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第2話「初のギルド依頼」

時はアグライア歴  1865年

「初のギルド依頼」
7月2日(月)


(午前10時30分)

ハル「そういえば・・・」

ハルは腰にあるキンチャク袋からゴールドを取り出して数えながら
ハル「よく考えたら、ブレスバリィを作ったのはいいが・・・オレ貯金もないし、今持ってるお金なくなったら、どうするんだ?手持ち1865ゴールドなんだが・・・食事1回50ゴールド1日3食だと、あと12日分じゃん・・・」

ハル「うわっマジでどうするんだよ!」

ハル「昨日までは、メディアスでトレスが引き受けてきた依頼をみんなでこなし、その稼いだ金でやりくりしてきたが、今日からは自分でなんとかしなきゃじゃねぇか!まじかぁぁぁ・・・あまりの展開の早さで、大切なことを忘れてた!」

ハル「オレ・・・落ち着け。なにをすべきかよく考えろ・・・」

ハル「・・・」

ハル「ブレスバリィ作って早々トレスにゴールド借りるなんて嫌だしな・・・」

ハル「ギルドにメンバー紹介してもらって依頼をこなすのもいいけど、メンバーとのコミュニケーションに時間がかかるだろううし、相性が良いとも限らない、メンバーだけは慌てるな」

ハル「今はメンバーを探すことより、1人でできる依頼をこなして少しでもお金を手に入れることの方が先だよな。じゃないと本当にやばいことになる」

ハル「1人でも出来そうな依頼があるか、もう一度ギルドに行ってみるか!」

ハルはセイラギルドへと向かった

セイラギルドに着いたハルは恐る恐る受け付けに向かった

ハル「さっき来たばかりのギルドなのにトレスがいないだけで、こんなに心細く感じるとはなぁ」

ハルは受付のメクリに声をかけた
ハル「あの~」

メクリ「あっ先ほどのハル様♪」

ハル「あっあの、聞きたいことがありまして」

メクリ「はい♪」

ハル「1人でもできる依頼はありますでしょうか?」

メクリ「はい、あると思います」

メクリは手のひらを上に向け依頼掲示板を指先で指しながら
メクリ「セイラギルドからの依頼の紹介は、あちらに見えます『依頼掲示板』に貼られている紙がすべてそうでございます」

依頼掲示板の前には真剣な眼差しのたくさんの冒険者の姿があった

ハル「あの紙すべてが依頼なのですか!」

メクリ「はい、そうです。あれは『依頼書』といいまして、依頼書ナンバー、依頼推薦ランク、依頼内容、条件、報酬額、依頼主の名前などが書かれておりますので、引き受けたい依頼が見つかりましたら依頼書のナンバーをこちらにお伝え頂きますと、こちらでハル様のランクや実績を確認し審査した上で、問題無いと判断されれば、ハル様に正式に依頼するという流れになります。ただし、ハル様の命の保証はできませんのでご了承下さい」

ハル「わっ・・・わかりました、あっありがとうございます。さっそく見させてもらいますね」

メクリ「はい、ご質問などありましたらご遠慮なく、お声をかけて下さいね♪」

ハル「はい、ありがとうございます」

ハルは依頼掲示板へと向かった

ハルは小さな声で
ハル「命の保証はできません・・・か。そりゃそうだよな・・・」

ハルは依頼掲示板の前で立ち止まり

ハル「依頼掲示板、大きいなぁ〜、それに依頼書が多い」

その依頼掲示板はギルドの壁に床から1mくらいの高さの位置に設置された、縦1m横8mくらいのとても大きな長方形の掲示板だ。横3列に等間隔にとてもキレイに依頼書が貼られていて、ところどころ依頼書がないところがあるのは、冒険者が依頼を引き受けた部分なのであろう」

ハルは、左のはじから一つ一つ見ていった

ハル「凄いなぁぁぁ・・・いろいろな内容の依頼書が貼られている。50枚以上はあるよな・・・」


依頼No.1
依頼推薦ランク C
セイラの街~ニッサ村への警護
2泊夜営
条件3名(1人は戦士)
報酬額 6000ゴールド
依頼主 モッデ

・・・

依頼No.28
依頼推薦ランク F
セイラの街内
お使い
報酬額 50ゴールド
依頼 ミッチばあちゃん


ハル「条件があるのと、ないのとがあるわけか」


依頼No.37
依頼推薦ランク D
討伐後のベルガス 1匹
報酬額 500ゴールド
依頼主 モダン

・・・

依頼No.43
依頼推薦ランク C
ミシリア地方
未探索ダンジョンマッピング
報酬額 12000ゴールド
依頼主 セイラギルド

・・・


ハルはすべての依頼書に目を通した


ハル「オレが1人でやれるとしたら、お使いかベルガスだなぁ」

ハル「ベルガスの500ゴールドなら食事3日分になるな!それにベルガスなら、メディアスでの冒険の時に、頻繁に遭遇したナガラ山がいいだろうな。セイラ街から歩いて‪2時間ほどの場所だから、午後に出発しても今日中に帰ってこれるしな。オレには丁度いい依頼かも」‬

