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獲得賞金の謎

イクイノックスの衝撃的なジャパンCから数日経った11月30日、同馬の引退が正式に発表されました。まぁそうだろうなと思いましたが、疲労が無ければ有馬記念まで行くような雰囲気だったので残念は残念です。


さて、今回はイクイノックスのジャパンC勝利で話題になった獲得賞金について私見をダラダラと書いていきます。

イクイノックスは獲得賞金歴代一位に躍り出たという記事がたくさんありましたが、メディアによって獲得賞金の解釈が違うケースが散見されます。それはそうでしょう。JRAのHPで探してみましたが、「獲得賞金」の定義を見つけることはできませんでした。検索で引っ掛かったのは、辛うじてウオッカが牝馬として初めて獲得賞金10億円を突破したという内容しかありませんでしたし、親分が定義をキチッと決めないせいで報道する側も見栄えが良い記事にするために大袈裟に数字を並べますからね。

この獲得賞金とはなんぞや?という点をハッキリさせない事には獲得賞金が高い低いうわぁスゴいと騒ぐのは難しいですし、誤解を招くことも多いでしょうから、獲得賞金の定義を決めて、そこから歴代の名馬の獲得賞金を見ていくのが比較、検証しやすいかなと思います。


■獲得賞金は本賞金と付加金

馬主に入る賞金は、一般的に本賞金と付加賞、それに各種手当を加算した金額です。主な賞金は内訳は下記でどうぞ。

・本賞金       1~5着馬に交付される賞金
・付加賞       1~3着馬に交付される特別登録料を案分した賞金
・出走奨励金     6~9着馬に交付される賞金等
・特別出走手当    出走毎に交付される手当
・距離別出走奨励賞  1~10着馬に交付される賞金(1800m以上)
・内国産馬所有奨励賞 1~7着馬となった内国産馬に交付される賞金

本賞金はJRAが出す賞金で、付加賞は登録料を案分した賞金ですが、この付加賞は馬主同士が出し合った賞金を奪い合うレースをステークスと呼んでいた時の名残りなんですね。だから、馬主が支払った登録料を勝った馬から順に分けているわけです。

そういう経緯から、獲得賞金とは本賞金と付加賞の合計を指すのが良いかと思います。出走奨励金などを含むと計算が非常にややこしいですし、海外にはそういうシステムはないハズなので、外国馬との比較という点からも獲得賞金には出走奨励金他の手当、賞金を加算しない方が良いでしょう。


また、当たり前ですが報奨金の類は獲得賞金には含みません。競走とは関係ないところの話ですからね。現在ある報奨金と言えば、三冠馬に3億(牝馬は1億)、春秋古馬3冠は2億(外国産馬は1億)、指定外国競走の優勝馬がジャパンCなどに出走した場合は10~200万米ドルなどがあります。


■イクイノックスは賞金王なのか

獲得賞金は本賞金と付加賞の合計額という定義が決まったところで、過去の名馬たちがどうだったか見ていきましょう。ここで紹介するのは、「過去の名馬たちの獲得賞金がいくらか」ではなく、「過去の名馬たちの獲得賞金を現在の賞金に置き替えたらいくらか」です。

そもそも論としてですね、賞金が多い=強い、すごいというロジックっておかしいと思いませんか。賞金は時代によって大きく違いますよね。それなのに賞金を基に過去の名馬と比較して歴代一位とか騒ぐのはナンセンスというか、賞金という上辺だけしか見ていないように思うのですよ。

例えば、タイトルホルダーの獲得賞金は9億8650万円ですが、この数字は5冠馬ナリアブライアンとほぼ一緒ですし、ディープボンドの6億9214万円は奇跡の名馬トウカイテイオーの6億2563万円より多いです。長距離GⅠ2つを含むGⅠ3勝馬は、5冠馬より強いのでしょうか?GⅠ未勝利の重賞4勝馬は、ジャパンCと有馬記念を制した牡馬クラシック2冠馬より強いのでしょうか?・・・そういう事です。分かりますよね。

だからこそ格付けのある重賞の勝利数で過去の名馬と比較するわけですが、でもそもそも獲得賞金を置き替えたらどの世代の馬でも賞金比較できるんじゃね?とも思うわけで、ちょっとそろばん弾いてみました。

前提条件は、
・2023年の賞金を使用(付加賞未確定のレースは加算無し)
・海外レースのレート
 米ドルとユーロ ⇒ フランスギャロが1月に発表しているレートを使用
 香港      ⇒ 11月末日の香港ドル18.9を使用
・GⅠに昇格しているレース
 昇格前最後のレースの賞金を使用
・施行条件が変わったレース
 そのままの賞金を使用
・廃止・休止されたレース
 同クラスの他レース(2歳OPなら2歳OP)の賞金を使用


