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今週の全米アルバムチャート事情 #220- 2024/1/27付

今週火曜日に通算8回目になる吉岡正晴さんとのグラミー賞大予想DJ&トークイベント『ソウルサーチン・ラウンジ』、無事に開催しました!いつものようにグラミーの見どころや今年の変更ポイント、各主要部門の予想とポイントについて、吉岡さんとの凸凹トークで楽しくお話しながら音源をプレイした2時間半でした。いつもの大学の後輩くんの他、ちょうど関西からのご出張で東京におられてこのイベントを知って立ち寄って頂いた方や、いつもフジロックではお世話になっている神楽坂K Westのマスターのご来臨も頂き、それなりに楽しいイベントにできたと思います。詳細は下記の吉岡さんのブログで。さあ来年はオーディエンス倍増に向けて頑張ろう(笑)

"American Dream" by 21 Savage

ということでグラミー賞の予想ブログも着々と進む中、今週の全米アルバムチャート1月27日付のBillboard 200では、いよいよ2024年のアルバムチャートが始動し始めたな、という印象を与えるに充分の動きで、先週の予想どおり21サヴェージのソロ3作目『American Dream』が133,000ポイント(うち実売4,000枚)できっちりモーガン野郎を蹴落として今週1位に初登場しました。これはソロとしては前作『I Am > I Was』(2018)に続く2作目、メトロ・ブーミンとの『Savage Mode II』(2020)とドレイクとの『Her Loss』(2022)の2枚のコラボ作も含めると4枚目の全米ナンバーワン、ということになります。今回アルバムリリースのアナウンスが1/9に行われてリリースが1/12と、ほとんどサプライズ・ドロップだったにもかかわらずこうして手堅く10万ポイント超を叩き出すあたり、昨年のドレイクとのコラボでシーンにおける存在感をまたグッと上げた21サヴェージの力を感じます。

その存在感を更に強固なモノにしようという意図の表れか、今回のアルバムのゲスト陣は実に豪華。今サウンドメイカーとしても乗ってて、今回のグラミー賞では最優秀プロデューサー部門ノミネートのメトロ・ブーミンを筆頭に、ドジャ・キャット、トラヴィス・スコット、リル・ダーク、リル・ダーク、サマー・ウォーカーなどなど、今時のおいしいメンツを総なめしてる感じです。またサンプリングも大ネタ使いが目(耳)に付いて、ローズロイスWishin’ On A Star」をベーストラックに21がラップする「All Of Me」、映画『シャイニング』で繰り返し登場するフレーズをタイトルにした「Redrum」(”Murder”=殺人の逆スペル)ではその映画でジャック・ニコルソンが迫ってくる恐ろしげなセリフを丸使いしたり。トラップべースのアルバムとしては、聴く方の関心とテンションを切らさないようにあの手この手でいろんな連中をフィーチャーしながら、工夫の見えるトラック作りでまとめてるあたりソツのないアルバム作りだと思います。ただ今回のポイントの殆どがストリーミングだということもあって、これ来週はどっとポイントを落とすんだろうなあHot 100の方でも今週トップ10に「Redrum」(5位)と「Nee-nah」(10位)初登場してますが、来週はダダ落ちしてると思います。

"Orquídeas" by Kali Uchis

今週その21サヴェージのすぐ下の2位にもう1枚トップ10内初登場が。前作『Red Moon In Venus』(2023年4位)が去年の3月にリリースされてから一年と経たない間にリリースされた、カリ・ウチズの4作目『Orquídeas』(69,000ポイント、うち実売31,000枚で今週のアルバムセールス・チャート1位)。スペイン語で「蘭(Orchid)」というタイトルから判るように、前作が普通の英語によるR&Bアルバムだったのに対して今回はオールスペイン語のアルバム。コロンビア人の父親を持ち、アメリカはヴァージニア州生まれながら子供の頃からコロンビアで過ごした彼女の場合、スペイン語でのアルバムリリースは自然なことのようで、ファーストの英語アルバム『Isolation』(2018年32位)の次はスペイン語アルバムの『Sin Miedo (del Amor y Otros Demonios)』(2020年52位)出してるので、当面このサイクルで英語とスペイン語を交互に出すつもりのようです。

いきおい、ゲスト・ミュージシャンも前作では彼氏のドン・トリヴァー(つい先日カリドンとの子供のご懐妊発表。おめでとう!)やサマー・ウォーカーと米人R&B関連だったんですが、今回はカロルGラウ・アレハンドロ、更には去年のリージョナル・メキシカンの全米ブレイクの中心人物の一人、ペソ・プルーマなどを配してバリバリのラテン・フォーメーション。ただ前作でも全開だったカリの濃厚なフェロモンたっぷりのR&Bサウンドは言語が変わってもこのアルバムでも健在。しかも今回ラテンスタイルの楽曲満載ということでR&Bとラテンが渾然一体となって更にめくるめくカリ・ウチ・ワールドが炸裂してます。スペイン語のアルバムながら今回の2位は彼女のベスト・チャート・ポジションになりましたし、これだけの実売も稼いでいるので、着実にファンベースを確保してるようですね。

