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面接(ショートショート)

 ドアをノックすると、「どうぞ」との声が聞こえたので、ドアノブを回してドアを押した。そこには3人の面接官が長椅子に座っており、1人はウエルカムな表情で俺を迎い入れ、1人は俺の顔をを見るでもなく、机上の書類に目を落としながら、厳しい顔をし、もう1人は明らかに俺を困らせてやろうというような、苦虫を噛みつぶしたような表情で、俺を迎い入れた。
 それぞれ配役が決まっているのだろう。書類に目を落としたままの人が女性で、後の2人が男性であった。真ん中の席に座っているのは、その女性で、この会社での序列が一番上であることを示していた。
「東西大学経済学部4年、橘高薫22歳です。本日はよろしくお願いいたします」
 俺は直立不動になってそういった。
「お座りください」
 ウエルカムな面接官がそういった。多分この会社の人事部長か何かであろう。
「失礼します」
 俺はそういって、席に着いた。
「まずは自己PRをいってもらいますか」
 人事部長らしき人がそういった。
「はい、私は、」
 とそこまでいった時、慌ててノックもせずに男が入ってきた。
「失礼します。社長、いいですか」
 面接は中断され、女性の面接官、社長だったらしい、が呼ばれて部屋の外に出た。しばらく沈黙が続いた。
「すいません。何か、急用があったようなので。しばらくお待ち下さい」
 人事部長らしき人がそう言った。それを受けて、苦虫の面接官が俺に、
「折角だから、何か特技があったら見せてよ」
 といってきた。特技といわれても何を見せたらいいのか、ここでいう特技とは、サーフィンとかテニスとかではないだろう。ブレイクダンスとかバク転とか、そういうのをお望みらしい。俺は瞬時にそう感じた。だがそういわれても特別そういったことは何もできない。仕方なく
「では歌を歌います」
 といった。歌といっても最近流行の歌などは歌ってはならない。却って場をしらけさせるだけだ。俺は大学の校歌を歌うことにした。しかもなるだけ大声で少しコミカルに。
 苦虫の面接官には受けたらしい。これはしめた、と俺は感じた。好感度アップである。
 そこへ社長が戻ってきた。青い顔をしていた。まさかこういうコントでお決まりのオチ、会社が潰れたとかいうんじゃないだろうな、とヒヤヒヤしながら俺は待った。他の2人も心配そうな顔をしている。
 社長は俺に向かって申し訳なさそうに言った。
「大変申し訳ありませんが、急用ができましたので、本日の面接は延期とさせていただきます。本当に申し訳ありません」
 驚いたのは俺だけではない。他の2人も「えっつ」という声を思わず上げてしまった。
「折角きたのに残念ですが、せめて訳だけでも話してもらえませんでしょうか。このままでは帰れません」
 思い切って俺が言った。
「それはご勘弁下さい。本日は本当に申し訳ありませんでした」
「それでは仕方ありません。帰ります」
「人事部長、後はよろしくお願いします」
 社長に言われ「はい」と答えたのは、やはりにらんだ通りの男であった。
俺は今後のことを後日連絡するといわれ、不承不承帰ることにした。
 ドアを開けて外へ出ると沢山の外国人に取り囲まれた。彼らは俺と入れ替わりに一斉に部屋に入っていった。ああ外国の企業にでも乗っ取られたのかな、と思った。
 俺が門を出た瞬間、大きな爆発音が聞こえた。警察や消防車がほぼそれと同時に大量にやってきた。本当に乗っ取られたようだった。

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