見出し画像

タンザニアのシングルマザーの人生を好転させる!ナプキン事業への挑戦

アフリカ東部のタンザニアでは予期せぬ妊娠により、退学そして家族にも見放されて、シングルマザーとして生きていかざるをえない女の子たちがいます。そんな女の子たちが再チャレンジできる社会を作るため、社会起業家の菊池モアナが現地で立ち上げた生理用ナプキン事業についてお話します。


妊娠で強制退学になってしまうタンザニア

――タンザニアでは若年妊娠が多いと初めて知りました。背景や現状を教えてください。

タンザニアでは15~19歳の女の子の妊娠率が30%近くにのぼります。ただし、幸せな話ばかりではありません。

予期せぬ妊娠でも法律で中絶が認められず、学生を妊娠させた男性は懲役30年という重い罰があるため逃げてしまい、シングルマザーになるケースが多いんです。さらに、妊娠した学生は強制退学という法律が2021年まであり、家族の恥と家庭から追い出されてしまうことも。

子どものいる母親を雇ってくれるところはなかなか見つからず、経済的にも精神的にも追い詰められて、命を絶ったり、性商売を選ばざるを得なかったりというケースも少なくありません。

――過酷な現実ですね。なぜ若年妊娠が多いのですか。

大きな原因のひとつは「貧困」です。

例えば、貧困家庭の女の子が学校の制服代や家族の生活費にあてるため、知り合いの家にお手伝いに行かされて、その家の男性に体の関係を迫られたとき、お金をもらえなくなることを恐れて断れずに妊娠してしまう。

家が辺鄙なところにあり片道3時間かけて歩いて通学している女の子が、帰りに疲れてバイクタクシーに乗せてもらい、お礼に体を求められるケースもあります。

貧しい暮らしを送る若年妊娠の女の子

――貧困によって避けがたい妊娠があると。

加えて、性教育が浸透していないため男女ともに避妊の知識が乏しく、知識はあっても避妊具を買う経済的余裕がない、NOという意思表示の仕方が分からないという問題もあります。

タンザニアでは、妊娠により退学させられる女の子が年間6,000人を超えると言われています。

私は大学時代にこの現状を知り、若年妊娠により退学したシングルマザーが貧困や孤独に苦しむ問題を解決したくて、ボーダレスに入りました。

ナプキン事業で解決する二つの社会問題

――大きな課題に対して、モアナさんはどんなアプローチを考えたのですか。

当事者たちに話を聞くと、復学を希望する人もいるものの、まずは今すぐにでも働いて自分と子どもの生活をどうにかしたいという人が大半でした。

そこで、託児所のある職場を提供しよう、しかも自己肯定感をなくして苦境にいる女の子たちが励まし合い前向きになれるコミュニティのような職場を作りたいと思いました。

――確かに職場がコミュニティになっていれば理想的です。

では、何をするか。現地の生理用ナプキンは質が悪く、質のいいものを製造・販売すれば全国で需要があり、各地に小さい工場を作って雇用を生み出せると考えました。

ナプキンについて調べる中で、貧困のためナプキンを買えず、生理中は学校を休んで授業についていけなくなる子や、ティッシュやスポンジで代用して学校で経血がもれてしまい、からかわれる子がいることも分かりました。

そこで、1パック売れるごとに、ナプキン1枚を貧困層の女の子に寄付できる仕組みにしました。そんな会社で働けば、自分が誰かの役に立っていると自己肯定感も上がると思ったんです。

――素敵ですね。どんな方法で販売するのですか。

先月ようやくライセンスが取れました。これからLUNA sanitary productsとして本格的にプロモーションする段階です。すでに契約が決まったサプライヤーが1つあり、都市部やスーパーで販売します。

また、郊外にある美容院やレストランなど女性たちが働く場所にシングルマザーの女の子たちが訪れ、そこでまとめて販売する方法にも手ごたえを得ています。

嬉しい展開もあって。販路を探しているときに出会ったお店のオーナーさんが小学校の先生で、うちの学校で性教育をやってほしいと言ってくれました。

実際に行くと、教育省のオフィサーが来ていて、学校の予算でナプキンを買い、地域全体で性教育をしてほしいと。今、県がLUNAのナプキンを購入し、貧困層の学校に無償で届けようという話が進んでいるところです。

