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アメリカ・ボストンでいかに起業するか。シナリオと計算から生まれる踏み出す力。アメリカで戦う挑戦者 Vol.4

自己紹介をお願いします

Oyama Investmentsの代表をしています大山幸子です。ボストンのブルックラインで投資家向け不動産を扱っております。ボストンには日本の高校卒業後すぐに、バブソン大学に通うために来ました。高校生の時、MITのサマースクールに参加しました。その時、ホームステイ先の家族と知り合い、彼らは私の実家が事業を営んでいることを知り「ビジネスをするのならハーバードかバブソンが良い」と勧められました。その時、このまま親の事業を継ぐ人生でいいのかなという葛藤があったこともあり、日本の大学ではなくバブソンへ行くことを決意したのがきっかけでした。

しかし、こちらに着いて学校に通い始めた後、学校で学んでいる内容が実際に役立つのだろうか、どのようなメリットになるのだろうか、などいろいろと疑問が湧いてきたため、実際には半年ぐらいしか大学に通いませんでした。大学を辞めた後、自分でなんとかしなくてはならない状況になり、最初はものすごい数の履歴書を出したことを覚えています。何百通もです。しかし、見事に全て断られました。そうなったら自分で仕事を起こすしかないじゃないですか。もうそれしかオプションがなかったのです。

「自分の仕事を起こすために、何をしなくてはいけないのか? 私には何ができるのだろうか?」と悩みました。ただ何ができるか分からないから、何でも屋さんをやろう!と考えて、何でも屋さんを始めました。インターネットを使える時代ではなかったので、毎月発行されている日本語のフリーペーパーのようなものに、まず広告を一つ出稿しました。すると何件か電話がかかって来たのです。例えば犬の散歩をして欲しい、どこどこにこれを取ってきて欲しい、ウェイターが必要だからウェイターを手配して欲しいといった依頼です。その人たちの依頼に応えていくうちに、リピーターになっていただき、そして気がつけばすごい速さの口コミで仕事の依頼が増えていきました。
結構な需要があったのですが、自分の体を動かす時間は限られています。犬の散歩はできますが、散歩をしている間に他の用件は入れられない。そうなってくると人を雇わなくては多くの依頼に対応していけないのですが、人を雇うのは大変なものです。まだ私の年齢が20代前半だったこともあり、何をどう回せばいいのかよく分かりませんでした。そのため結局3年でこの事業は辞めてしまいました。
その後弁護士事務所などを転々としたのですが、ある方から「リアルエステートをやってみるのはどうか?」と勧められたことがきっかけで、ライセンスを取りました。いわゆる日本で言うところの宅建です。やると決めたらやるタイプなこともあり、あっさりと取れてしまったんですね。それから不動産業界に入りました。最初はイーストボストンの物件を扱う不動産屋に入社しました。その後二つの不動産屋を経験した後、自分の会社を始めます。そろそろ自立する時かなと思っていたタイミングで、在籍していた会社が買収されてしまい、もうこれもいい機会だと思って、その会社を離れて起業することにしたのです。

Bostonにおける屈指のデベロッパー Marvin Gilmore氏との一枚。
彼との出会いが現在の仕事の方向性を決めた。

起業されたビジネスの概要を教えてください

不動産屋の中でもインベスターをお手伝いするタイプの不動産屋をやっています。お客さまは投資家、つまり家のオーナー、大家さんです。そのオーナーさまに物件を紹介したり、借り手を紹介したりします。借り手の方は他の不動産屋を通じて連れてきてもらう場合が多いです。

最後に在籍していた3社目の不動産屋はいわゆる普通の不動産屋さんでインベスター専門の不動産屋ではありませんでした。ただオーナーさまの手助けをするうちに、少しずつ私を指名してくださるお客さまが増えていったのです。ありがたいことに「ゆきこに電話をすれば何とかしてくれる」といった噂が広がっていったのです。オーナーさまの中には家主業が本業の方もいらっしゃいますが、多くは別の職に就いて、その仕事で働いて一生懸命やりくりしたお金を活用してオーナーさまになっていらっしゃいます。そのためどの様に物件を取り扱えばよいか分からない方が多いものです。オーナーさまと話をしていると中には自分の貸している物件の契約がいつ切れるかを覚えていらっしゃらない方もいますし、もうやっていらっしゃることが無茶苦茶な方もいらっしゃる場合もあり、いつの間にか「もう私に全て任せなさい!」みたいな感じになってやりとりをしていました。そうしたことを1件1件とやっていくうちにお客さまの輪が広がっていきました。紹介、紹介でお客さまが増えていきました。それが起業につながりました。もともと自分でやった方が自分の性に合っているという感覚は前からありましたし、どこかのタイミングで自分でやろうかなとは思っていました。24歳のときにアメリカで事業を立ち上げていますし、3社目の不動産屋に入社する前にはカリフォルニアで友人のビジネスの立ち上げを手伝ったこともあり、結局私はこういうスタイルが向いてるのだという感覚はありました。

