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今週の全米アルバムチャート事情 #119- 2022/2/19付

今週一番盛り上がったのは月曜朝の第56回スーパーボウル!自分は決して熱心なNFLファンじゃないですが、毎年必ずスーパーボウルだけはガッツリ楽しむことにしてます。ハーフタイムショーもあるしね。でも今年はちょっと特別で、自分が2000年代前半にNY駐在してた時に大きいチームがあったシンシナティにはしょっちゅう仕事で行ってたんですが、そのシンシナティ・ベンガルズが今年あの2年連続スーパーボウル出場のチーフスをAFL優勝決定シリーズでオーバータイムで破って34年ぶりのスーパーボウル進出を果たしたからこれはもう応援しなきゃいかんというわけでして。自分がNYにいた頃は弱小チームだったんですが、何の何の今回は王者ラムズを相手に4Qギリギリまでリードするという素晴らしい戦いぶり。2年目とは思えない冴えたプレーを見せるQBのジョー・バローがいる限り、また来年も期待できそう。来年はシーズン通して応援しようかな、と思ってます。

一方並行してアップしている第64回グラミー賞大予想ブログ、先週末はR&B、そしてラップ部門予想を投稿してますので、上記のリンクから是非覗いてみて下さい。今週もカントリー部門を投稿の予定。

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さて今週の全米アルバムチャート、2/19付Billboard 200の1位ですが、予想された通り、今週も対先週比2%しかポイントを減らさずガッチリと110,000ポイント(実売17,000枚)を確保した『Encanto(ミラベルと魔法だらけの家)』のサントラ盤が、余裕で通算5週目の1位をキープしました。これで『ミラベル』は、2000年代以降のサントラ盤1位アルバム(今回の『ミラベル』が29枚目。あなたは何枚くらい判りますか?)では、4週1位だった2002年の『8 Mile』、2003年の『Bad Boys II』、2007年の『High School Musical 2』の3枚を抜いて、2014年に13週1位を記録した『Frozen(アナと雪の女王)』に次ぐ堂々の第2位となったんです。

ここ30年のスパンで見ても、5週以上の1位を記録したサントラ盤は、アナ雪ミラベル以外だと、『Titanic』(1998年16週)、ホイットニーの『Waiting To Exhale』(1996年5週)、同じディズニーアニメの『The Lion King』(1994-5年10週)、そしてこれもホイットニーの『The Bodyguard』(1992-3年20週)の4枚だけなんで、このミラベルの5週1位というのがいかに記録的かが判りますね。シングル「We Don’t Talk About Bruno」も今週もHot 100で3週目の1位、UKでは4週目の1位を記録した上に、同じ『ミラベル』からのシングル、「Surface Pressure」が2位(Hot 100では10位)でワンツーフィニッシュを決めるという、相変わらずの人気ぶりです

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さて今週は久しぶりにトップ10内初登場が複数あります。まず46,000ポイント(実売15,000枚)で3位に入ってきたのは、先週トップ10入り予想をしていた、メンフィス・ラップ・シーンのドン、ヨー・ゴッティの11作目になる『CM10: Free Game』。これで2013年の7作目『I Am』(7位)から5作連続でBB200のトップ10入りという立派な成績です。昨年来、それまでトップ10にアルバム送り込んでたのに、おそらくコロナによる露出不足で、特にロック系を中心にチャート順位を落とすアーティストが多い中、ベテランヒップホップ・アーティストでこの成績は評価されるべきでしょう。しかもヒップホップにしてはCD2枚組なのに実売もちゃんとそれなりの数を叩き出してますから。これもここのところヤング・ドルフの追悼盤や、NLEチョッパの新譜など、若手のメンフィス・ラッパー達の作品の躍進が地固めをしてくれたからかもしれません。

ただまあ作風としてはいつもの普通のトラップ・ナンバーのオンパレードでして、MV見てもらえばわかるようにリリックの内容もエロにギャングスタにストリートに、といった殺伐とした内容なんで、音楽的にはなかなか評価するのが厳しいですけど。

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それよりも今回嬉しかったのは、5位に36,000ポイント(実売24,000枚、今週のアルバムセールス堂々1位です!)で見事初のトップ10入り(というか2作目のチャートインで初のトップ40)を果たした、ミツキ(本名:宮脇ミツキ)の6作目『Laurel Hell』です!自分が彼女を知ったのは、音楽メディアが軒並み高評価を付けていた2枚前のアルバム『Puberty 2』(2016)からの曲「Your Best American Girl」のMVを見たのがきっかけ。2010年代風ニルヴァーナ的な轟音ギターリフをバックに、アメリカ人の彼氏に愛してもらおうとするのに結局日本人であるがために本当のステディになれない、というまあ日本人としてはショッキングな内容をニコのように淡々と歌う彼女の作風に無茶苦茶惹かれたんですよね。そして前作『Be The Cowboy』(2018)はその評価を受けて見事チャートイン(52位)、一昨年のフジロックでは凱旋帰国ライブを観る機会にも恵まれたこともあって、ここのところずっとハマってます。その『Be The Cowboy』は以前やっていた「新旧お宝アルバム!」のブログで熱いレビューをここに書いてますので良かったら読んでやって下さい。

