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場末のラブホ、ファミチキを咥えたまま泣く女

付き合って半年。だらしない姿を見せることに抵抗がなくなってきた。

いわゆるマッチングサービスで知り合った25歳のアオイ。音楽の趣味とお互いガツガツしていない雰囲気がマッチした。
10月中旬、上野駅にやってきたアオイは思ったよりも小柄で、前分けのショートボブ、ボーイッシュ且つ、憂いさと少女の様な可憐さも残す落ち着いた顔立ちを持っていた。アパレルの販売員だけあって、身に着けているものも洒落ている。大きめのベロアコートにロシア帽を被り、足元にはスニーカー。
ステキ!!気分はさながらTahiti80だった。

心地よい緊張感とともに予約していたお店へ向かう。老舗の佇まいで程よい混雑具合。アオイは梅酒、私はビールを。音楽、映画、本から始まり、好きなタイプ、性癖、過去最低最悪な恋愛の話まで。アオイはこちらの話題には常にニコニコして、くだらない冗談にも気前よく大口を開けて笑い、自分の事になると少し遠慮がちに話す。本当にステキだった。
30歳を迎えた私、とてもご機嫌で、帰りの総武線に揺られながら流れてゆくビルの上に忍者を走らせた。


付き合って半年。だらしない姿を見せることに抵抗がなくなってきた。

福岡に行くことはずいぶん前から決めていた。アオイにはまだ打ち明けていなかった。
昔ながらの居酒屋、ひなびた喫茶店、場末のラブホ。二人にとっての「映え」スポットである。その日も、わざわざ早起きをして歌舞伎町にあるラブホへ行くことに。途中、ソフトバンクのキャンペーンでもらえるファミチキを抜け目なくもらうアオイ。普段は控えめだけど、食べ物に関しては少しだけ前のめりなんだよね。
場末だけあってお部屋の畳には大きな染みが。なんの染みだろうね?なんて言いながら座布団に座りファミチキを頬張るアオイ。
今日話すと決めていた。後手に回らないように切り出す私。

「あのさ、話があるんだけど。」

口の動きは止めず、目線だけで返事をするアオイ。

「福岡に転職しようと思うんだよね。」

数度の咀嚼、ファミチキを頬張る口が止まり、しばしの静止。
ファミチキの油が垂れる。違う、アオイの目から涙が流れている。
ふり絞るように小さな声で一言

「かなしい。」


付き合って半年。だらしない姿を見せることに抵抗がなくなってきた。

3月下旬、新宿歌舞伎町、場末のラブホでファミチキを咥えたまま泣く女の姿がそこにはあった。




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Tahiti 80 - Heartbeat
長髪のイケメンが椅子に座ってクルクル回る、誰もが納得の超名曲。


くるり - 琥珀色の街、上海蟹の朝
アオイと私が出会った、上野の蓮根屋さんで散々話題にした
愛くるしいマムアンとは裏腹に、刺さるメッセージを連発する名曲。
失恋、片想い中に特に響く。


Daft Punk - Something About Us 
男と女は二人にしかわからないシリアスでいっぱいだ。
二人が向き合う機会をきちんと設けよう。
でないとファミチキ咥えた女に泣かれるぞ。注意しろ!

音楽、自由、恋人が同じくらい好き。 お気軽にコメント頂けたら、もうご機嫌です。