" Coney, Michael Holmes & Jazmine Sullivan)

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熱いR&B部門なんですが、やはり5部門中4部門ノミネートのH.E.R.の存在はかなり強力ですねえ。しかも!主要4部門のソング・オブ・ジ・イヤーではこの前の部門でも本命◎に推した「Fight For You」がノミネートされてるのに、何故かこのR&Bソング部門では彼女のアルバム(そのアルバムも主要4部門の最優秀アルバム部門ノミネート)『Back Of My Mind』からのシングル「Damage」がノミネートされてるんですよ。これはもう完全に取りに来てるなあ、ということでこの部門も本命◎はH.E.R.でしょうねえ。昨年この部門受賞のロバート・グラスパーミシェル・ンデゲオチェロとの「Better Than I Imagine」に続いて2年連続受賞か。共作者にはバイデンの受賞コンサートの最後にジャスティン・ティンバーレイクと登場したアント・クレモンス、そして去年主要部門SOYを受賞したH.E.R.の「I Can't Breathe」でも共作のティアラ・トーマスの名前が並んでます。

対抗○はH.E.R.いなければぶっちぎりの本命のはずだった、シルク・ソニックの「Leave The Door Open」。ブルーノの他に名前が並んでるダーンスト・エミール2世は、実はH.E.R.の「I Can't Breathe」の共作者として、去年のSOY取ってるんですよねえ。ホント、去年の前半を埋め尽くした感のあるこの曲にしても役者が揃ってるって感じです。

そして穴×は、ジャスティン・ビーバーの「Peach」にフィーチャーされて、主要部門ROYのノミネートにも名を連ねてる、もう一人の2020年代のR&Bクルーナー、ギヴィオンの自分の曲「Heartbreak Anniversary」に付けます。このアルバムも非常に優れたR&B作品でしたね。この人はもっともっと伸びると思います。自分的にはカリード、ラッキー・デイ、ギャラントそしてこのギヴィオン2020年代R&Bクルーナーの四天王だと思ってますから。しかしジャズミン・サリヴァン可哀想に、ここでも受賞は厳しそうだなあ。

16.最優秀プログレッシヴR&Bアルバム部門

  New Light - Eric Bellinger
  Something To Say - Cory Henry
× Mood Valiant - Hiatus Kaiyote
○ Table For Two - Lucky Daye(受賞)
◎ Dinner Party: Dessert - Terrace Martin, Robert Glasper, 9th Wonder & Kamasi Washington

  Studying Abroad: Extended Stay - Masego

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今回この部門の前身である最優秀コンテンポラリーR&Bアルバム部門が始まった2003年第45回以来初めて6組がノミネートされてますが、自分が既に名前を知ってたアーティストたちの作品に劣らず、不勉強にして名前を知らなかったアーティストたちの作品もなかなかレベルが高くて、多分得票数5位がタイだったんでしょうね。その5位タイグループかなあ、と思われるのが過去クリス・ブラウンのアルバムに曲提供やプロデュースをしててグラミー受賞経験もある、クリスアッシャータイプのテナーがかっこいいエリック・ベリンジャー、直近では不特定フュージョン集団、スナーキー・パピーのメンバーとしてこちらもグラミー受賞経験あるコリー・ヘンリー、そして「トラップハウスジャズ」なる独自のジャンルを提唱しているサックス奏者兼シンガーのマセゴ

いずれもなかなかのクオリティの作品(特にコリー・ヘンリーの作品はオールドスクールなフュージョン・ソウルっぽくて個人的には大いに気に入りました)なので世が世なら印を付けるところですが、今回彼ら以外の3組がまた段違いにいいので残念なところです。その中で本命◎を付けたのが、テラス・マーティン、ロバート・グラスパーカマシ・ワシントンというLAコンテンポラリー・ジャズ界の精鋭3人と、地元ノース・カロライナ州の大学ではヒップホップ史の講義もしてるという、70年代R&Bのサンプルを多用するプロデューススタイルがドウプなDJ兼ラッパーの9thワンダー(本名:パトリック・デナード・ダウシット)が集まった、ディナー・パーティーというワン・タイム・ユニットのEP作品。ちょうど90年代、今は亡きギャング・スターグールーがヒップホップとオーガニック・ソウルとジャズを見事に融合させたあの『Jazzmatazz』シリーズを彷彿させるような、ジャズとソウルとヒップホップが見事に融合した作品で、ビルボード誌のコンテンポラリー・ジャズ・アルバムチャートでも1位になってますが、今回のノミネートにはその本篇作品に更に他のボーカリストや、何とあのハービー・ハンコックスヌープ・ドッグまで乱入したリミックス盤の『Dinner Party: Dessert』が選ばれてます。とにかくグールーのあのシリーズが好きだった人にはたまらないこの作品、昨年のレコード・ストア・デイでドロップされた限定版ヴァイナルをゲットした自分としてはやはり本命◎に推さざるを得ません。