ハル「よしっ決めた!」


【ベルガス (紫)】
生息場所は、山・洞窟・森など。4足歩行で動きは素早く優れた嗅覚と聴覚を持つ。基本的に臆病で単体では大した力はないが、群れで行動する際には凶暴化しキバとツメで攻撃をしてくる


ハルは受付のメクリのところに行き

ハル「メクリさん、No.37の依頼をやりたいのですが」

メクリ「依頼No.37ですね。少々お待ち下さい」

メクリは書類に目を通しはじめた

メクリ「この依頼は倒したベルガス1匹をセイラギルドまで持ち帰るという依頼ですが、よろしいでしょうか?」

ハル「はい!」

メクリ「ベルガスは袋などに入れてご提出ください」

ハル「袋は自分で用意でしょうか?」

メクリ「おっしゃる通りでございます。どういたしますか?」

ハルは心でつぶやいた
ハル「ベルガスを入れれる袋なにかあったかな・・・無かったら買うしかないか・・・」

メクリ「ごゆっくりお考えください」

ハル「いや、大丈夫です。お願いします」

メクリ「はい。では審査をしてまいりますので、数分ほどお待ちください♪」

ハル「はい」

メクリは書類を持ち、奥の部屋の扉の前に行くと扉を開けて、部屋の中へと入っていった

3分くらい経ち・・・

メクリが奥の部屋の扉を開けて出てくると、そのまま依頼掲示板に向かい、No.37の依頼書を掲示板から外し、手に持って受付に戻ってきた

メクリ「はい、では討伐後のベルガス1匹の依頼、ブレスバリィのハル様に正式にお任せいたします。こちらが依頼書ですのでお持ち下さい」

メクリは依頼書を差し出し、ハルは受け取った


依頼No.37
依頼推薦ランク D
討伐後のベルガス 1匹
報酬額 500ゴールド
依頼主 モダン


ハル「ありがとうございます」


ハルは『ベルガスの依頼書』を手に入れた!!


メクリ「では、簡単に流れを説明させていただきますね」

ハル「はい」

メクリ「基本、依頼は完了しまたら、こちらの受付にご報告していただくのですが、今回の場合のように討伐後のベルガスなど、提出する依頼品がある場合には、こちらの受付に報告する前に、セイラギルドの建物の裏側にあります『依頼品引き取り倉庫』に依頼品を提出てしいただきましてから、こちらの受付にご報告下さい」

ハル「依頼品引き取り倉庫があるんですね!討伐したベルガスをここでメクリさんに渡すのかと・・・」

メクリ「そんなことしたら許しませんよ(笑)」

ハル「ですよね、よかった(笑)」

メクリ「はい(笑)」

メクリ「依頼完了の確認できましたら、こちらの受付にて報酬をお出ししますのでお受け取り下さい。なお依頼書は紛失してもご本人さまでしたら何度でも再発行できますのでご安心下さい」

ハル「そういう感じなんですね」

メクリ「はい、説明は以上です。ご質問はありますでしょうか?」

ハル「大丈夫です」

メクリ「そうですか。また何かありましたらご遠慮なく、お声をかけて下さいね♪」

ハル「はい、ありがとうございます」

メクリ「ご依頼の成功をお祈りしております♪」

ハル「はい、がんばります」

メクリは満面の笑みでハルを送りだした

ハルはギルドを出ると寄り道もせずに自分の部屋へと戻った


ハルはベルガスの依頼書を眺めながら
ハル「自分で受けた初の依頼だ、がんばらなきゃ」

ハルは早速ベルガス討伐の準備をはじめたのであった


【ハル】

バックパック×1
ベルガスの依頼書×1
回復ポーション×2
煙玉×1
保存食×2
簡易毛布×1
応急パック×1
冒険者用ランタン×1
火起こし石×1
油×2
コンパス×1
ペン×1
紙×10
ゴミ袋×1
水筒×1
セイラ街住民証明カード×1
キンチャク袋
所持金1865ゴールド

