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唯一残った子育て方針

人生は思いどおりにいかないことだらけだということを私が本格的に思い知ったのは、大人になり自立してからでした。とくに子育てが始まってからは、びっくりするほど落とし穴だらけで、思いどおりにいったことのほうが少ないくらいです。失敗を繰り返しながら育てていく過程で、思い描いていたいくつもの理想的な子育て方針を諦め、独り善がりな「こうあってほしい」を捨て、気付けば上の子は中学2年生、その横顔からは、親の思いどおりになどなってたまるか、という気概すら感じます。

そんななかで、まだ諦めないで大事にしている、唯一といってもいい私の子育て方針は、子どもに「人生は楽しい」と思っていてほしいということ。少なくとも大人になるまでは、「いろいろあるけど人生って基本的には楽しいよね」と思って育ってほしいのです。その基盤さえしっかりとあれば、大きくなって理不尽なつらい目にあっても、「でも、この先には楽しいことがあるはずだ」という思いで、ある程度のことは踏ん張って、乗り越えられるのではないかと思うからです。

そう思うのは、これまで自分自身が、幼いころに得た「楽しい」に、ずっと支えられて生きてきたからかもしれません。大人に近づくにつれ、思いもよらない難しい問題にぶつかることが増え、そのたびうちひしがれて、もう何もかも嫌だと投げ出しそうになると、決まって心の中に幼い日の自分が現われて、「でも、それでも、人生って、生きるって、楽しいことのはずだよね!? ね!?」と、うちひしがれている私の胸ぐらをつかんで、力いっぱい揺すってくるのです。幼い日の自分が、人生に絶望しようとする大人の自分を、許してくれないのです。この葛藤はとても苦しいけれども、同時にこれまでずっと、私を生かす力にもなってきました。

だから、わが子も、いつか壁にぶち当たったとき、絶望にのみ込まれてしまわないよう、幼いうちにできる限り「人生は楽しい」と感じられる経験を、たくさん得てほしいと思いながら育ててきました。子どもが大きくなるにつれて親がしてやれる楽しいことはどんどん限られてきたけれど、とにかく、楽しい場所に行ったり、楽しい物語に触れたり、楽しいゲームをしたり、楽しい会話をしたり、子どものうちにできる楽しいことをたくさん吸収しながら育って、「人生は楽しい」という基盤をなるべく頑丈にしてから大人になってほしい。それが、思いどおりにならなくても何とかここまで残ってきた、私の子育て方針です。