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池島炭鉱

 池島炭鉱をご存じだろうか。ブラタモリで数年前、紹介されたことがある。
   軍艦島のほうが有名になってしまったが、あちらは天気によっては、上陸できるかどうかもわからず、行ける場所も限られている。
 それに比べ、池島は自由に行き来できるから、廃墟マニアには、絶対こっちがおすすめである。
 池島は九州で最後の炭鉱の島である。2001年まで活動していた。今は1日数10人の観光客を相手に炭鉱ツアーをする人や、宿泊所(公民館か合宿所みたいなところ)を経営する人、島唯一の食堂「かあちゃんの店」を営む人、銭湯を経営する人、くらいしか見ていないが、大きな小学校があり、どうやらまだ使ってるっぽいので、まだ他にも住んでいるようではある。
 海上タクシーで上陸して、しばらく上り坂を歩いていく。夏の暑い日にいったので、妻が私に悪態をつく。やっと上り坂を上り詰めたところに商店と郵便局があり、といってもあるだけで、廃墟であるが、その横に今晩の宿泊所があった。
 そこに荷物を預けると、街の散策に出かけた。炭鉱アパートがズラリと並び、さすがに部屋の中までは入れないが、廃墟好きにはたまらない構図がある。雑草が茂り、草はコンクリートの建物に張り付いて、甲子園球場のような体裁のものもある。
 しばらく歩くと「かあちゃんの店」をみつけたので、そこで夕食のちゃんぽんとビールを飲んだ。情報を集めるべく話を聞くと、炭鉱ツアーというのがあるらしい。だが明日、それに参加すれば、予定していた帰りの船に間に合わなくなる。どうしたものかと話していると、途中抜けOKということだったので、ツアーへの参加申し込みを電話でした。朝飯と昼飯の分の弁当を「かあちゃんの店」で注文した。ここで頼まないと他にはないのである。
 小さな公園があり、夾竹桃が咲いていた。「こいつは毒がすごいんだ」と一緒に来ている息子に教えた。そこを右に曲がると銭湯があった。ブラタモリで紹介のあった仕事場の風呂じゃなくて、今も経営している銭湯である。
 中に入ると、ちゃんと番台もいる。カネを払って湯船につかる。全体がタイル貼りでできており、約12畳くらいの広さ、湯船の真ん中に島があり、そこに上がって、足湯をしたり、寝転がったりして話をしていたのだろうかと思われる。
 風呂から出て、散策は続く。道々猫が多い。人間様の数より多いのではないかと思われる。
 商店と郵便局の間の狭い路地があり、そこから急な下り坂になっている。その両側に、バーとかスナックがあり、一種の飲み屋街を形成していた。
 ガラス窓越しに見ると、グラスやビール瓶などがあり、何もかも、そのままにして、立ち去った様である。
 宿泊所に戻り、寝る。窓を開けると涼しい風が入ってきた。エアコンはいらなかった。というよりなかった。
 翌朝、「母ちゃんの店」で弁当を受け取り、炭鉱ツアーに出かけた。トロッコで洞窟の奥深く入っていき、元炭鉱員の人が説明をしてくれた。それはそれで興味深かったが、昨日の廃墟の印象のほうが深く心に刻まれており、オマケな感じがした。途中退場OKといわれたが、少し顰蹙をかいながら我々はその場を後にした。
 帰りはフェリーである。
 つわものどもが夢の後。そんなことをふと口ずさんでみたりした。


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