オーナーさまは初めの一軒を手にして家賃収入が入ってくる様になると、2軒目を買いたくなるものです。そして2軒目を自ら調べる方もいらっしゃいますし、我々に提案を依頼される方もいらっしゃいます。そうした中、我々の特徴ははっきりとオーナーさまに我々の意見を伝えることです。この仕事はコミッション制のため、オーナーさまに物件を紹介してはじめて売上につながります。そのため他のエージェントによっては、オーナーさまに脚色して話をするところもあります。大した物件でもないのに、この物件は買った方がいいよと言うのです。私たちはたとえオーナーさまが買いたいと言ってきた物件でも、自分たちが大したことのないと判断した場合には「買ってはいけません」とはっきりと伝えます。なぜなら買ったとしても借り手がつかないからです。そのため「後で貸すのが大変ですから、買わないでいただきたい」と伝えます。

私たちのオーナーさまは外国人の方が多いです。元々ボストンに住んでいて、色々な事情で国に帰らなくてはいけなくなった。ただ物件があるから活用したいものの、遠く離れているから自ら何かをできるわけでもない、という状況の方々です。そうしたお客さまが少しずつ増えてきたのも、オーナーさまとのリレーションシップの一言に尽きます。長い方ではもう15年や18年といったお付き合いになります。始めてお会いした時には当時まだお子さまがいらっしゃらなかったのに、お子さまが生まれて、もう高校生になっているというお客さまがいらっしゃいます。本当にありがたいものです。我々の営業活動は既存顧客のフォローをしっかりとすることです。そしてその方々に我々のサービスを良いと思っていただけたら新しくオーナーさまを紹介してくださる。そういう風に仕事が広がっていきました。こうした口コミ・紹介で広げてきたこともあり、マーケティング・新規の営業開拓というものはしていません。ただそこが少し悩みの種です。少しはそういうことにも着手した方が良いのかなと考える時はあります。

主人(左)とアメフト選手のTom Brady氏(右)。
Tom氏の親戚がご近所のため何度かお会いされている。彼からは他人を尊重する姿勢など多くの事を学ばれている。

起業に踏み切るときに不安はありませんでしたか

3社目を離れる時に、当時お付き合いをしていたオーナーさまが皆さんついて来てくださるかどうかという点に不安を感じていました。本当に不安でした。私はワーストケースシナリオを考えることが多く、その時はオーナーさまが全員いなくなってしまう想定を考えました。まずそこから考えが始まるのです。全員お客さまがいなくなってしまう、さあどうしよう。そこから一歩一歩考えていきます。そうすると、片一方の頭が、いやそこまではないだろう、さすがにゼロはないだろうという風に考えが進んでいきます。
では何割のオーナーさまが私についてくださるか?と割合の計算をしていきます。3割のオーナーさまがついて来てくださったらどのくらいの収入が見込めるのか。5割だったらどのくらいの収入なのか。そう言う風に考えていくと、悪くないかもしれないと思えてきます。これならできると思って踏み出したことを覚えています。

ただやはり最後まで結構不安になりました。家賃を払わなくてはいけないですから。当時からボストンの家賃は高い。車もありましたし、それらの出費も勘定して、オーナーさまが3割の場合だったらこれだけ足りないといった形で、ずっと頭の中で計算、計算、計算。何も考えずに、何とかなることはありません。何とかはならないものです。
ただ期間で言うとそこまで長く考えてはいません。2週間ぐらいで決断をしたと記憶しています。どこまでいっても最終的にはやってみないと分からない。ただやってみなくては分からないとはいえ、どうにでもなるというよりは、ちゃんとワーストケースシナリオを考えた上で、駄目だったらどこかでアルバイトをして働けばいいというところまで決めて、始めました。
結果的にはオーナーさまは全員ついて来てくれました。心配する必要はなかったのですね。あの悩んだ時間はなんだったんだろうと後で思ったことを思い出します。

何かゴールを叶える時、まず状況をしっかりと把握するものですよね。その後はほとんど計算が全てだと思っています。
アメリカでモチベーションをテーマに講演をしている方がいるのですが、その方が言うのが、結局まずいつまで生きたいのかを先に決めること、そしてそこから逆算して日にちで割ってやることを決めていく。そうすると日々のゴールが見えてくるのです。ですから、例えば100歳まで生きると決めてしまう。そして何歳まで働きたいのかを決めて、その時にいくらの収入が必要かを考えて、それを細かく計算していくと、大体1日にいくら稼げばいいのかが分かってきます。そうやってロジカルに考えると道が開けるものだと思います。

