黒く滲む④

七月七日(土曜日)23時 居酒屋「ちょーちん」


 今夜も居酒屋「ちょーちん」は多くの客で賑わっていた。七月になって初めての土曜日。暑くなり始めた気温に反応したように、店内には多くのサラリーマンや学生が集い、笑い声が響き合う陽気な場所になっていた。だがそんな賑やかで愉快な時間も、そこで働くスタッフにとっては過酷な時間だ。店内のお客の数とスタッフの汗の量は比例し、スタッフの余裕は逆比例しスタッフは一様にピリピリしていた。そして今日も、僕と瞳ねぇ、智樹先輩そして貴子さんは出勤していた。

 忙しいことを見越して、おそらくこのシフトを組んだのだろう。森さんには恨言を言いたくなるが、瞳ねぇと同じシフトに入れることは、僕にとってありがたかった。

 僕と瞳ねぇと貴子さんはフロアで、智樹先輩はドリンクを作っている。僕は着実に一つ一つの仕事をこなすのに対し、瞳ねぇは色々な花に止まる蝶のように、色々なテーブルをひらひら飛び回っている。一生懸命働きながらも、そんな瞳ねぇの仕事ぶりに感心していた。

 そしてなんと、普段は余裕の貴子さんですら、少し汗を流し疲れた表情をしていた。ラストオーダーが近くなると、貴子さんは明らかに動作が遅くなり休み始めたが、森さんも智樹先輩も、そんな貴子さん咎めず、苦笑いしていた。

 ようやく閉店になると、僕たちは着替えスタッフルームで談笑していた。バイト終わりのいつもの光景だが、この日は珍しくバイトの他に森さんも会話に加わっていた。

 実はもうすぐ大学のテスト期間が始まるため、みんながアルバイトに入れる日が少なくなる。そのため、夏休み前の放課後みたいなちょっとしたお別れ会のようだった。

 僕はまだ二年生だから、回数は減らすがバイトを続ける予定だ。だが、三年生の瞳ねぇと貴子さんは、完全に試験モードになる。そのため、試験が終わるまでは「ちょーちん」に来ることはない。

 森さんは、瞳ねぇと貴子さんに「試験頑張ってね」と言った後、貴子さんの方を向いて、「追試だけは避けてね」と言った。「なんで私だけそんな心配されるんですか!」と、ちょっと怒ってる貴子さんを見て、僕は笑った。

 同じように笑っている智樹先輩を見て、僕はふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「あれ、智樹先輩は大丈夫なんですか?」