前作の後充電期間に入ったミツキ、ちょうどコロナの期間中お休みになっていたので、その期間にゆっくりこのアルバムの制作に取り組めて、内容もなかなか充実しているようで、各メディアの評価も軒並み高くなってます(メタクリティックでも83点)。ポストグランジっぽかった『Puberty 2』から『Be The Cowboy』ではシンセポップっぽい曲や、オルタナっぽいギターロック、そしてピアノとオーケストレーションだけの静かでドラマチックな曲など、彼女の音楽性のいろんな面を見せてくれてたのですが、今回の『Laurel Hell』も基本その路線を踏襲してます。全体的には「Stay Soft」や「The Only Heartbreaker」といったようなシンセポップな楽曲が多いよようですが、「There’s Nothing Left For You」のようにオルタナ・ロック・シンフォニーとでもいうようなドラマチックな構成の曲もあったりして、それが全体アルバムの中でトータル感を持っているような気がします。しばらくはパワロテで聴き込むと思うので、何となく自分の今年前半のアルバムランキングの上位に入って来そうです

今週もう一つのトップ10の話題は、ザ・ウィークンドの『Dawn FM』(先週2位→6位)とベスト盤の『The Highlights』(8位変わらず)がこれで5週連続トップ10内でそろい踏みという、2017年以来の記録を達成したこと。2017年の記録は、アカペラ・グループのペンタトニックスが2枚のクリスマス・アルバム『That’s Christmas To Me』と『A Pentatonix Christmas』で2016/12/17-2017/1/14まで5週トップ10内併走した、というもの。季節もの以外のアルバムでいうと、ジャスティン・ビーバーのデビューEP『My World』とそのリミックス・アルバム『My World 2.0』が2010/4/10-5/8に記録して以来12年ぶり、ということになります。しかし3組ともそれぞれ違うパターンで記録達成しているのが面白いですね。

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さて今週はまた11位圏外100位までの初登場は2枚と地味な週になっています。まず14位に初登場、もう少しでトップ10を逃してしまったコーンの14作目になる『Requiem』。コーンは1996年のセカンドアルバム『Life Is Peachy』(3位)から前作2019年の『The Nothing』(8位)までオリジナルアルバムは12作連続トップ10入りしてたんですが、今回でその連続記録が途絶えてしまいました。でも逆に考えると、90年代後半から2000年代にかけて一時期一世を風靡したリンプ・ビズキットステインドアーロン・ルイスはしぶとく生き残ってますがw)、リンキン・パークといった他のニューメタルバンドたちが今や音沙汰がなくなって久しいことを考えると、今もコンスタントにアルバム出してつい最近まで必ずトップ10に送り込んでたっていうのはある意味スゴいことかも

ざっと聴いた感じでは、『Follow The Leader』(1998年1位)とか『Issues』(1999年1位)とかの絶頂期の頃のパワーとヘヴィーでキャッチーなサウンドは充分健在で、メディアの評価も高いようです(メタクリティックも77点付いてます)。これ、普通に聴いてメタルファンだけでなくハードロックファンでもカッコいいと思うんじゃないかしら。

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そして今週のもう1枚の圏外初登場は、こちらもトップ10来るんじゃないか、って先週言ってた、最近メンフィス勢の台頭でサザン・ラップ・シーンの中心としての地位が怪しくなってきた感もあるアトランタのラッパー、2チェインズの7作目『Dope Don’t Sell Itself』の23位。彼も5作目の『Rap Or Go To The League』(2019年4位)まではデビューから5作連続トップ5にアルバムを送り込んでいたんですが、前作『So Help Me God!』が15位、そして今度の23位と何やら凋落傾向モードに入ってます。

まあここ最近は人の作品にフィーチャーされる形で見聞きするパターンがほとんどで、彼自身がメインでクレジットされてるトップ40ヒットとなるとウィズ・カリファとやってた2013年の「We Own It (Fast & Furious)」(16位、あの映画の挿入歌ですね)以降ないんですよね。今回もこのアルバムからHot 100には1曲も入ってないようだし。てことは、おそらくストリーミングがあまり稼げてないという、ヒップホップ・アーティストには致命的な状況なんでしょうね。だからこういう順位になってる。今回のリリースに当たって彼はソーシャルメディアで「これが最後のトラップ・アルバムだ!」と言ってたそうなんですが、次作以降どういうスタイルで勝負するのか、それが吉と出るのか凶と出るのか。

ということでいつものように今週のトップ10おさらいです。こうしてミラベルと他のアルバムのポイント数や実売を見比べるとその安定感とバランスが半端ないのがわかりますね(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (11) Encanto - Soundtrack <110,000 pt/17,000枚>
2 (3) (5) DS4Ever - Gunna <47,000 pt/29枚*>
*3 (-) (1) CM10: Free Game - Yo Gotti <46,000 pt/15,000枚>
4 (4) (57) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <41,000 pt/1,362枚*>
*5 (-) (1) Laurel Hell - Mitski <36,000 pt/24,000枚>
6 (2) (5) Dawn FM - The Weeknd <35,000 pt/6,000枚>
7 (7) (23) Certified Lover Boy - Drake <35,000- pt/81枚*>
8 (8) (52) The Highlights - The Weeknd <34,000 pt/1,381枚*>
9 (6) (12) 30 ▲3 - Adele <32,000 pt/12,000枚>
10 (9) (33) Planet Her - Doja Cat <32,000 pt/571枚*>

さて今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後に恒例の来週の1位予想。集計対象期間は2/11-17ですが、今回はトップ10入りしそうな作品が結構多いですねえ。今週のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演したスヌープ・ドッグメアリー・J・ブライジ、フローレンス+ザ・マシーン(先週も名前出しましたがリリースがズレたようです)、ジョス・ストーン7年ぶりの新作など盛り沢山。個人的にはピッチフォークが9点付けたビッグ・シーフの新譜も今週のミツキのようにブレイクしてトップ10入りするんじゃないかと睨んでるんですが。ただ、ミラベルも先ほど見てもらったように10万ポイントをなかなか割り込んできそうにないので、やっぱり来週もミラベルが6週目の1位を維持しそうな気がします。ではまた来週。

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