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受験(ショートショート)

「この成績では厳しいな」
 進路指導の先生がそういった。この成績とは最近あった模擬試験の結果のことだった。志望校はE判定だった。
「志望校を1ランク落としたほうがいいな。いずれにしても共通テスト次第だろうけどな」
 共通テスト。なぜこの国の受験体制は1発勝負の博打みたいな体制なのだろうか。ましてやインフルエンザが流行る冬にやるなど、受験生に優しくなさすぎる。
 まあ今さらどうあがいても受験まで、あと幾日もない。
「とにかく最後の悪あがきで頑張ってみい」
 そう先生に言われて俺は進路指導室を出た。志望校は東京だが、国公立で受けられる大学は東大、東工大は別格として、あとは2校しかない。俺は理系だった。
 家庭の事情を考えれば、国公立しかなかった。理系は特に私立は入学金や授業料が高かった。
 東京に憧れるのは俺に限ったことではない。みんなある程度の成績がある者は東京の大学に行きたがる。東京には何でもあるような気がする。女の子も垢抜けている。
 それがE判定となると、田舎の大学に受験しなければならない。田舎の大学は、一部を除いて、何でこんなところにあるの、みたいなところにキャンパスがあったりする。もっとも繁華街に行ったところで、所詮田舎は田舎だが。
 共通テスト当日。雪が降って、試験時間が30分遅れた。俺は時刻通りに来れたからいいが、遅れた者は動揺しているだろう。
 2日間の試験が終わり、自己採点をした。思ったよりは悪くはなかった。第一志望の大学に滑り込めそうな成績である。
 そしていよいよ本番、東京に出て、ついに2次試験が始まる。試験開始後、すぐに地震が起きた。軽い地震だったが、地震には慣れていないので動揺した。東京人はみな地震には慣れているのだろう。平静を装っていた。もっともその平静を装っている人たちが東京人かどうかは知らないけれど。
 試験開始後、寒さのせいで、腹を壊したらしい。下痢だ。すさまじい便意が俺を襲った。俺は冷静に手をあげ、トイレに行かせてもらった。
 トイレにいって出せるだけ出したものの、覚えていたことも全て流れていったような気になり、席に戻っても落ち着かなかった。そのうち、今度は歯が痛み出した。奥歯だ。虫歯だろう。絶体絶命であった。得意なはずの数学であったが、そのため、碌に解けなかった。これでは合格はおぼつかない。
 試験が終わり、地元に帰ってきて、家ではお袋が待っていた。
「どうだったかい」と聞くので「地震にあった」と答えたら「自信があった」と聞き間違えたらしく「それはよかった」と答えた。
 前期の本番は数学が全然あかんやったから、駄目だろう。東京への夢は潰えた。まだ中期試験と後期試験が残っている。その前に俺は歯医者に行った。
 案の定、前期試験は不合格だった。歯医者に行ったら敗者になった。独りそんな洒落を考えて、落ち込んだ。
 中期と後期は両方とも受かった。ただ問題はどちらもクソ田舎にあるという点である。浪人は許されない。俺は中期に受けた大学に進むことにした。
 そこには垢抜けた女子大生は、ほとんどいなかったが、垢だらけで病原菌だらけの鹿はたくさんいた。
 

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