 智樹先輩はニヤッと笑って「俺はもうゼミだけだからな」と勝ち誇った顔をした。

 貴子さんが「羨ましいとー」と項垂れると、そんな貴子さんを見てさらにみんなが笑った。

「まぁ、シフト入れそうになったらいつでも教えてね。」

 森さんがみんなに声をかける。

「あと、絶対追試はないように。追試になると、またシフト入れなくなるから」

 森さんはこれから数週間のシフトのことで頭が一杯のようだ。それでも僕たちにお店のソフトドリンクをご馳走してくれた。森さんは本当にスタッフ思いのいい人だ。

「そう言えば、貴子ちゃんは最近彼氏とどうなの?」

 森さんは雑談のついでに、貴子さん聞いた。

「えー、特に変わらないですよー」と答えてたが、「でも束縛がしんどくて、別れよっかな?」と言って、貴子さんは僕の方を見てきた。「ねぇ、修也君?」と続ける。

「え?二人の間で何かあったの?」

 森さんは目を輝かせて僕に聞いてきた。智樹先輩も瞳ねぇも僕の方を見ている。

「え?し、知らないですよ。何もないです!」

と慌てて否定すると、貴子さんは声を出して笑っていた。貴子さんはいつもこうやって僕を困らせて楽しんでいる。

 僕の否定に森さんが残念そうな顔をしたが、今度は瞳ねぇに話を振った。

「瞳ちゃんは、彼氏はいるの?」

 まさか自分に話題が振られると思っていなかった瞳ねぇも慌てて否定する。僕はこの前直接聞いていて知っていたが、森さんや智樹先輩は知らなかったらしく結構驚いていた。

「森さんこそ、どうなんですか?」

と瞳ねぇは返す。

「全然ダメ。40過ぎてハゲ始めたおじさんは誰にも相手にされないのよ」

と自虐的に話をする。その話し方がオカマの芸人ぽくてみんな一斉に笑い出した。

「それじゃあ、私が相手してあげよっか?」

 貴子さんは大笑いしながら言うと、森さんは「本当に」とギラギラした目つきになった。貴子さんは手を出し「十万」と言うと、森さんが「金かよー」と大袈裟に頭を抱える。それを見て、またみんなが笑った。

 しばらくスタッフルームで雑談をしていると、森さんは「それじゃあ、またね」と言いながらレジ締めのためフロアに戻っていった。

 それを合図に、僕達も帰ることにした。

 働いた後の疲労感と、土曜日の夜を乗り切った達成感でみんな興奮していたこともあり、すでに12時近くになっていた。

 試験が終わったら、みんなで飲み会を開く約束をして別れた。


 帰り道は、いつものように僕と瞳ねぇと智樹先輩の三人で帰る。

 智樹先輩の就活の話になった。すでに内定をもらった会社の名前を聞いて、唖然とした。よく雑誌に出てくる有名な外資系のコンサルタント会社だ。

「うちの大学からよく入れましたね」

「大体はT大とかK大だからね」

 なんでもないようにさらりと言う先輩がすごいと素直に思った。興味本位で就活の大変さを聞くと、色々と教えてくれた。

「先輩は凄いですね」と感心していると、智樹先輩は今度は瞳ねぇに話しかけた。

「瞳ちゃんは就活どうするの?」

 確かに、瞳ねぇはどうするんだろう。僕は法学部のため、漫然とロースクールに通うつもりだったため、あまり就活のことを考えたりしたことはなかった。だが、学部が変われば選択肢も変わる。