そして対抗○と穴×ですが、数々の音楽誌の年間ランキングにも顔を出した、相変わらず独自の世界観によるR&B・ファンクを展開しているハイエイタス・カイヨーテ(自分は2015年横浜赤煉瓦倉庫でのブルー・ノート・ジャズ・フェスティバルと、2019年のフジロックでライブ見てます)の話題作と、さっき名前を出した2020年代R&Bクルーナー四天王の一人、ラッキー・デイとで悩むところですが、ここは個人的好みで対抗○はラッキー・デイ、穴×をハイエイタス・カイヨーテとしておきます。

17.最優秀R&Bアルバム部門

  Temporary Highs In The Violet Skies - Snoh Aalegra
◎ We Are - Jon Batiste
○ Gold-Diggers Sound - Leon Bridges
× Back Of My Mind - H.E.R.

  Heaux Tales - Jazmine Sullivan(受賞)

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さてR&B部門中最大の部門になるここアルバム部門。ここでもやはりここ数年のグラミー・ダーリン、H.E.R.と今年の人気者、ジョン・バティーストの一騎打ちになるんだろうなあ、という感じですかね。個人的には自分の年間アルバム・ランキングの20位に入れたリオン・ブリッジズGold-Diggers Sound』も雰囲気満点の素晴らしいアルバムで推したいところなんで、ここはかなり予想に悩みました。

H.E.R.もこの部門、2019年第61回でそのリオン・ブリッジズレイラ・ハサウェイ、PJモートンといったそうそうたる面々を下して見事受賞してますからね、この部門取っていってもまったくおかしくないわけで。ただどうでしょう、彼女のアルバム、これで三作続けて主要の最優秀アルバム部門にノミネートされてますが、過去2回は受賞できず。前作の『I Used To Know Her』はこのR&B部門ではノミネートなしだった、っていうのがどちらかというと彼女のR&B部門の評価としては楽曲評価重視なのかな、と思ってみたりしてます。一方ジョンの方は何しろ今回が初ノミネートで主要部門とR&B部門の両方にノミネートされてますが、いきなりそこで主要部門の受賞はないよなあ(特に今年はオリヴィアがいるから)、となるとアルバムとしての完成度も考えてここはジョンが本命◎かな、と言う気がします。

ではH.E.R.が対抗○か、というと、個人的にリオンのアルバムを推したい自分としては「ちょっと待て」って感じでしてね。今回のH.E.R.のアルバムにはあの「Fight For You」も入ってないし、全体的に前作よりは結構ヒップホップ寄りの内容だったり、アルバムの完成度としてはどうなのかなあ、と思ってしまうわけです。そこへ行くとリオンのアルバムは、東ハリウッドの「Gold-Diggers」というクラブで定期的にライブをやっていた、そこにさっき『Dinner Party』でも名前の出たテラス・マーティンたちが来て一緒にジャムってた、そうした楽曲に彼が詞を付けて作品集にしたという、全体的に大変ビビッドな映像を喚起するような作品なんで、自分的にはやはりこっちが対抗○だな。悪いけどH.E.R.は穴×で我慢してもらいましょう。ああそして、ここでもやっぱり取れそうにない可哀想なジャズミン・サリヴァンビョークと共に女性アーティストで最多ノミネート(15回)で無冠の記録を破るのはいつのことでしょう。

さて次はラップ部門です。この3連休中に何とかアップしたいですね。お楽しみに。

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