装備
鉄の剣
鉄の盾
鉄の鎧
鉄の靴


装備はどれもキレイに手入れはされているが、使い込まれた古びた装備である


ハル「あとは、ベルガスを1匹を持ち帰ってくるための袋だなぁ。丈夫そうな袋はやっぱりないや・・・」

ハル「よし、買いにいくか!」

ハルは荷物や装備を部屋に置き、街の中心から東側、冒険者のためのお店が立ち並んでいる、その中のお気に入りの一件「冒険の雑貨屋モンビビット」に向かった


トリット「おぅ!ハル、いらっしゃい!!」

ハル「トリット、こんにちは~」

トリット「聞いたぞ~、メディアスをクビになったんだってな!(笑)」

ハル「情報入るの早いなぁ〜(笑)」

トリット「そりゃそうよ、メディアスはお得意様だからな!それより、新しいPTを作るんだって?」

ハル「さっき手続きしてきたよ」

トリット「おおそうか!そりゃ早いな(笑)トレスが背中押したわけか」

ハル「そうなんだ」

トリット「さすがトレスだな。それで、PT名はなんだ?」

ハル「ブレスバリィ」

トリット「ブレスバリィか!ハルらしいイイ響きの名前だな!気に入ったぜ」

ハル「ありがとう♪」

トリット「で?意味は?」

ハル「意味は特になくて・・・、いろいろ考えてたら、フッと頭に浮かんだんだ。これだっ!って」

トリット「そうかそうか、たしかに響きいいよな。しかもピンときたならそれも出会いだな」

ハル「そうだね!」


【トリット 35歳 男 冒険の雑貨屋モンビビット】
モンビビットは品揃えが良く、ハルがメディアスでの冒険で一番お世話になっていた店である。トリットの人柄の良さがまた購買意欲をわきたたせる


トリット「んで、今日はなにを探しに来たんだ」

ハル「セイラギルドで討伐したベルガス1匹を持ち帰る依頼を受けたから、ベルガスを入れるものを探してるんだ」

トリット「そういうことか、ベルガス1匹なら魔物入れ袋Mがちょうどいいな。内側に防水加工もされてるから、ベルガスの血も匂いも外に漏れないから自分のバックパックに入れることができる優れものだ。いざという時に両手が空いてることは大切だからな」

ハル「確かにそうだね、それいくら?」

トリット「300ゴールドだな」

ハル「300ゴールドかぁ・・・思ったより高いなぁ・・・」

トリット「ハル、その依頼報酬いくらだ?」

ハル「500ゴールドです」

トリット「差し引き200ゴールドかぁ・・・」

ハル「そう考えるとあまり良い依頼ではなかったのかも・・・」

トリット「ギルドで美味しい依頼は、貼られてすぐになくなっちまうらしいからなぁ。残ってるってことは、それなりなんだろうな」

ハル「そういうことなんだね・・・」

トリット「そういうのも勉強だな」

ハル「本当にそうだね」

トリット「よしっ!ブレスバリィの出発の日だ、大サービスしちゃうぜ!」

ハル「ホント!?250とか?」

トリット「ブレスバリィとして今後もモンビビットを、ごひいきしてくれるんだろなぁぁぁ(笑)」

ハル「もちろんしちゃいます!まだメンバーはオレだけだけど(笑)」

トリット「それはOK。よぉぉし、交渉成立!さすがに商売だからなタダってわけにはいかねぇが、100ゴールドでどうだ!」

ハル「ほわぁぁぁあ!買います買います!」

トリット「毎度ありぃぃぃぃ♪」

ハル「トリット本当にありがとう」

トリット「新しい旅立ちの祝いだ!ベルガス討伐がんばれよ!」

ハル「うん、がんばります!!」

ハルはトリットに100ゴールドを渡しながら、喜びのあまりトリットの両手を涙ぐみながら握っていた


ハル「でも依頼主はベルガスなんてなにに使うんだろ〜」

トリット「なんだ!?ほんとハルはな~んも知らないんだな。今までトレスがいろいろやり過ぎた証拠だな。これからは自分でいろいろやって、知識も深く知るべき時が来たってことだな」

ハル「うん」

トリット「まぁ、詳しいことまではオレも専門じゃないからわからねぇが、ベルガスなら、剥製(はくせい)にして飾ったり、キバやツメはアクセサリーに使われたり、舌は一部のマニア料理として出され、各内蔵は各ポーションの材料などに使われたり、骨は・・・」

ハル「とっ・・・トリット、わっわかったありがとうw」

トリット「あっ、これからお昼だしな(笑)すまんすまん」

ハル「でも、これが知識なんだよね・・・」

トリット「そういうことだな」

ハル「・・・」

ハル「で?骨は?・・・気になる・・・」

トリット「だろ・・・。骨はそれをすって粉状にしたら」

ハル「・・・やっぱいいやw」

トリット「アハハハ、がんばれよっ!毎度ありぃぃぃ」


ハルはベルガスの気持ち悪い話しを少しでも忘れるために、深呼吸を何度もする
ス〜ハァ〜ス〜ハァ〜・・・・


グゥゥゥ~♪

ハル「あんな話の後でもお腹はすくんだなぁ・・・」


(午前11時50分)

