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DJ Boonzzyの第66回グラミー賞大予想#8〜アメリカン・ルーツ部門(その2)

さて、いよいよ今週は今回で8回目になる吉岡正晴さんとの『ソウルサーチン・ラウンジ』開催です!1月23日(火)19時から、新宿カブキラウンジで、吉岡さんと自分がグラミー各部門の予想と解説に合わせていろんな音源をプレイしますので、是非お誘い合わせの上お越し下さい!

では続いてアメリカン・ルーツ部門その2,ブルーグラス、ブルースそしてフォーク部門の予想です。


32.最優秀ブルーグラス・アルバム部門

  Radio John: Songs Of John Hartford - Sam Bush
  Lovin’ Of The Game - Michael Cleveland
  Mighty Poplar - Mighty Poplar
✗ Bluegrass - Willie Nelson
◯ Me/And/Dad - Billy Strings
◎ City Of Gold - Molly Tuttle & Golden Highway

毎回始めて出会うアーティストが多くて勉強になるこのブルーグラス・アルバム部門。今年は2012年第54回以来の6組ノミネートと、通常より一枠多い争いになってますが、メンバーを見るといずれも劣らぬ実力者達ばかり。今年71歳という大ベテラン・マンドリン奏者のサム・ブッシュはプログレッシヴ・ブルーグラスの騎手としてベラ・フレック(バンジョー)ら80年代以降の新世代ブルーグラスアーティストの代表選手の一人として活躍、2002年第44回主要部門の最優秀アルバムを受賞した映画『オー・ブラザー!(O Brother Where Art Thou)』サントラ盤の参加メンバーとしての受賞を含む3回のグラミー受賞経験あり。マイケル・クリーヴランドは中堅フィドル・プレイヤーとして、2020年第62回のこの部門を受賞してます。5人組のネオトラディショナル・ブルーグラス・バンドのマイティ・ポプラは、何とあのパンチ・ブラザーズノーム・ピケルニー(バンジョー)とクリス・エルドリッジ(ギター)が参加したスーパーバンド。この3組だけ見ただけでも充分受賞の可能性がありそうなのですが、残りの3組がまたもうワンレベル上の顔ぶれなので自分はこの3組中心に予想してみました。

中でも光っているのは、一昨年メジャーのナンサッチ移籍後第一弾のアルバム『Crooked Tree』(2022)がロックやアメリカーナ系の音楽メディアの高い評価を得て、昨年のこの部門を受賞するなどブレイクしたモリー・タトル(ギター・バンジョー)。子供の頃から全身性脱毛症で実は頭もスキンなんですが、いつも魅力的なウィッグを使ってそんなこと関係ない、的な態度で力強いコンテンポラリー・ブルーグラスを演奏する彼女の姿は各方面から喝采を得てます。そんな彼女が前作に続いてリリースしたこのアルバムでも彼女とバンドのはつらつとしたプレイが楽しめる作品。前作同様ドブロの名手、ジェリー・ダグラスとの共同プロデュースで、あのデイヴ・マシューズが参加した「Yosemite」なんかもいい感じです。ここはこの部門2連覇(達成すれば1999年41回・2000年42回受賞のリッキー・スキャッグス&ケンタッキー・サンダー以来2回目)を期待して、モリーに本命◎を付けます。

対抗○はブルーグラスの師匠であり、育ての父親でもあるテリー・バーバーと組んで、ジョージ・ジョーンズドック・ワトソンといった伝統的カントリー/ブルーグラスの楽曲をカバーしている、ブルーグラスの若きホープ、ビリー・ストリングスの『Me/And/Dad』に、そして穴✗は今年90歳のウィリー・ネルソン翁が、60年間に亘る自身のレパートリーをブルーグラスのスタイルでリイマジン/セルフ・カバーしている、ちょっと反則やなあ(笑)と思う『Bluegrass』。トップ40ファンにお馴染みの「On The Road Again」の軽快なカバーが自分的にはいい感じでした。

33.最優秀トラディショナル・ブルース・アルバム部門

  Ridin’ - Eric Bibb
  The Soul Side Of Sipp - Mr. Sipp
◯ Life Don’t Miss Nobody - Tracy Nelson
✗ Teardrops For Magic Slim: Live At Rosa’s Lounge - John Primer
◎ All My Love For You - Bobby Rush