「私はね、教員になるつもり。だから、今年の十二月でバイトを辞めるつもりなの」

 びっくりした僕は「そうなんですか!!」と驚いて瞳ねぇを見た。

 智樹先輩が「年が明けると教育実習があるからな」と、納得していた。それに頷く瞳ねぇ。なるほど、教育実習か。

 少しがっかりしていると、「まぁ、それまではまだまだあるし、よろしくね、瞳ちゃん」と智樹先輩は爽やかに笑った。

「こちらこそ、よろしくお願いします」と笑顔で頭を下げる瞳ねぇ。

 智樹先輩の余裕振りを少しでも分けてほしいと思った。

「それじゃあ、みんな試験頑張ってね!」

 といって一人だけ路地の中に颯爽と入っていった。智樹先輩は去り際も爽やかだった。

 智樹先輩が別れた後は、瞳ねぇと二人にきりなった。今年でバイトを辞める話を聞いたせいか、寂しさが消えない。それと同時に、僕は少し焦っていた。

 あと半年もしないうちに、瞳ねぇと会う機会は失われてしまう。そうすると、僕と瞳ねぇの接点はなくなってしまう。当然、僕が瞳ねぇに気持ちを伝えるチャンスも。

 いつも通り瞳ねぇと会話をしながらも、全然集中できなかった。

 そのまま僕と瞳ねぇが別れる交差点のところまで来てしまった。

「シューヤ君は試験はどうなの?」

 二人で立ち止まって話を続ける。

「一応毎日ちゃんと講義受けてますから…多分大丈夫です」

 苦笑いしながら答える。

「お、さすが優等生」

「瞳ねぇはどうなんですか」

「私?私も一応優等生ですから」

 とちょっと、威張って胸を張る。そんなことされたら、服の下の瞳ねぇの乳首を思い出して興奮してしまう。

「でも、試験勉強っていまいち身が入らないよね。何か試験前に楽しいことでもあれば頑張れるのにね」

「確かにそうですね。毎日の授業の後そのままの流れで試験ですからね。気分転換は欲しいかも」

 と返事したところで、急に閃いた。

「それじゃあ、試験勉強前の息抜きに一緒にDVD観ませんか?」

 何も考えずに思っていたことが口に出てしまった。言った瞬間、後悔した。瞳ねぇが驚いて目を丸くしているからだ。

 瞳ねぇがバイトを辞めるという話を聞いて焦ってしまった。勢いに任せて、何てことを言ってしまったんだ、僕は。慌てて今言ったことを無かったことにしようとする。

「いや、試験勉強に忙しいから無理ですよね」

「いいよ」

「ですよね、変なこと言ってすいません……え?」

「だから、一緒にDVD観ようか」

「え?いいんですか?」

「うん。試験前に息抜きってのも変だけど、ゆっくりとDVD見て試験勉強へのモチベーションを上げよっか」

 瞳ねぇはにっこりと笑った。僕は予想外の展開の、自分でも信じられない。

「それじゃあ、明日の午後にでもシューヤ君の家に行こうかな?」

 さらにと言う瞳ねぇに、僕はなんとか「分かりました」と返事をした。

「それじゃあ、また明日」

 瞳ねぇはバイト終わりにも関わらず、爽やかに挨拶をして去っていく。瞳ねぇの周りだけが妙に明るい気がした。







七月八日 (日曜日) 14時 修也宅


「お邪魔します」

 と言いながら、瞳ねぇは僕の部屋に入ってきた。

 試験期間前の日曜日。本来なら勉強に集中しなければならないが、これから始まる長い試験期間を前にして、今日は少しの間気分転換をしようと、昨日のバイトの帰り道瞳ねぇと約束したのだ。

 まさか瞳ねぇが僕の部屋に遊びに来ることなんて想像していなかったから、昨日の夜は色々なことを考えてしまい眠れなかった。

 僕の提案を快く受け入れてくれたということは、実は瞳ねぇも僕のことを好きなのではないかなんて都合のいい想像をした。だが逆に、瞳ねぇは僕のことを本当は弟くらいにしか見てくれてないんじゃないかと不安にもなった。弟なら、家に遊びに行くのにそんなに抵抗がないだろうから。

 そんなことを何度も考えながらも、結局眠れなくて昨日も瞳ねぇの乳首の画像でオナニーをした。

「どうぞどうぞ」

 と瞳ねぇを部屋の中に案内すると、買い物してきてくれたみたいで、コンビニ袋からお茶を取り出し僕にくれた。この気遣いに瞳ねぇの優しさを感じ、ちょっと感動した。

 瞳ねぇは「やっぱりシューヤ君の部屋はシンプルでいつ来ても綺麗だね」と言ってくれた。そして、少し緊張しているのかぎこちなく笑った。

 今日の瞳ねぇは、黒のワンピースと白い薄手のカーディガンを着ている。いつも黒い服を着ているイメージがなかったので、珍しいと思った。ワンピースの胸の膨らみや露出する肌の白さも、本来なら他人が見ることはできない瞳ねぇの裸を知っているから、尚更に興奮する。

 髪はおろしていて、メイクもバイトの時よりはっきりしている。いつもよりもずっと大人っぽく見えた。

 僕はテレビの前に座布団を敷いて瞳ねぇを促す。テレビの前の座る時に、少しだけ生足がチラッと見えたのを見逃さなかった。

 それから少しの間勉強の進み具合や山場の話をしてから、DVDを見ることにした。

 DVDはサスペンスもので、時々二人で思ったことを言い合いながら観ていた。ただ僕は、チラチラと瞳ねぇを盗み見ていたので集中できなかった。

 足を組み替える時とか、テーブルの上のお茶を取ろうと手を伸ばす時とか、瞳ねぇの生の肌をバレないように注意しながらもしっかりと目に焼きつけた。僕と一緒に瞳ねぇの裸を見たことのある三沢君ですら、この距離で見ることはできない。

