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今週の全米アルバムチャート事情 #215- 2023/12/23付

今年もいよいよラス前の週。今週末はクリスマスで盛り上がる人も多いと思いますが、そんな忙しいところ、自分はお休み頂いて富士山が眼前に迫る露天風呂の宿にカミさんと行って来ました。一年の疲れや垢をもろもろ落として、気分一新、今年の最終週に臨みます!

"Pink Friday 2" by Nicki Minaj

さて今週こそは先週の予想に違わず、228,000ポイント(うち実売92,000枚)という貫禄のポイントを叩き出したニッキー・ミナージの5作目『Pink Friday 2』が堂々の1位初登場。これで『Pink Friday』(2010)、『Pink Friday: Roman Reloaded』(2012)に続く3作目の全米ナンバーワンを達成、女性ラッパーとしてはそれまで同じ2枚のナンバーワンを持つフォクシー・ブラウンを抜き去って最多ナンバーワン単独首位を決めてます。また、彼女のこれまでのオリジナル・アルバム5枚全てが全米1位か2位かという圧倒的なチャート実績を継続、カーディBミーガンなんかとはまだまだ格が違うわよ、という感じの貫禄のチャートアクションですね。

そして今回のアルバムリリースにあたっても、ニッキーはなかなか周到なマーケティングを展開していて、今回も恐らく狙って1位を取りに行ったのではないかと睨んでます。具体的には(1)ブラック・フライデーの影響もなく、大物の新譜がほとんどドロップされない12月第2週リリースとしたこと(従ってチャート首位のライバルがいない)、(2)昨年Hot 100で1位初登場のシングル「Super Freaky Girl」など、既にヒットしたシングルを今回メイン楽曲として収録していること(従ってストリーミングポイントが稼げる)、そして(3)12/8のリリース日以降、Kポップ顔負けの複数パッケージ・バリエーションや数回に分けての追加ボートラ入りデラックスバージョンを次々にリリースしたこと。特に(3)は徹底してて、リリース日金曜日に10曲入りスタンダードバージョンのCDとニッキーのサイン入りCD+ヴァイナル4種類、そして22曲入り拡張デジタル版をリリース。翌月曜日には「Beep Beep」の50セント入りバージョン入りの23曲デジタル版、火曜日にはモニカキーシャ・コールをフィーチャーしたバージョンの「Love Me Enough」入りの23曲デジタル版、水曜日には22曲のジャケ違い版、そして木曜日には月曜版と火曜版のボートラ両方収録の24曲決定版バージョンをドロップと、この一週間通じてマシンガンのようなマーケティングを展開。ことアグレッシブなマーケティングで有名なヒップホップや最近のKポップでもこれだけコンテンツを武器にしたやり方は前例がなく、今後同様のやり方をフォローするアーティストが増えるかもしれません。内容についてはいつものニッキー節全開で、音楽メディアのウケもいいようです。ニッキー見事に2023年有終の美を飾ったということですな。

"Think Later" by Tate McRae

今週もう一枚のトップ10内初登場は、66,000ポイント(うち実売8,000枚)で4位に飛び込んできた、先頃シングル「Greedy」が初トップ10ヒットになったテイト・マックレイのセカンド・アルバム『Think Later』。デビューアルバム『I Used To Think I Could Fly』(2022)は13位(全英7位)だったので、今回アルバムの方も初のトップ10達成ということになります。前作がヒットメイカー達をプロデューサーに迎えた、キャッチーなロックよりのポップ・クイーン的な押し出し方だったのが、今回サウンドを大きくエッジーな方向に舵を切って、ヒットした「Greedy」なんかに代表されるようにちょっとオルタナR&Bポップっぽい感じになってますね。プロデューサーも今回は当代一の先進的ポップ・メイカー、ワンリパブリックライアン・テダーがメインで入って、かなりこのサウンド面についても彼のサポートで意識して大きく変えたと彼女自身も言ってますので、その狙いはある意味見事に当たった、ということなんでしょう。

