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メンコ

  小学6年生の時に愛知県から転校してきた友達がいた。小倉君といった。彼は愛知県の名古屋から転校してきたにもかかわらず、巨人ファンであった。しかも巨人ファンのくせに、ドラゴンズの選手のメンコを6枚も持っていた。
 「それが欲しいからおくれよ」と僕はまるでジャイアンのごとく彼に請求した。当然ながら彼は拒否した。だからといって「巨人ファンのくせに生意気だぞ」とはいわない。
 巨人ファンなりにレアなグッズを持っていることをただ自慢したかっただけだったのであろう。広島でドラゴンズの選手のメンコを学校に持ってきて自慢したところで、興味を示すのは僕ぐらいしかいなかった。僕がいなければ、誰も興味を示さず、彼は淋しい気持ちにきっとなっていたに違いない。ところが一人だけそのメンコを垂涎の的として見ている男がいる。彼の優越感は満足しただろう。
 それにしてもそのメンコが欲しかった。そうだ、元祖デュアルカードといってもいい、メンコである。勝負すればいい。そして堂々と勝って奪い取ればいいのだ。だがそれをしたら下手をするとメンコのヘリがめくれてしまう。せっかく綺麗な状態で持ってきているメンコなのに。でもそれ以外正当な方法で奪い取ることはできない。
 小倉君は最初渋ったが、勝負とあらば、受けねば男ではなかろう。結局勝負することになり、全てのメンコは、やや傷んだ箇所ができたものの、僕の所有物となった。
 星野仙一、高木守道、谷沢健一、島谷金二、井上昭夫、木俣達彦、多分この6枚で全部だったと思うが、欲しいものは手に入れるのが俺様の流儀なのだといわんばかりに喜んだ。小倉君は目を潤ませていたが、巨人ファンではあったので、そこまで固執もしていなかったようで、次の瞬間は忘れたように振舞った。
 そのメンコは今どこにあるのかわからない。実家のどこかにあるように思うのだが、母親が捨てたかもしれない。今メルカリに出品したら幾らくらいで売れただろうか、新品ではないので、あまり価値はないのかもしれないが、気になるところではある。

 

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