さて続いてはブルース2部門。このトラディショナル・ブルース・アルバム部門(1988年30回〜1991年33回と2017年第59回以降はトラディショナルとコンテンポラリーに分化)は1971年第13回から存在するグラミーでもかなり古株のカテゴリー。このカテゴリーで過去圧倒的だったのは過去11回受賞のB.B.キングや6回受賞のマディ・ウォーターズなど、ブルース界の大御所たちだったわけですが、第34回で一旦一本になったのが第59回で再び分化してからは、ほぼ毎回いろんなアーティスト(必ずしも若手ではないのがこのジャンルの特性ですなw)が受賞しているという状況。そんな中で唯一第59回以降で複数受賞しているのが、今年何と90歳になる大ベテラン、ルイジアナ州出身のボビー・ラッシュ。ジャケを見て想像できると思いますが(笑)従来かなりゴリゴリのエネルギッシュな、ギターをグイーンと鳴らすようなスタイルだったんですが、さすがに最近は枯れて来たのか、今回ノミネートの『All My Love For You』ではいきなりレゲエ調の曲「I’m Free」で始まるなど、ちょっとレイドバック感も出てきてます。それでもこれくらいの年齢になるとブルースだけにトラディショナルな定番曲で固めるパターンが多いと思うのですが、どうやら全曲自作らしいというのはあっぱれ。本命◎に充分でしょう。

そしてもう一つ、今回の顔ぶれの中で名前を見て「おっ!」と驚いたのが、トレイシー・ネルソン。トレイシーと言えば、60年代後半から70年代前半にかけて、ジミヘンジャニス・ジョップリン、グレイトフル・デッドといったあの時期のロック・スーパースター達と同列の存在感で活躍していた白人カントリー・ブルース・シンガーで、70年代前半のスワンプ・ロックとか好きな人の間では今でも人気が高い人です。今回は1999年第41回にこの部門でノミネートされて以来25年ぶりのノミネート。80年代以降も継続して数年に一作ずつアルバムリリースしてたのは知ってたんだけど、本来シーンから忘れ去られていてもおかしくない実力派のアーティストをちゃんと評価するあたり、グラミー・アカデミーも捨てたもんじゃないな、と思った次第。アルバム内容も、年齢(79歳)を感じさせない張りと力強さのある歌声でいやあ声変わってないな、とビックリしたので、ここはトレイシー姐さんを対抗○に。

そして穴✗は一つも知らない残り3人(笑)のうち、過去3回とこの部門でのノミネート経験が最も多い、こちらも今年78歳と超ベテランのシカゴ・ブルース・ギタリスト、ジョン・プライマーが、自らが70年代にサイドマンを務めていたブルース・レジェンド、マジック・スリムへのトリビュートらしいライブ・アルバムに付けておきます。

34.最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門

  Death Wish Blues - Samantha Fish And Jesse Dayton
  Healing Time - Ruthie Foster
✗ Live In London - Christone “Kingfish” Ingram
◯ Blood Harmony - Larkin Poe
◎ LaVette! - Bettye LaVette

さて一方、2017年第59回に分化して復活したこのコンテンポラリー・ブルース・アルバム部門、これまで7回の受賞のうち、3回をファンタスティック・ネグリートことザヴィエル・アミン・ドフレポーレズが受賞している(第59回、61回、63回)という、ファンタスティック・ネグリートのために分化したような部門なんですが(笑)この3枚にすべてギターで参加しているマサ小浜さんが、毎年自分がグラミー賞予想イベント『ソウルサーチン・ラウンジ』を一緒させてもらってる音楽評論家の吉岡正晴さんのご友人ということもあって、何となくこの部門、親近感を持ってるんです(笑)。ただ今回はファンタスティック・ネグリートはノミネートされてないのでそれ以外から予想しなくてはいけません。

過去の受賞経験ということでいうと、一昨年第64回にこの部門受賞している、ミシシッピ州クラークスデイル出身の、若き黒人ブルースギタリスト、クリストン・”キングフィッシュ”・イングラム、ということになるんですが、自分はそれよりも過去この部門に4回ノミネートされながらこれまで未冠、しかし御年77歳で今なおパワフルな歌唱スタイルでロック楽曲やディランの楽曲をブルース解釈して歌うなど、毎回アルバムで新境地を見せてくれている、自分も大好きなベティ・ラヴェットの『LaVette!』に本命◎を進呈しようと思うのです。今回のこのアルバムは70年代にグレッグ・オールマンらのバックアップ・キーボーディストだったランドール・ブラムレットの曲を集めたカバーアルバムで、これがまた渋くなくてハツラツとしてていいんですわ。レイ・パーカーJr.ジョン・バティースト、ジョン・メイヤー、スティーヴ・ウィンウッドなど豪華なミュージシャンが客演しているのも彼女への高いリスペクトを表してるような気がします。

