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【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その2) 柳家小三治さんのことなど

【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その2)柳家小三治さんのことなど

【和田】今度これ、11月中にこの配信は出るわけでしょ。それで、これ宣伝だから言っていいと思うんだけど、2021年12月末に出る『ユリイカ』が小三治特集なんですよ。

 

【三浦】おお、『ユリイカ』。

 

【和田】『ユリイカ』ね。落語の特集過去に2回ぐらいやって。まあ節操ない雑誌ですから、『ユリイカ』ってね。それで。

 

【三浦】『ユリイカ』ってどこが出してるんでしたっけ?

 

【和田】青土社。

 

【三浦】どっちかっていうと哲学的なことを取り上げる雑誌じゃなかったでしたっけ?

 

【和田】昔はね。そのあと割となんでも。2.5次元とかさ。なんでも乗ってくよ、みたいな感じになっているんですけど。

 

【山口】アニメとかね。

 

【和田】小三治特集なんですって。それで小朝師匠に、僕インタビューしたんですよ。

 

【三浦】じゃあ『ユリイカ』に和田さん寄稿されてるってことですか?

 

【和田】まあそうですね。それで、11月に予告たぶん出てるんだと思うんですけど……まあいいやそれは。で、小朝師匠が言ってたんだけど、僕も凄く合致したんですけど、やっぱり談志師匠とか小三治師匠って、ある時期から客がもう無条件に肯定する。客の側がね。という風になって、まあそれはそこでバランスとれてるからいいじゃんって考え方もあるんだけど、僕はけっこうそれは良くないなって思ってて。でもあの二人はなんかそこに行ったなあって。で、志ん朝さんもそうといえばそうなんだけど、時代が落語ブームにまだなってなかったので、そういう感じでもなかったと私は思うんです。

 

【三浦】なるほどね。信者みたいな感じではなかったってことですね。

 

【和田】じゃなかったと思います。談志と小三治はやっぱりそれを作りましたね、その状況をね。

 

【三浦】偶像みたいなもんですかね。

 

【山口】相当意図的ですよね。

 

【和田】めちゃくちゃ意図的でしょう。

 

【三浦】それは自分でそうやって作り上げていったってことなんですか? なるほど。

 

【山口】ファンを作っていった。

 

【三浦】小三治もやっぱそうですか?

 

【和田】いや、そうじゃないですか。だって、みんな小三治師匠素晴らしいって。

 

【三浦】私の場合、談志ほど小三治のことはそんなに好きではなかったので、小三治って……まあ何回かもちろん聞きにいきましたけど、「なんじゃいなこれ」って思ったこともあるし、凄いなって思ったこともありましたよね。

 

【和田】でも、2000年以降に……談志よりあとですよね、小三治に引かれたのって。

 

【三浦】あとです。

 

【和田】あとですよね。で、その時期で、なんか圧倒される高座ってありました?

 

【三浦】小三治で?

 

【和田】小三治で。

 

【三浦】あのまあ、その前を聞いていないのであんまり言えないですけど、私の場合は鈴本演芸場で。

 

【和田】余一会ね。

 

【三浦】余一会で、『らくだ』?

 

【和田】はいはい。

 

【三浦】あれを聞いたときに「これすげえな!」とけっこう思いましたね。あれなんの会だったんだろう? 多分余一会で。

 

【和田】だからあの、余一会を……あれやめたのいつだっけな。ずっとやってたんですよ、年に2回のペースで。それで七十代の前半ぐらいで、もう打ち止めにするってやめたんだけど。でも『らくだ』やったんだったら、それは良かったでしょうね。

 

【三浦】ええ。まあもちろん最後に出てきて……一門会だったかもしれない。

 

【和田】いやいや。一門会っぽいんだけど、独演会なんですよあれ、一応。

 

【三浦】独演会なんだ。

 

【和田】ただ、いろんな人を出す。

 

【三浦】なんか(柳家)三三とかもいたような気がするし。

 

【和田】そうそう。

 

【三浦】それで相変わらず枕は長くて、『らくだ』が始まって、落合の焼き場までキッチリやるわけですよ、延々と。2時間ぐらいやってて、終わったの11時過ぎてて。

 

【吉田】……それ聞いたかな俺。

 

【三浦】それ、一緒に行ってません? もしかすると。

 

【吉田】それいつ頃ですか?

 

【三浦】それがもう時代が覚えてない。その鈴本演芸場で小三治で『らくだ』聞いたって。

 

【吉田】うーん、なんか思い出した。

 

【和田】それはいいと思いますね、たぶん。『らくだ』って近年やってないですもん。やってない。だからそれはもう本当に特別に、たぶんやり納めみたいな感じだと思います。

 

【吉田】僕ね、80年代に『死神』を聞いたことあります。あれはいいです。

 

【和田】はいはい。あれはいいですよ。

 

【三浦】80年代。

 

【吉田】学園祭に来たんですよ、小三治さん。

 

【三浦】えええ!!