街全体が食事の時間を迎え、さわやかな風にのっていい香りを漂わせていた
美味しい香りにつられハルのお腹がまた鳴った

グゥグゥゥゥ~♪

ハル「そういえば、昨日のメディアスのクビから、ろくに食べてなかったなぁ。昼メシをしっかりとってから行くか!」

ハルは街の中心の西側へと足を進めた

そこにはたくさんの食べ物屋さんがあり、特に昼の稼ぎ時とばかりに、活気にあふれていた

ハルはお気に入りの行きつけのお店「サキばあちゃん定食屋」という、冒険者のあいだでも大人気の定食屋に入った
15席ある席はほぼ満員だったが、タイミングよく並ばずに席につくことができたハルは、50ゴールドの日替わり定食を注文した

数分して・・・

お店の女性が定食を運んできてくれた
川魚のフライ・こってり煮物・ハム・ご飯・味噌汁・新鮮サラダだ

ハルは基本、魚は苦手で肉が大好きなのだが、サキばあちゃんが作る料理はどれも本当に美味しく、苦手な魚料理も美味しい〜!と感じたことが、この店を行きつけのお店にさせた決め手だった

ハル「美味いわぁぁあ」

ハルはサキばあちゃんの美味しい定食を味わいながら残さず食べた

ハル「ごちそうさまぁぁ♪」

サキばあちゃん「いつもありがとねぇ~」

忙しいであろう厨房の奥から、顔は出さなかったものの、一生懸命働く元気なサキばあちゃんの笑顔の声が店内に響きわたった

ハルは笑顔で店から出た


【サキばあちゃん 80歳 女】
サキばあちゃん定食屋は、街でも大人気。サキばあちゃんの作る料理はどれも本当に美味しく、魚が苦手なハルでさえサキばあちゃんが作る魚料理なら食べたいと思わせるほど


(午後12時30分)

ハルは自分の部屋に戻り、装備を付けて、バックパックを背負った

ハルの左の腰ベルトには、鉄の盾が引っ掛けられ、鉄の盾の内側になるが同じく左の腰には、鉄の剣の鞘(さや)がベルトに取り付けられ、その鞘に鉄の剣を差すことで両手が自由に使えるという設計になっている

ハルは部屋を出てナガラ山へ向かうために街の北の門にへと向かった

北門に着くと門の両側に1人ずつ門番が立っていて、門を通行する1人1人をチェックしていた

一般的には皆、自分の住んでる場所で発行された『住民証明カード』を持っており、地域や街や村に入る際に門番に見せたりと、自分の身分を証明するために使われていて、セイラの街は特に厳しく街に入る時だけでなく、出る時も『住民証明カード』を見せる決まりになっている


レベット「よう、ハル♪」


【レベット 27歳 男 槍使いの戦士】
セイラ街で北の門番をしている彼は、大柄な体とは裏腹に気さくな喋り方が特徴で、とても優しい雰囲気を持っている。レベットは、ここを通る住民にいつも声をかけ、笑顔を大切にするとても珍しい門番。レベットの笑顔を見たくて、遠回りをしてまでも北門を使う住人が多い人気ぶりだ。だが戦闘になると一変、その大柄な体から繰り出される槍突きは敵を凍りつかせるほどの気迫と噂されている。それもまた、人気のひとつかもしれない