 瞳ねぇはDVDを見ながら、色々とリアクションをするタイプのようだ。画面に向かって「うわっ」とか「なんでなんで」と話しかけている。

 イメージの中での瞳ねぇはもっとクールな印象があったので、

「瞳ねぇっていっつもそんな風に画面に話し掛けながらDVD見てるんですか?」

と聞いてみたら、恥ずかしそうに赤くなって「今日はシューヤ君と一緒だからだよ。いつもは静かに見るよ」と言っていた。きっと、いつも声に出しているんだろう。

 イメージと現実のギャップが、さらに僕を瞳ねぇに夢中にさせる。また一つ、瞳ねぇの魅力が増えた気がした。

 一話目を見終わった後で、二人並んでお菓子を食べながら休憩した。

「あと一話だけ見たら帰ろうかな?」

「お、いいですね。流石にあの一話だけじゃ帰れないですよね」

「うんうん、続きが気になり過ぎる」

 二人で盛り上がっていると自然と瞳ねぇの足が体育座りになっていく。

「それじゃあ、二話目にしますね」と言って、DVDを交換する時、さりげなく瞳ねぇの足元を盗み見た。

 体育座りになったため、ワンピースの裾が持ち上がり、中がチラッと見えた。光り輝く太腿と、ピンク色のショーツが。

 一瞬で股間が熱くなる。だが、決してバレないようにゆっくりと瞳ねぇの横に戻った。そして、DVDを再生させる。

 二話目が始まると、瞳ねぇはさっきと同じようにまた画面に話し掛けながら、感想を言い合う。とても楽しいのだが、僕は全然集中できない。

 最初は一緒にDVDを見ながらも、僕の部屋に瞳ねぇがいることが夢のようで、いまいち現実感がなかった。でも、ワンピースの中の太腿を見てしまってからは、考えが変わった。さっき見た太腿が、瞳ねぇという触れ難い高貴な存在を、女性という性の対象へと変えてしまった。

(今、ここで襲おうと思えば襲える)

さっき見えた太腿とショーツ。さらに盗撮した瞳ねぇの裸の画像を思い出す。今、黒いワンピースの下にある純白で豊満な体。チラッと横顔を見た時のスッと通った鼻筋に、血色のいい柔らかそうな唇。それらが僕の脳内に鮮明な画像としてぐるぐると回っている。