ただ個人的には前作のように、ビートの効いたキャッチーなナンバーや、ピアノ一本でエモに歌い上げるようなバラードを聴かせてくれていたテイト嬢の方が好みかなあ、という感じです。「Greedy」の大ヒットも、リリースと同時にTikTokにいろんなサウンドパターンをアップしてプロモーションしたのがフォロワーを呼んでバズった、というのが大きな要因だったようなので、本当に楽曲自体の魅力というかその辺がどれだけあるのか、というとうーん、共作者でプロデューサーのライアン・テダーが巧く商売した結果なのかなあ、と思ったりもして。何となくKポップのガールグループのなぞりに聞こえてしまう「Hurt My Feeling」とか、現在ヒット中の「Exes」とか、彼女の普遍的個性的魅力みたいなものがあまり聞こえてこないような感じなのがちょっと残念。もっとも、今回は歌詞にもかなり力を入れて、自ら新世代の女性エンパワーメント・ソングだという「Greedy」を始め、テイト自身もかなり曲作り、特に歌詞に時間を使ったらしいので、サウンドだけで云々するべきではないのかもしれませんが。

"Rebel Diamonds" by The Killers

2023年ラス前のアルバムチャートは、圏外11位から100位までの初登場もたった1枚と寂しい状況でした。その1枚は74位にエントリーしてきた、ザ・キラーズの2枚目のベスト盤『Rebel Diamonds』。彼らのオリジナル・アルバムは、全米で7枚すべてトップ10だし、今回もトップ10入りするだろうと予想したのですが、全く大外れ、残念な順位になってます。ちなみに彼らはラスヴェガス出身のれっきとしたアメリカのバンドですがUKでの人気がすこぶる高く、今回のこのベスト・アルバムもUKでは今週初登場1位、UKでの通算8枚目の1位を記録してます(全米ナンバーワンは、2017年の5作目『Wonderful Wonderful』のみ)。

今回のベスト盤は全20曲収録で、ファーストの『Hot Fuss』(2004年7位)からこの間の『Pressure Machine』(2021年9位)までの過去の7枚のオリジナル・アルバムからまんべんなく選ばれているところにシングルのみ発売の「Boy」「Your Side Of Town」の2曲と、新曲「Spirit」を収録するという、キラーズの歴史を俯瞰するには絶好の選曲になってますので「キラーズ、名前は知ってるけどあんまり聴いたことがない」という人にはおすすめの一枚。いやあキラーズ、良いバンドですから是非聴いてください。彼らの場合、初期のサウンドから『Wonderful Wonderful』以降のよりハートランドっぽいサウンドに微妙に変貌しているあたりも如実に聞き取れるのではないでしょうか。

ということで今週の100位までの初登場はわずか3枚でした。今週の圏外は、初登場はキラーズのみで、通常は昔のアルバムがだいたい大勢再登場したりしてるんですが、今週はそれが一枚もないという、なかなか珍しいチャートになってます。一方Hot 100の方では、先週先々週と歴史的な1位を決めていたブレンダ・リーを蹴落として、クリスマス・シーズンの女王、マライアのあの曲「All I Want For Christmas Is You」が通算13週目の首位に返り咲いてます。これでこの曲、2019/2020年クリスマスシーズンから5シーズン連続で1位をマークしています。5回首位に返り咲くというのは、通常のチャートアクションでもない、もう不滅の記録ですねえ。この曲、この後何シーズン首位復帰を繰り返すんでしょうか。ではいつものように今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Pink Friday 2 - Nicki Minaj <228,000 pt/92,000枚>
2 (2) (7) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <109,000 pt/61,495枚*>
3 (3) (10) For All The Dogs - Drake <68,000 pt/144枚*>
*4 (-) (1) Think Later - Tate McRae <66,000 pt/8,000枚>
5 (5) (115) Christmas ▲6 - Michael Buble <64,000 pt/8,338枚*>
6 (4) (41) One Thing At A Time - Morgan Wallen <63,000 pt/4,120枚*>
7 (6) (60) Midnights ▲2 - Taylor Swift <57,000 pt/23,561枚*>
8 (7) (53) SOS ▲3 - SZA <53,000 pt/6,988枚*>
*9 (11) (225) Lover ▲3 - Taylor Swift <49,000 pt/18,042枚*>
10 (9) (177) Folklore - Taylor Swift <49,000 pt/24,513枚*>

年末にドーンとビッグなナンバーワンを決めたニッキー・ミナージが光った今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?さていよいよ来週は今年2023年最後のチャート、いつものように1位予想です(チャート集計対象期間:12/15-21)。しかし来週も年末のリリースの状況が寂しいこともあって、目立った新譜はなし。それどころか、先週のマシンガン・マーケティングの余波で、ニッキー・ミナージのフィジカルはダウンするでしょうが、ストリーミングは多分あまり落ちないと思うので、来週もニッキーが首位キープ、かくして2023年最後の2週間は彼女が独占するような、そんな感じがします。ではまた来週。

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