ハルはセイラ街住民証明カードをレベットに見せた
ハル「こんにちは♪」

レベットの満面の笑顔はいつも格別だ

レベットはハルのセイラ街住民証明カードを確認しながら
レベット「装備してるってことはメディアスのメンバーとは外で待ち合わせか?」

ハル「実は昨日メディアスを辞めて、今日新しいPTを作ったんだ。まだメンバーはオレ1人だけど」

レベットは心配そうな表情で
レベット「なんかあったのか?・・・」

ハル「ケンカとかでなく、トレスがオレのためにPTリーダーの経験をしてみろと。それで昨日いきなりメディアスをクビになって・・・」

レベットは安心した表情で
レベット「おお!?そういうことか(笑)トレスさんやるなぁぁ」

ハル「びっくりだよ」

レベット「それはめでたい話しじゃねえか!心配して損したぜ。おめでとうな♪」

ハル「ありがとう」

レベット「それでPT名はなんだ?」

ハル「ブレスバリィ♪」

レベット「ブレスバリィか!いい名前じゃねぇか♪覚えたぜ!」

ハル「うん!ありがとう♪」

レベット「もしかして新PT (パーティ)で初依頼でもやりに行くのか?」

ハル「そうなんだ。まだオレ1人だから、ベルガス1匹を持ち帰るだけなんだけどね」

レベット「ベルガス狙いでこの時間から行くってことはナガラ山か?」

ハル「そう、ベルガスがいる場所ならナガラ山が一番近いし、メディアスの時に何度も行って戦ってるからね」

レベット「そうか。なにしろベルガスの討伐は助かる。この街の田畑が荒らされる被害だけでなく、住民への被害も年々増え続けているからな。たった1匹だろうとこの街を守ることにもなるんだ。頼んだぞ」

ハル「わかった」

レベット「ただな、ベルガスは知っての通り、集団で行動する場合が多いから、群れから離れた単独でいるベルガスを探して狙うんだぞ。そして1人で行くなら深追いだけはするな」

ハル「うんそうだね、そうするよ」

レベット「気をつけて行ってこいよ。通行を許可する」

ハル「うん、いってきます♪」

レベット「おぅ♪」


(午後12時50分)

ハルはナガラ山へと出発した

セイラの街から北に10分ほど歩くと、セイラ川に着いた

川の幅は10m、橋の幅は5mで、ホカ車も通れるようにしっかりした作りの橋がかけられている


《ホカ車》
ホカがひっぱり荷物を運ぶ車


【ホカ】
生息場所は全般。顔に愛嬌(あいきょう)がある動物。性格はこちらが刺激を与えなければおとなしい。4本足で走り、とても速く力も強い。ホカ車をひいたり、冒険者が遠くに移動する場合はホカに乗って移動するのが一般的。野生のホカは水を飲みにくるために川周辺でよく群れで目撃される


今日は天候が良く川の流れもとても静かで、街から近いこともあって、釣り人や川遊びをする子供たちもいた

ハルは橋を渡り、まっすぐ道なりにナガラ山へと向かう

‪橋から50分ほど歩くと、カフカの森についた‬


(午後1時50分)

ハルは足を止めてカフカの森の中心の大きな道を見つめながら
ハル「この森を抜けるとナガラ山だ」

ハルはゆっくりカフカの森の大きな道に入っていった
ハル「ここはよく通った道だけど・・・」

ハルは進みながら、メディアスのメンバーとこの道を通っていた時のことを思い出していた



●(過去)


ハル 11歳
ピピン 10歳
リトラバード 13歳
トレス 25歳


リトラバード「おいっハル」

ハル「なに?」

リトラバード「まわりちゃんと見てっか?」

ハル「見てるよ〜」

リトラバード「ならいいが」

ハル「そういうリトラバードこそ、ちゃんと見てる?」

リトラバード「なっ!?オレはみっ見てるぞ!いつ敵が襲ってきてもオレの魔法でイチコロよ」

ハル「ならいいが・・・」

リトラバード「なっ!?真似すんなよ」

ハル「してないし!」

リトラバード「しただろよっ!」


トレス、ピピン「うるさい!」

ハル、リトラバード「あっはい・・・すいません」


●(現在)



ハル「みんなといる時は、なんの心配もなく余裕で歩いてた。でもこうやって1人だと・・・余裕もなく・・・こんなにも寂しものなんだなぁ」

ハル「いやいや、気持ち沈んでる場合じゃないぞ。この森からは野生動物や魔物もでるから、気を引き締めていかなきゃだな」

パンパン!
ハルは両手で自分のほっぺを叩き、気合いを入れなおした

ハルは‪カフカの森の道を一歩一歩進んで行く‬

ハル「不意に攻撃されたらひとたまりもない、常に周囲を警戒しなきゃ・・・。こんな基本的なことが1人だとこんなに神経使うとは」

ハルは鳥の鳴き声に素早く視線を向け、草木の揺れる音にも敏感に反応し、いつもと違う音がないか耳を澄ませながら進む

どうしても自然と体に力が入ってしまい、それに気づくたびに深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。何度もそれを繰り返しながら進んでいった

ハルは40分ほど歩き、何事もなく無事に森を抜け、ナガラ山のふもとに着いた


(午後2時30分)

ハルは大きく一つ深呼吸をして
ハル「よしっ!登るか!」

そうつぶやくと、ハルはナガラ山を登りはじめ、以前の経験からベルガスがいるであろう方向へと進んでいった

ハル「この方向の奥のどこかにベルガスの巣があるはずだ。その巣からなるべく離れた手前の1匹を狙うようにして倒して帰ろう」

ハルは慎重に小さな道のような細い道を一歩一歩登りながら進んだ

耳を澄ませ、目を凝らしながらどんどん登っていく

ハル「方向は間違ってないはず」

耳を澄ませ、目を凝らしながらさらにどんどん登っていく

ハル「体力はまだまだ大丈夫、だけど・・・」

ハル「いつもなら、ピピンの後ろをただついて行けばよかっただけだった・・・」



●(過去)


