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第十四話 『さよなら漆喰のお家』

前回までのあらすじ


 豪雨の後でGWにぼうぼうの庭で草刈りをする。紫陽花があちらこちらで開花の準備。燕が駐車場で巣を作る。

『さよなら漆喰のお家』


海岸の花


 湿気の中を一人海岸まで出た。日曜日。空はまだ明るいけれど日没も過ぎたし、時折霧のような薄い雨が降るためか人はいない。きっと昼間の早い時間のバーベキュー。名残が人気のない岩がちな海岸に漂っている。無人の浜を歩くと、ところどころに数時間前まで人が活動していた気配がある。残り香だけの誰もいない海辺は、影を置き去りにした人間がいるかのように景色に怪しさを付加する。

 闇の近付く海岸、庭でシャッターを切った。




 さまざまな降り方の雨が続いた6月の12日にこのnoteを書いている。ぼうぼうの庭では紫陽花が咲き、切花で行けたものは徐々に色が薄くなってきた。

 朝、駐車場に出る。フンにしては薄い白いものがある。顔を上げ燕の巣を見る。半壊している。側面にわずかに残った土の小さな家が昨日までそこに巣のあったことを告げている。振り返ると車の屋根の上に残りの半分が落ちている。
 地面の薄い白いものに目線を戻す。それは卵の破片だった。猫が屋根に乗り、巣に飛びついたのだろう。数秒間は壁に爪を立ててしがみつき、巣の一部を剥ぎ取るともう一度車の屋根へ飛び移った。
 そう思う。まだ抱卵する前の、建築途中の巣を猫が見ていたことを思い出す。車がない時は地面から。車庫に入っているときはその屋根に足跡をつけて。

 

 先日、叔母が来てぼうぼうの庭の鉢をいくつか持ち帰った。枯れかかっていた葉が梅雨で勢いを取り戻したものや何かを。


 ラジオをつけて車を走らせる。いつもの道。千葉が見える場所に今日は雲がおりている。もやと雲が海に寄り添いながらゆっくりと横へ進む。波打ち際は泡立ち、潮の飛沫が景色をぼんやりとさせる。
 助手席に置いた鞄からバナナを一本取り出して食べ、チャンネルを変え続ける。手すりにつかまってアキレス腱を伸ばしているおじいさんがいる。


fine 2023.06.12

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