 そう、僕の行動によっては、このまま瞳ねぇを僕だけのものにすることも可能だという状況が、僕の黒い欲望に火を点けそうになる。

 だが、瞳ねぇが僕に話し掛ける明るい声が、何とか僕の理性を繋ぎ止めてくれる。

 本能と理性の間で揺れ動いていると、気づけば二話目も終わっていた。

「終わっちゃったね」

 名残惜しそうに瞳ねぇは呟いた。僕も、これで瞳ねぇと一緒にいられる時間が終わったことが寂しくて、「終わっちゃいましたね」と呟いた。

 二人が暗くなったテレビ画面の前で並んで座っている。どちらも動こうとしない。

 すると瞳ねぇが、

「シューヤ君といるとなんか妙に落ち着くなぁ」

 と言ってくれた。それだけで、とても嬉しかった。

 僕も何か言わないとと思って、

「僕も瞳ねぇと一緒にいると落ち着きますよ」と早口で言ってみた。

 そしたら瞳ねぇは「無理に言わないでいいよ」と笑った。僕は真剣な顔で瞳ねぇを見る。そして、

「本当です。瞳ねぇと一緒にいると、楽しいです。」

 僕の瞳を見返し、瞳ねぇは嬉しそうに頷いた。

 僕はゆっくり手を伸ばし、瞳ねぇの手に僕の手を重ねた。瞳ねぇは、びっくりしたのか少し後ろに退けぞった。

 僕は慌てて手を引っ込めると、「ごめんなさい」と謝った。

 瞳ねぇは、少し気まずそうにしていたが、

「そろそろ勉強しなきゃいけないから、帰るね」

 と言って立ち上がった。

 瞳ねぇの手を触れたことを後悔していた。ちゃんと自制しようと決めたはずなのに、嬉しいことを言われたせいで、我慢できなかった。

 もう来ないと言われたらどうしようと不安になりながら、瞳ねぇが玄関に行くのを見ていた。

 帰り際、扉を閉める直前に瞳ねぇは聞いてきた。

「また来週の日曜日も、来ていい?」

 僕はすぐ頷いた。

「うん、また来週」

 僕の返事を聞いて、瞳ねぇはいつもの優しい笑顔になった。それに釣られて僕も笑顔になる。本当に、瞳ねぇの笑顔を見ると幸せな気分になれる。

「それじゃあ、一週間勉強頑張ろうね」

 そう言って、瞳ねぇはゆっくり扉を開け出て行った。その後瞳ねぇの香りがわずかに残った玄関で、僕は幸せを噛み締めていた。



 びっくりした。まさかシューヤ君が私に触れてくるなんて。

 手に触れられた時、本当は嫌じゃなかった。男の人の家に遊びにいく以上、その可能性も少しはあると思っていた。でも、シューヤ君の場合は奥手に見えたから、可能性は低いと思っていた。だから、つい反射的にのけぞってしまった。シューヤ君に悪いことをしてしまった。

 でも、バイトの先輩という立場で一度家に行っただけで恋人みたいなことをするのは、軽い女だと思われるかもしれない。

 そう思うと、体が急に拒んでしまったことは悪いことでは無かった気がする。

 だが本心では、もっとシューヤ君に触れて欲しかった。手を握り返したかった。

 先ほどシューヤ君に触れられた手を撫でる。心残りはあったが、それでもいいこともあった。次の約束ができたことだ。

 また来週も、私はここに来ていいのだ。またシューヤ君の隣でDVDを見ながら色々と話ができる。だから、何も焦る必要はないのだ。ゆっくり距離を縮めていけばいいのだから。

 そして、頭を切り替えた。

 来週また笑顔でシューヤ君に会うために、私は試験勉強を乗り越えるための算段をし始めた。



七月十一日(水曜日) 23時頃


「お疲れさまでした〜!」と言いながら、「ちょーちん」を出る。

「はーい、智樹君お疲れー」と森さんの声が聞こえてきた。

 店の前に人影はなく、俺はゆっくりと帰り道を歩く。

 他のバイトは試験期間中のため、学生バイトは俺だけだった。

 普段なら、途中までバイト仲間の誰かと一緒に帰るのだが、今日は久しぶりに一人だった。居酒屋から自分の家まで大体15分程度と、あまり離れていない。夜風にあたりながら家に帰る。

 そして、柏木瞳のことを考えていた。

 大学二年になった時、バイトの面接で柏木瞳を見たのが最初だった。可愛いと思ったが、当時は彼氏がいると言っていた気がする。そして、俺も部活に熱中していたため、あまり意識しなかった。仲の良いバイトの後輩、その程度の認識だった。

 だが、1年間バイトを離れて戻ってくると、可愛いさが、綺麗さに変わっていてびっくりした。まさか一年でここまで大人っぽくなるなんて。

 これは嬉しい誤算だった。

 居酒屋「ちょーちん」で働く女の子は、皆レベルが高い。これは、森さんの趣味で選別しているからだが、その中でも柏木瞳は一際輝いていた。

 さらに顔だけじゃなく、そのスタイルの良さ。モデルのように店内を歩く姿は、スタッフと客全ての男性を虜にした。そんな可愛い顔とスタイルは、一見とてもクールな印象を見るものに与える。それが結果として、男を寄せ付けない鉄壁のバリアになっている。