学校に出向き性教育も行っている

――スタッフも自社雇用されるのですか。

実は今、手元の資金が減って会社の運転資金が足りなくて。2021年8月に事業を開始する予定でしたが、ナプキンを製造する機械の到着が9か月遅れ、事業のための数々のライセンス取得も想定の20倍以上の価格に引き上げられてしまって。

想定外のトラブル続きで、あと2か月で資金がショートしてしまうので、クラウドファンディングでご支援をお願いしているところです。

だからまだ正式な求人を出せていないのですが、「日本人が工場を始める」と噂が広まったようで、働きたいという人が毎日やってくるんです。連絡先を聞いていたら、1週間で200人以上のリストになりました。子どもを抱えてくる女の子もいて、本当に仕事が必要とされているのだと改めて実感しています。

――いいビジネスモデルができて、販売先や行政との連携も進んでいるのにピンチとは…。

このままでは次の素材を輸入できないのが、すごくもどかしくて悔しくて。でも、タンザニアのシングルマザーの人生を好転させられるモデルができたと自分でも実感しているので、どうにかこの難局を乗り切って前に進みます。

自らの経験を糧に、一人ひとりに寄り添いチャレンジを応援

――そもそもモアナさんはなぜこの事業を立ち上げようと思ったのですか。

中学生のとき平和教育に力を入れている先生に出会ったことで、国際協力に興味を持ちました。

平和へのカギは教育だと感じるなか、大学でタンザニアの教育事情を知り、子どもが退学する理由を調査したくてタンザニアに留学。そこで望まぬ妊娠により退学させられた女の子たちの切実な声を聞き、大きなショックを受けました。

なかでも16歳のアナは、学校でもトップクラスの成績で医師を目指していたのに、妊娠のため強制退学となり、ふたりで暮らしていたおばあちゃんから相手の家に行きなさいと言われ、相手の家族にも拒絶されて絶望し、自殺未遂を起こしていて…。そのときの私は、ただただ話を聞くことしかできませんでした。

――それはショックですね。

帰国後、私も在学中にまさかの妊娠が発覚して出産し、シングルマザーで必死に子育てしながら大学に通い卒業しました。

私は復学できたのに、夢を諦めてずっと苦しい状況にいるアナのことがずっと気になって、結局、アルバイトで貯めたお金でアナが私立の学校に復学できるように支援しました。

そして、同じような苦境に陥った女の子をサポートするために現地で事業をしようと決意し、ボーダレスに入社したんです。今はタンザニアで息子の父親であるパートナーと結婚し、家族3人とアナも一緒に暮らしています。

アナの復学をサポート

――最後に、ここまで読んでくれた方にメッセージをお願いします。

私自身が大学3年で妊娠と出産を経験しました。タンザニアの女の子たちの苦しみとは比べものにならないけれど、大人になる準備すらできていないのに親になってしまった不安や、シングルマザーの孤独感などを味わい、性教育の大切さや子育ての大変さを実感しました。

でも、だからこそ彼女たちの気持ちや、必要なサポートが分かるようになりました。私が多くの人に助けてもらった分、今度は私が彼女たちの力になりたいと本気で格闘しています。何としても難局を乗り越えて、事業を続け広げていきたいです。

今を生きるのに必死な女の子たちがここで働くことで生活を立て直し、前向きな気持ちになってほしい。一人ひとりがどんな人生を送りたいのか一緒に考えて、将来に向けて貯金もして、自分らしく生きる次のチャレンジを応援していきます。

取材・文=佐々木恵美

転載元:ボーダレスマガジン

採用情報


現在、ボーダレスでは世界13カ国で48のソーシャルビジネスを展開しており、新規事業開発やマーケティング・クリエイティブなど複数ポジションで採用強化中です。

カジュアル面談も受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。

●キャリア採用
●新卒採用(新規事業開発コース)
●インターンシップ

◇社会起業を目指す方はこちらをご覧ください

TOPICS
経済産業省の学生社会起業「ゼロイチ」をボーダレス・ジャパンが運営することが決定しました


この記事が参加している募集

この経験に学べ

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?