"Insano" by Kid Cudi

3週連続初登場ゼロだったアルバム・チャート、今週はやっとトップ10に2作デビューしたわけですが、11位以下100位までの圏外初登場は今週まだわずか1枚(ちなみに101〜200位の初登場も1枚でした。まだまだアルバムチャートが活況を呈するには時間かかりそうです)。その1枚は惜しくもトップ10を逃して13位に初登場した、キッド・カディの『Insano』。一昨年リリースの、自ら制作したネットフリックスのアニメ映像付きのアルバム『Entergalactic』(13位)に続いてトップ10を逸したことになります。

今回のアルバムは前作のエレクトロニカ風味のインディ・ポップな味わいからは一変して、全編ゴリゴリのトラップ・アルバム。キッド・カディみたいに器用で才能もある奴が今さらゴリゴリのトラップ・アルバムなんて何か芸がないなあ、と聴いてて思ったんですが、本人はこの作品に至極満足してる様子で「これまでで最高のシット」「このアルバム作れて120%ハッピー」などとのたまわってるようです。まあトラップ・アルバムとしてはいろいろ仕掛けや工夫も散りばめている作品だとは思いますが、そもそもトラップというスタイルが今やメインストリームから外れていく傾向にある最近、こういう方向性はどうなのかなあ、と思ってしまいます。まあこのアルバムを最後に今契約しているリパブリックとの契約が終了するらしいので、次にまた新たな方向性に転換していくのかもしれませんが。

ということで今週の100位までの初登場は3枚。来週はもう少しいろいろ登場してチャートが賑わうのを期待しましょう。一方Hot 100の方の今週の話題はアリアナの新曲「Yes, And?」が予想通りの初登場1位。これでアリアナのナンバーワンは8曲目で、女性ソロアーティストとしてはビヨンセに並ぶ歴代8位(1位はマライアの19曲、2位はリアーナ14曲、3位はマドンナ12曲)、初登場1位は6曲目でこちらは女性ソロとしてはテイラーと並ぶ歴代トップ。そして「Yes, And?」はもうすぐリリースのアルバム『Eternal Sunshine』からのリード・シングルなんだけど、これでアルバムからのリード・シングルのトップ10入りが連続7曲目。これも女性ソロとしては、テイラーの連続8曲に次ぐ記録のようです。以下そのリストを(アルバムリリース年、『アルバム』最高位、- リードシングル、最高位)。

2013 『Yours Truly』(1位)- The Way(9位)
2014 『My Everything』(1位)- Problem(2位)
2016 『Dangerous Woman』(2位)- Focus(7位)
2018 『Sweetener』(1位)- No Tears Left To Cry(3位)
2019 『Thank U, Next』(1位)- Thank U, Next(1位)
2020 『Positions』(1位)- Positions(1位)
2024 『Eternal Sunshine』(?)- Yes, And?(1位)

とかく最近はテイラーの圧倒さのみに目が行きがちですが、アリアナもそれに劣らぬ存在感を発揮しているという今回のナンバーワンでした。では今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) American Dream - 21 Savage <133,000 pt/4,000枚>
*2 (-) (1) Orquídeas - Kali Uchis <69,000 pt/31,000枚>

3 (1) (46) One Thing At A Time - Morgan Wallen <61,000 pt/2,044枚*>
4 (2) (15) For All The Dogs - Drake <52,000 pt/98枚*>
5 (3) (12) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <50,000 pt/13,407枚*>
6 (5) (60) Stick Season ● - Noah Kahan <45,000 pt/4,716枚*>
7 (4) (6) Pink Friday 2 - Nicki Minaj <44,000 pt/2,345枚*>
*8 (10) (182) Folklore ▲2 - Taylor Swift <43,000 pt/18,912枚*>
9 (6) (58) SOS ▲3 - SZA <41,000 pt/3,010枚
10 (8) (230) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,000 pt/6,517枚*>

久々の新譜のナンバーワン初登場でちょっと賑わった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想です(チャート集計対象期間:1/19~25)。いやいやでも今週リリース分もあまりパッとした新譜が見当たりませんねえ。グリーン・デイの新譜はトップ10当確でしょうが、1位確定に必要な7~8万ポイントはキツいでしょうねえ。3位のモーガン野郎は例によってほとんどポイント減らさないと思われるので、今週1位の21サヴェージが来週踏ん張ってポイント減を半分くらいに抑えればギリギリ2週目の首位を確保。もしそれ以上減らすようだと、またまたゾンビのようにモーガン野郎が1位をかすめ取る可能性もゼロではありません。やだなあ。ということでまた来週。

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