多少のズレはあると思いますが、比較するには問題ないレベルでしょう。ではランキング形式で見ていきましょう。


■獲得賞金ランキング

 1位 テイエムオペラオー  32億2785万円
 2位 シンボリルドルフ   29億4270万円
 3位 ジェンティルドンナ  29億2538万円
 4位 キタサンブラック   28億9186万円
 5位 オルフェーヴル    27億9180万円
 6位 ディープインパクト  26億3589万円
 7位 アーモンドアイ    25億9364万円
 8位 ブエナビスタ     25億 594万円
 9位 イクイノックス    23億8286万円
10位 ゴールドシップ    23億1841万円
11位 ウオッカ       22億1336万円
12位 ゼンノロブロイ    21億1385万円
13位 パンサラッサ     20億1520万円
14位 ナリタブライアン   17億4430万円
15位 クロノジェネシス   17億3039万円


1位のオペはさすが世紀末覇王と言われるだけあり、8戦全勝の2000年だけで18億7242万円を獲得しています。頭おかしいとはこの事でしょうか。落ち目だった翌2001年でも7億ですから、やはり古馬王道は正義です。

2位は意外にもルドルフが入ってきましたね。レース数はそこまで多くないのですが、馬券圏内を外したことがない上に3冠馬+2年連続ジャパンC、有馬記念に参戦した点が大きかったです。そこら辺の名馬には負けない皇帝感が出ています。

3位はルドルフと僅差のジェンティルドンナでした。こちらも牝馬三冠にジャパンC連覇、ドバイSCに有馬記念と賞金の高いところをどっさり獲っていますので当然ですね。個人的には歴代最強牝馬だと思います。

4位はキタサンでしたねぇ。考えてみれば3歳からコンスタントに活躍していますからある程度は上位かなと思っていましたが、天皇賞・春や大阪杯など賞金が高くないレースが多いのに意外でした。有馬で3年連続馬券圏内が効いたのかな。

5位のオルフェはさすが牡馬三冠馬といったところでしょうか。凱旋門賞が2年連続2着でも3億以上稼いでいますが、国内専念したらもう10億ほど稼いでいても全然不思議じゃありません。そういう意味で実質1~2位ですが、夢やロマンを追うのは当然ですからこれでいいのです。

6位にやっとディープが入ってきました。繁殖ではヤバイくらい稼いでいますが、レースではそこまでではありません。まぁレース数が少ないので仕方ないですよね。でも4歳の一年で15億はさすがです。

7位は、みんな大好きアーモンドアイです。ニュースでは歴代最高賞金がどうとか言ってましたが、同じ条件にしてみたら大したことなかったです笑 GⅠ9勝は素晴らしいですが、獲得賞金が伸びなかったのはそのGⅠの格がそこまででも・・・ということでしょう。作られた名馬感がすごいですね。

8位は無事之名馬のブエナビスタでした。GⅠ2着が7度と勝ちきれない事が多かったですが、5歳までしっかり走ったのでここまでの金額となりました。馬券的にも安心できる一頭でしたね。

9位は現役最強だったイクイノックスです。10戦8勝で23億は十分頭おかしいですね。強いのは納得ですが、それだけに4歳、GⅠ6勝で引退するのは納得できません。手段と目的が入れ替わってませんか?と言いたい。歴代最強になるチャンスが十分あったのに、そこら辺の強い馬と変わらなくなってしまって・・・ホント残念です。

10位は暴れん坊将軍ゴルシでした。ホント計算すんの面倒でしたよ君は。6歳まで走ったものの一番印象に残っているのがゴルシワープの皐月賞という・・・でも、あれで内を回す重要性が理解できたと思いますし、有力馬で大外ぶん回しで届かなければ馬が悪いという騎手は無能だという事も理解できたので、そういう意味では花丸をあげたいですね。


こう見るとやはり牡馬三冠馬や有馬記念、ジャパンCなどの高額賞金レースで好走した馬が上位を占めています。短距離馬は全然入って来ず、ロードカナロアでやっと15.8億だったので、やはり中長距離が競馬の基本だという点が再認識できました。

また、メディアが散々騒いでいたアーモンドアイやイクイノックスの歴代賞金王という書き方が、上辺だけで見たものだって事が分かりますねぇ。もちろん記事を見てもらうためにそうしたタイトルを付けたり、誇張した書き方をするのは分かりますが、それを見たファンがそれをまんま信じてアーモンドアイ最強、イクイノックス最強と言ってしまうと、その記事の書き方は語弊がある書き方だと思うのですよ私は。過去の名馬に敬意は無いのか、と。

今はウマ娘などで過去の名馬を目にする機会が増えていますが、賞金という一部分だけにフォーカスして、ブエナ?ジェンティル?オルフェ?大したこと無くね?とか言われたら悲しくないですか。何事もバランスが重要ですからね。GⅠ勝利数も、獲得賞金も。


ということでいつも通り長々と書いてきましたが、ぶっちゃけ登録料は年によって違うので、付加賞も外して本賞金だけで見た方が分かりやすいと思いました。なんとも身も蓋もない言い分ですが、計算しててそう思ったんですもん。あと香港のレートもフランスギャロが発表すんのかな。JRAはもっと情報公開してもらいたいもんだな。


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