ハル 11歳
ピピン 10歳


ピピン「こっちよ」

ハル「本当かよぉぉさっきと同じとこ通ってないか?」

ピピン「同じに見えるから迷うんじゃい!ハルは、すぐに迷うタイプね」

ハル「それにさ、もっと早くいけないのぉぉぉ~」

ピピン「もぅ、うるさいわねぇぇ。聞き耳スキル使って先を警戒しながら、しかもマッピングしながら進んでるんだからしょうがないでしょ!」

ハル「まったく・・・すぐに怒る、短気な女は嫌われるぞ」

ピピン「あんたねぇ、少しは黙ってられないの?聞き耳やマッピングの大切ささえわかってないから、そんなこと言えるのね!」

ハル「はいはい・・・静かにしてるので、早くお願いします」

ピピン「プンッっ!」


●(現在)



ハル「メディアスではマッピングはピピンが担当だった。コンパスとペンと紙と使い、正確にマッピングしていた」

ハル「だから、オレたちはいつも道に迷うことなく進めたし、細かく道を覚える必要もなかった。一度マッピングした場所では、出発前から的確な作戦も立てられたし、実際にPT全体が驚くほど的確で素早い行動もできた」


《マッピング》
冒険者などが「土地、山、洞窟、ダンジョン」などの道や目印を書いておく自作の地図。冒険でとても重要な役割を果たす


ハル「凄いよ・・・ピピン・・・」

ハル「当たり前だったことが・・・本当は凄い大切なものだった」

ハル「まわりの人も・起きてたことも、当たり前のことが本当は凄い大切なものだったんだなぁ」

ハルはバックパックからコンパスとペンと紙を取り出し
ハル「これからは自分でがんばらなきゃ」

ハルは以前ピピンからマッピングの基本を教わったことがあった

その書き方を思い出しながら、大小の山道をある程度進んだらコンパスを確認して、マッピング

上流から流れる小さな川を渡り、そういった目印になるポイントも忘れずマッピング、斜面を登ってはマッピング


ハル「ハァハァ。ちょっと休もう!」

ハルは地面に腰を落として水筒の水を少しだけ飲んだ

ゴクッ

ハル「周りを警戒しながら、正確にマッピングすることがこんなに大変だったなんて・・・」

ハル「しかもピピンは少しでも危険を察知すると、PTを待機させ、自分1人で偵察に行っていた・・・」

ハル「どんだけ、凄い存在だったんだよ・・・」


ハルは休憩を終え、ベルガス探しを再開し山の上へ奥へと進んだ

ハル「確かここら辺で以前遭遇したよな」

ハルは岩陰に隠れて、ベルガスが通りそうな道を見つめながら待ち伏せをする。・・・が、こない

ハル「・・・1匹もいない」

さらに場所を移動し草木に隠れて、その先のひらけた場所を見つめベルガスが来るのを待ち伏せする。・・・が、こない

ハルはベルガス探しを続けた・・・


(午後5時00分)

ハルは心でつぶやいた
ハル「おかしい・・・なぜ1匹もいない、以前はもっと簡単にいただろ・・・。時間が・・・。」

ハル「街を出てから、セイラ川まで10分、森まで50分、森を40分で抜け、山でもう2時間30分。あと2時間もしたら日が暮れ、その1時間後の午後8時には暗闇になる・・・。帰りはまっすぐ帰れば1時間30分くらいで山を降りれる、そして森を抜けるまでの40分を計算すると、タイムリミットはあと50分か」


と、その時、遠くで動く影をみた!

ハル「いた!きっとベルガスだ!」


【ベルガス (紫)】
生息場所は、山・洞窟・森など。4足歩行で動きは素早く優れた嗅覚と聴覚を持つ。基本的に臆病で単体では大した力はないが、群れで行動する際には凶暴化しキバとツメで攻撃をしてくる


ハルは草木に隠れながら、なるべく音を立てずに目を凝らしながら近づいていく
ハル「よしっ見えた間違いないバルガスだ!しかも1匹のみ」

ハルは、さらにゆっくり隠れながらベルガスとの距離を縮めていった・・・

カシャ

ハル「鉄の装備の音がどうしても・・・」

ベルガスは、そのかすかな音に反応し耳を立ててまわりを見渡した

ハルは身をさらに低くして
ハル「くっ」

そして、警戒したベルガスは反転して走りさってしまった

ハル「くそっ、逃すか!」

ハルはまわりを警戒しながらも、ベルガスが走りさった方へと進んだ

だが、いない・・・

ハル「くっどこいった・・・」

さらに探索を続けるが、みつからない・・・

20分は走ったであろう



●(過去)


