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魚町銀天街の美容院

 広島で独り暮らしをしている僕の母親が、もうじき89歳を迎える。お祝いに妻と一緒に新幹線で会いに行くつもりだ。
 妻が「お婆ちゃんのおうちに行く前に、白髪を染めに行かないと目立つ」といっていたが、妻が行きつけの美容院は魚町銀天街にあり、周知のように火事で燃えてしまった。ホームページを開いたら「しばらく休業致します」とのことだった。そりゃあそうだろう。
 困った妻は自分で染めると言い出したが、そんなことしたら、風呂場の回りが汚れて大変なことになりはしないかと心配している。
 近くに安い美容院があるのだが、いつも満員で、数時間待ちはザラなので、行くのに少々抵抗がある。以前僕もそこで、髪を切っていたのだが、カット690円は確かに魅力的ではある。坊主頭にすれば、なんと490円のワンコインである。髪染めは興味がないから幾らかはしらないが、カット代を考えたら、安くないはずはない。
「そこに行ったらいい」と無責任に僕がいったら、行きたくなさそうな顔をした。行きつけの美容院がいいのはわかるが、モエテシマッタノダ。全焼ではないかもしれないが、あの辺一帯KEEP OUTのテープが張られているのだ。
 どうするかは知らないが、どうかするのだろう。
 行きつけの美容院、幸い被害はあまりなかったようで、数日後、営業を再開した。妻はそこで髪を染めることができた。めでたし、めでたし。

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