そして対抗◯を付けるのは、こちらも過去に1回この部門にノミネート経験のある、こちらはぐっと若手の女性2人、スライド・ギターのミーガンとボーカルのレベッカラヴェル姉妹が率いるラーキン・ポーが、これまでの作品同様、ブリブリでバキバキのど迫力のサザン・ブルースを炸裂させているアルバム『Blood Harmony』。この子たち、毎回ヤバいですね。そしてクリストン君には今回は穴✗で我慢してもらいましょう。

35.最優秀フォーク・アルバム部門

  Traveling Wildfire - Dom Flemons
✗ I Only See The Moon - The Milk Carton Kids
◯ Joni Mitchell At Newport [Live] - Joni Mitchell

  Celebrants - Nickel Creek
  Jubilee - Old Crow Medicine Show
◎ Seven Psalms - Paul Simon
  Folkocracy - Rufus Wainwright

この前のブルーグラス部門では普通は5候補のところ久しぶりの6候補のノミニー、という話しをしましたが、今回このフォーク・アルバム部門は何と7候補のノミニー。これは、まだブルースとフォーク部門が一本の「最優秀エスニックまたはトラディショナル・レコーディング部門」だった頃の、1980年第22回に何と9候補のノミニーが選ばれた時以来のこと。何で今回はこんなにノミニー多いの?と思って顔ぶれを見て思わず「うーん」と唸ってしまいました。今回どの候補もそれぞれ存在感あるノミニーばかりだったのです。

アメリカーナ部門でノミネートされてたリアノン・ギデンズと一緒にオールド・タイム音楽をやるバンド、キャロライナ・チョコレート・ドロップスで活躍していたドム・フレモンスのソロ作。「21世紀のサイモン&ガーファンクル」と圧倒的な評価を集めているデュオ、ザ・ミルク・カートン・キッズが新たにバンジョーを加えた9作目のアルバム。数年前の脳動脈瘤破裂から、昨年夏のニューポート・フォーク・フェスティバルで奇跡のステージ復活を果たしたレジェンド、ジョニ・ミッチェルのそのライブ盤。パンチ・ブラザーズのマンドリンの鬼才クリス・シーリとソロでも活躍するフィドルのサラ・ワトキンスを含むオルタナ・ブルーグラス・トリオ、ニッケル・クリークの新作。ナッシュヴィル拠点に活動する7人組ストリング・バンド、オールド・クロウ・メディシン・ショーのバンド25周年記念作。「もう新作は作らない」と言っていたポール・サイモンが最後の作品としてリリースした、7曲が曲間なく繋がって一つの曲のようになっている、アコースティックな意欲作。そしてインディ・フォークの異端児、ルーファス・ウェインライトが、デヴィッド・バーンマディソン・カニンガム、ジョン・レジェンド、ヴァン・ダイク・パークスチャカ・カーンなどなど、多様なゲスト達とスタンダードなフォーク曲やママス&パパスの曲、はてはシューベルトニール・ヤングまで様々な楽曲をデュエット・カバーしている異色作。やれやれ、これからどうやって受賞作を予想しろというのか

で、自分が本命◎にしたのは、音楽メディアからはとても評価が高く、自分的には後半の奥さんのエディ・ブリッケルとのデュエット曲がとても印象的だったポール・サイモンの問題作。なかなか歌詞まで充分読み込まないとその凄さはわからないんでしょうが、聴いていて「これが最後だぞ、みたいな凄み」みたいなのは充分伝わってくる作品だと思うので。

そしてそれと本当に僅差で対抗◯にしたのは、ジョニ・ミッチェルの奇跡のステージカムバック・ライブ盤。この作品は日本盤の封入ブックレットの翻訳のお仕事で自分が関わったという浅からぬ縁もあり、本当は本命◎推ししたいところだったんですが、このアルバムの歴史的重要性も、やっぱりポール・サイモンの全曲自作新曲で迫ってくる『Seven Psalms』の迫力にはやや負けるかな、ということで対抗◯です。ワーナーさんすいません。そして穴✗はもうそれ以外のどれに付けてもいいし、正直ニッケル・クリークルーファス・ウェインライトも捨てがたいのだけど、個人的に好きなミルク・カートン・キッズを選びました。いやいやこのカテゴリーの予想はかなり疲れましたわ。

ということで何とかアメリカン・ルーツ部門も予想完了。次はゴスペル/コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック部門の予想です。お楽しみに。


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