レベット「ただな、ベルガスは知っての通り、集団で行動する場合が多いから、群れから離れた単独でいるベルガスを探して狙うんだぞ。そして1人で行くなら深追いだけはするな」


●(現在)



(午後5時20分)

ハル「ハァハァ・・・これは深追いだよな・・・しかも時間だ!」

ハル「日が暮れたカフカの森を1人で通るのは絶対にダメだ。暗闇でもオレをハッキリ見えている夜行性の敵に加え、ランタンの灯りでさらにいろいろな敵に自分の位置を教えることになる。しかも1人だとわかれば積極的に襲ってくるよな」

ハル「・・・」

ハル「今、山を降りれば、日が完全に暮れる前にカフカの森を抜けれらる」

ハル「明日があるよな」

とその時!

「パキッ!」

少し離れた場所から、枝の折れる小さな音が聞こえた

急いでその方向をみると・・・

ハルは心で叫んだ
ハル「ベルガス!」

ベルガスが踏んだ枝の折れた音だっだ

ハルは左の腰に差してある鉄の剣を右手で鞘から抜き、左手に鉄の盾を待ち、自分の鎧の音を一切気にせず、全力でベルガスへと走り出した・・・

距離は25m

ガシャ
ガシャ
ガシャ
・・・

枝が折れた音が聞こえるくらいの静かな山の中で、ハルが走る時の鉄の鎧のこすれる音は、臆病で聴覚の良いベルガスにとっては、身の危険を感じるのに十分過ぎる音であった

ベルガスはハルを方を一瞬見て急いで逃げ出した

ハルは心で叫んだ
ハル「逃がしてたまるかっ!」

ベルガスは奥へと逃げていく、ハルは全力で追う

その距離20m

ベルガス「キィィキキィィィキィ」

ベルガスは、奇声を発しながら逃げている

ハル「群れなら襲って来るくせに、単体だと奇声をあげてビビってやがる。完全に戦意を失ってるな、これならいけるぞ!」

距離15m

距離10m

ハル「もう少し」


ベルガスが足を止めた


ハル「逃げるのをあきらめたか!」

ハルはそのまま鉄の剣を振りかぶり一気に間合いをつめる

が、ハルの右後ろの脇腹に激痛が走った

ハル「うぐっっっっ」

振り向いたハルの視線の先に別のベルガスがいた。ハルはベルガスBのツメの攻撃を受けたのだ


ハル「まさかっ!?」

ハル「さっきの奇声は仲間を呼ぶ声だったのか!」

ハルはまわりを見渡した
ハル「何匹いるんだ!1、2、3、4、5、囲まれたか・・・」

ハルは深呼吸をした
ハル「ふぅ〜」

ハル「5匹か、問題ない」

ハルは背負っていたバックパックを地面に落とし、鉄の剣と鉄の盾を構えた

ハル「さて、どいつからやるべきか?」

ハルは戦闘がはじまり高い興奮状態でありながらも、どこか冷静になれているのは、メディアスでの数々の経験が活かされているのであろう

5匹のベルガスは、キバを見せながらうなり声を上げ、今にも飛びかかってくるかのような姿勢でハルを見ている

ベルガス5匹「グルゥゥゥゥゥ」

ハルはさらに静かに深呼吸をする

ハル「群れるとこれだ・・・」

5匹に囲まれているとは思えない落ち着きようだ


ハルの右側のベルガスCの足が前に出た

カサッ

それを見逃さないハル

ハルの鉄の剣は、なぎ払うかのようにベルガスCを切り裂いた

ザバッ

ベルガスC「キィィィィ」
ベルガスCは倒れた


すかさず、ハルの右前方のベルガスBと左側のベルガスEが同時に襲いかかってきた

ベルガスBはハルの右上から、ベルガスEはハルの左横から襲いかかった

ハル「同時か!・・・まだだ」

ハルはまだ動かない

ベルガスBのツメの攻撃
ベルガスEのキバの攻撃

ハルは2匹に攻撃された!