チームはどのように作っていかれたんですか

3社目に在籍していた不動産屋で買収の話が出た時、5人ぐらいで一緒に辞めたのですが、そのメンバーに「私の会社に来ない?」と聞きました。ただ最初はみんなに断られてしまいました。「ちょっと考えさせて」といった返答をされたのです。ただその後1人だけ考え直してくれて一緒に来てくれました。その後しばらくしてからもう1人も来てくれて、事業をスタートしました。3人で1年程運営していました。そこからだんだん仕事は忙しくなってきて、もっと人が必要だなと思い、人を雇い始めました。求人サイトにも出稿をし始めて、若い方も増えていき、会社も賑やかになってきました。やっぱり若い人を入れないと、何が世の中で起こっているかよく分からない時があるので、そういう観点でも良いと思っています。
そして事業を始めて10年ほどになるのですが、10年後の今になって、実は3社目の不動産屋を退社した時に声をかけた5人が全員揃ってくれたのです。面白いものですよね。


陸上選手のCarl Lewis氏との一枚。
オフの日には、5Kやスポーツイベントに行かれている。

最後に、ボストンで働くおもしろさを教えてください

色々な本でも紹介されていると思いますが、イーストコーストで何かをやり遂げるというのは大変なものだと思います。特にボストンの方は相手に求めるレベルが高いというのは有名な話だと思います。以前フロリダから有名なレストランのシェフがボストンに出店することがきっかけで、ボストンに引っ越してくるお手伝いをしたのですが、その方が言っていたのが「フロリダのお客さんは楽しんで我々の食事を食べてくれるのだが、ボストンのお客さんは少し不満があると”お金を払わない”と言ってくるらしい。だから自分が今回こちらにくる羽目になってしまった」と話してくれたことがあります。
その真偽は分かりませんが、いずれにせよ相手に求めるレベルは高いと思いますし、サービスを提供する側もよく働きます。例えばちょっと資料が欲しいと電話で話していたら15分後にオフィスに来ていたりするのです。契約に対してもきっちりしていて、細かいことでも契約書にこう書いてあるのだからそれは譲れない、といった話もあります。仕事をきっちりしますし、時間にもきっちりしています。その厳しさが面白いと言うのでしたら、ニューヨーク、コネチカット、ボストンは仕事をする場所として面白いのではないでしょうか。私にとってもここで働くのはよいチャレンジだと感じています。とにかくやらなくてはならない。そうでなければ、お客さまが私たちを選んでくれないという危機感が常にあります。

イーストコーストはカリフォルニアとは時間の流れが違うと思います。一度カリフォルニアでビジネスの立ち上げを手伝ったわけですが、その時は早く早く早くという雰囲気ではなかったです。フロリダやカリフォルニアはいい意味で結構みんなゆったりしているなと感じますし、みんなナイスだな、フレンドリーだなと感じます。一方ボストンでは、早く早く早くと、すごい流れで毎日が進んでいる印象です。
またこちらでは、働いていても突然今日辞めてくださいと言われることがあります。突然の解雇です。私が扱う物件でも、借り主の方が今日解雇になったので出なくてはいけなくなったという話があるものです。特にコロナの時はこういう話がたくさんありました。会社のプロフィットをつくれないのなら、さようなら、という厳しいビジネス環境です。ただいるだけで給料をもらえるようなところはない厳しさがあります。

その他にもこの地域の人たちのことを凄いなと思うことはあります。例えば機会に対する貪欲さです。私のお客さまが外国人が多いからなのかもしれませんが、「君はお金を作れるオポチュニティがあるのに、なぜお金を作ろうとしないのか」と言われることがあります。例えばネイルサロンを経営している知り合いがいるのですが、彼女は経営者でありつつ、オーナーで家賃収入も得ています。そして普段レクサスに乗っているのですが、そのレクサスを使ってUBER Eatsの仕事をしているのです。ある時話をしていたら、これからUBER Eatsで配達しないといけないので、といって去っていったことがあったのです。普通私たちの感覚では、仕事が終わったらどこに行こうかなと考えたりするのではないかと思います。しかし彼女は違うわけです。そのフリータイムの何時間を使って、もっとお金を稼ぐことに時間を使っているのです。ものすごいバイタリティだと思います。ネイルサロンのオーナーでありつつ、家賃収入があって、レクサスに乗っているのに、隙間時間にレクサスでUBER Eatsの配達をするのかぁと感心させられてしまいます。ここボストンではそういう人たちと張り合っているのだなと日々感じさせられます。フリータイムが出来たから旅行にでも行こうなどと言っていたら負けてしまうのは当たり前だなといつも思って毎日を取り組んでいます。


如何だったでしょうか。本シリーズはこれから随時更新予定ですので、次回の記事もお楽しみに!
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