 最近になって、教育学部の同級生に聞いたところ、柏木瞳は教育学部でもちょっとした有名人らしい。教育学部は比較的女子が多いため、各学年に数名レベルの高い女子がいるそうだ。

 そして柏木瞳のいる三年には、現在三人の人気がある女子がいて周囲からは「御三家」と呼ばれているらしい。その三名とも、もしもミスコンに参加していたら優勝していてもおかしくないと言われている。

 本人達はアイドルのように見られていることを知らないが、同じ教育学部はもちろん、同じキャンパスの文系学部では、男達の間で「御三家」のファンクラブができるまでになっているそうだ。

 ただし、柏木瞳も含めた「御三家」は周りに彼氏の影がないため、実はレズではないかという噂まで出ているらしい。

 確かにあの美貌とスタイルで男がいないとなると、そんな噂が出るのも頷ける。さらに、外見だけでなく性格も明るく優しいため、周りの男達が夢中になるもの納得だ。

 実際バイトでも、森さんを始め厨房や他のバイトたちは、高嶺の花を見つめるように瞳を見ている。特に森さんの瞳を見る目は異常だ。俺以外の人は気づいていないだろうが、森さんの目は、明らかに瞳を性的な対象としてみている。

 だが、そう思っているのは俺も同じだ。俺も柏木瞳を抱きたいと思っている。

 別に、柏木瞳が好きだからじゃない。そうやって周りが憧れ、絶対に堕とせないと思っている女ほど、堕としたくなるのだ。あの美貌であの性格、そして周囲からの男の卑猥な眼差し。その孤高の存在を自分だけのものに堕としたい。

 こんなに堕としたいと思ったのは、前の部活のマネージャー依頼だ。

 以前俺は大学のラクロス部に所属していた。そこでマネージャーをしていた女は、実はちょっとした有名人で読者モデルをしていた子だった。そして、絵に描いたようなお嬢様の家系で育ったため、男への免疫のない純粋培養なお嬢様だった。俺はそんなマネージャーを強引に抱いた。最初は強姦に近かったが、何度も抱いているうちに、徐々に大人しくなった。だから俺は、そのマネージャーで遊びまくった。中出しはもちろん、野外プレイから複数プレイ。さらにSMまで。だが、しばらく遊んでいると、マネージャーは妊娠した。

 ヤバいことに箱入り娘のそのマネージャーが、親に妊娠したことを相談したため、大事になった。俺は大学本部に呼び出され、学部長とマネージャの両親のいる前で、尋問を受けた。大学も部活も、そして相手の女とその家族も穏便に解決したいとのことで、俺自身何の処罰も受けずに済んだ。だが、結果的に俺はラクロス部にいられなくなった。

 部活の人間は全員知っているが、何とか情報が流出するのは防げた。そのおかげで、部活以外の友達には、怪我をしたせいで部活を辞めたことにしている。

 さらに幸いなことに、就職中の会社にバレることもなかったので、内定の取り消しもせずに済んだ。

 さすがの俺も、この騒動にはちょっと懲りたので卒業までおとなしくしていようと思っていた。だが目の前にあんな純粋で可愛い女がいれば、我慢できるはずがない。

 柏木瞳の純粋さ、純朴さを黒く染めたくなる。

 柏木瞳という白い天使のような存在を、これ以上なく汚したくなる。

 いつも笑顔を見せてくれるが、セックスの時は一体どんな顔になるんだろうか。そう考えるだけで、興奮してくる。

 少しでも隙を見せれば、俺のものにしてやりたい。そう思った。

 だが、まだ焦る時間じゃない。例え十二月に辞めるつもりでも、まだチャンスはある。

 俺は自分に言い聞かせた。

 狙いを定め、虎視眈々と草むらに隠れる肉食獣のような気分だった。

 まずいな。柏木瞳のことばかり考えていたら、興奮してきた。そして一度興奮したら抑えることはできない。俺は携帯を取り出し、セフレに連絡した。

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