かに見えたが、ハルは攻撃が当たるギリギリ寸前のところまで引きつけ、低く素早く後ろにステップし攻撃をかわした

スッッ

空を切った2匹はハルの前でぶつかり重なり合った

バチンッ

ハルは後ろにステップしたその勢いを使い、右に回転しながらしゃがみ、そのまま回転しながら立ち上がるように、左下から右上へと、鉄の剣で重なり合った2匹を同時に切り裂いた

ズババッッ

ベルガスB「ギィィィィ」
ベルガスE「キギィィ」
ベルガスB・Eは倒れた


ベルガスDが後ろから、襲い掛かる

ハルはさっきの回転の時に、ベルガスDとの距離をしっかり見ていた

ハルは振り返りながら後方に下がり間合いを少し開けて、怒り狂って襲いかかってくるベルガスDのツメ攻撃を鉄の盾で受け止めてた。と同時に

ガシッ!

ハル「おしっうりゃぁ」

ハルは鉄の盾を押し込みベルガスDを後退させながらひるませ、さらに鉄の盾をベルガスDの顔の前に押し付け視界を奪った

そして鉄の盾の下から、鉄の剣をまっすぐに突き刺した
ハル「はぁぁっ」

グサッ!

ベルガスD「グギィィ」

ベルガスDは倒れた


ハル「残るは1匹」

ハルはベルガスAをにらみつけながら構えた

ベルガスAは仲間を失ったことで戦意を失いまた逃げ出した

ハル「それが・・・りこうだな」

ハルは追わなかった


(午後5時30分)

ハルは鉄の剣を左の腰の鞘に戻し、鉄の盾は左の腰ベルトに引っ掛けた

そしてバックパックから、魔物入れ袋Mを取り出して

ハル「一番キレイなベルガスDを持って帰ろう」

魔物入れ袋MにベルガスEを入れ、血と匂いが漏れないように上のヒモを強くしばり、バックパックの中に入れた

ハル「それより・・・くっ」

右手で右後ろの脇腹を強く押さえ、地面にポタポタと落ちる自分の血を見ながら
ハル「思ったより傷が深いか・・・。時間に焦って目の前のベルガスに集中しちまった結果がこれかよ・・・」

ハルはバックパックを背負い
ハル「ベルガスAが仲間を呼んでくる可能性もあるから、まずはここから離れて、そしてなるべく早く傷口の消毒と止血をしないとだな・・・」

ハル「もう・・・今日は街には戻れないか・・・やっちまったか・・・」


ハルは右後ろの脇腹を押さえながら、来た道を(セイラの街方向へ)戻っていく


ハル「1人で野営(野外に泊まる)となると、交代の見張りもいない・・・。この傷だって今までならすぐに回復呪文で治してもらっていた・・・。みんなの存在がこんなにも大切だったなんて、何度気づかされるんだよ・・・しかもオレ・・・それに気付くのがおせぇよ・・・」

ハル「しかもなんでさっき帰らなかったんだよ・・・」

ハル「もし今すぐにベルガスに囲まれたら・・・」

ハル「血の匂いで多くのベルガスに囲まれたら・・・」

ハル「あっ!」

ハル「またオレ、暗いことばかり考えちまってる・・・」

ハル「ピピンが言ってたなぁ。1つの出来事には、良いことと、悪いことがあるって、そして『良いものを見る目を強く意識する』ことが大切だって」

ハル「この状況でもか?良いものなんてあるのか?・・・」

ハル「今までみんながいるのが当たり前のように思っていたこんなオレに?こんな状況でも?それでも良いものを見つめろと?」

ハル「いや見つけろ!良いものを見る目だ。気持ちまで暗くなったらダメだ」

ハル「確かに今、悪いものしか見えていない・・・でもなにかあるはず」

ハル「いつもみんながそばにいた。今日までその本当の大切さを気づかなかった。当たり前だった・・・」

ハル「そう。今日までこんなにもみんなが大切だったと気づかなかった・・・。大切なのはわかってた、でもこんなにもとは気づかなかった。そして今日気づくことが出来た・・・」

ハル「そうだよ!今日のこの出来事で大切なことを、これでもかってくらい気づくことができたんだよ!」

ハル「今日は大きい、そういうことか。確かに本当に大きい、そうだよきっとこれでもいいんだ。そうだろピピン!」

ハル「ピピンの教えてくれたこと、まだまだほんのちょっとかもしれないけど、わかった気がするよ。今ならみんなに心からのありがとうも言える」

ハル「『良いものを見る目を強く意識する』 これ想像以上に凄いかもしれない、ありがとうなピピン!」

ハル「これを乗り切って、みんなに心からありがとうを言ってみせる!!」

ハル「そう、言ってみせる!!」



と、その時!


微かに聞こえる複数のベルガスの声
「キキィィィ」
「キッキキィィィ」

ハル「!」

ハル「ベルガスAがさった方向から微かに聞こえた。やはり仲間に伝えたか!」



[第3話へ続く・・・]


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