 

【吉田】それで、覚えてるんですよ。『死神』で、最後倒れるじゃない。

 

【和田】はいはい。

 

【吉田】で、学園祭……じゃない。体育館で全校生徒集まって聞くわけですよ。最初、落語なんてそんなにみんな慣れてないから、ザワザワしてるじゃないですか。グーッと引き込まれていって、最後にその……崩れ落ちるじゃないですか。

 

【和田】死ぬんですよね。

 

【吉田】死ぬんですよね。死んだあとに、こう、頭を床に、ゴン! ってこう。それマイクにボーンって響いて、そのときなんかもう「怖ぁ……」って思って。男子校ですからね。男子校の千人ぐらいの生徒が全員震えあがったっていう。あの感じは忘れられない。

 

【山口】めっちゃサービス。

 

【三浦】それ凄い大変ですよ。

 

【山口】その演出はサービスだよね。

 

【吉田】ゴーン。あれ怖かった。

 

【和田】幕閉めたんですか、そのとき?

 

【吉田】幕は閉めてないんじゃないかな。

 

【和田】閉めてないのかあ。

 

【三浦】学園祭ですよね。

 

【吉田】いや学園祭じゃなくて、文化講演会。

 

【和田】学校で呼んだんだ。

 

【吉田】そう。井上ひさしがドタキャンになって、なぜか小三治が来た。

 

【三浦】それはまた、なんちゅー代演。

 

【吉田】でもほんとに、あのとき聞けて良かったなと思って。そこから僕、生の落語って『談志×談志レボリューション』まで聞いてないですから。

 

【三浦】凄い最近ですね。

 

【山口】いい『死神』を聞いたのにはまらず。

 

【吉田】ていうかさ、言いたかったんだけど今日。あの……山口は、学生時代から見てるわけだよね?

 

【山口】中学ぐらいから。

 

【吉田】でしょ。で、大学で上京してさ、東京でいい落語いっぱい聞いてるわけでしょ。で、そのとき友達だったじゃん。

 

【山口】友達でしたね。

 

【吉田】で、一緒に映画とかさ。

 

【山口】パンクバンドとか行ってましたね。

 

【吉田】一緒に映画とかライブとか。

 

【山口】(ザ・)スターリンとか行ってましたね。

 

【吉田】演劇とか、散々行ってるのに、落語に1回も誘われたことないんです。

 

【山口】いやいや。

 

【三浦】ああ、それは。

 

【吉田】誘うでしょ、普通。

 

【山口】いやいや、歌舞伎も宝塚も落語も見てたんで、全部話せないじゃないですか。

 

【吉田】いや、話せるでしょ。

 

【山口】いやこの人パンクの人だな、パンクバンドやってた怖い人だっていうイメージがあるからやっぱり……。

 

【吉田】それでなんで誘ってくれなかったの? けっこうあれですよ、いろんなもの一緒に見にいった記憶あるのに、なぜ。その時に聞いていればさ、あの時の談志がねとか、志ん朝がねって、今日この話もうちょっと参加できるじゃない。まったくないから。なんで誘わなかったんだろう、と思ったら、やっぱり一つには、僕が凄く……伝統を当時……まあいまだにちゃんと入ってないですけど、ほんと若いときは今より遥かに伝統を軽視するというか。結局もう自分が勉強しなおすの嫌だから、もうめんどくさい、みたいな。のが、分かってたから、こいつ誘ってもしょうがないみたいな。

 

【三浦】それを山口さん察知して……。

 

【山口】察知っていうか、全面的にパンクの人ですから。

 

【吉田】いや違うよ。

 

【三浦】吉田さんパンクだったんですか?

 

【吉田】パンクの人じゃないよ。

 

【山口】なんかそういう感じですよ、なんか過激な人ですよ。

 

【吉田】もう一個は、山口にいつもお金を借りてたんで。落語って高いじゃないですか、映画より。

 

【山口】そんなことないよ。

 

【吉田】チケット代を、なんか俺に沢山たかられるのが嫌だった。

 

【山口】そんなことないよ。いやぜんぜんセンスとして、たぶんそういう音楽系の人だと思ってたんで……。

 

【吉田】いやいや、映画だって演劇だっていきましたよ。

 

【三浦】演劇は一緒に何に行ったんですか?

 

【吉田】小劇場ですね。

 

【山口】第三舞台とかね。もう早かったですよね、第三舞台。

 

【三浦】あ、第三舞台。

 

【吉田】同じ学校に本拠地があったから。

 

【三浦】いわゆるアングラな感じ。

 

【吉田】そうですね。でも、もういろいろ見ましたよ。演劇。山口とも行ったし。みんな、でも割と周りの学生はそのころ小劇場は。

 

【三浦】そうですね。けっこうみんな行ってましたね。

 

【山口】ブームでしたね。

 

【吉田】三浦さんとも行ったこともある。

 

【三浦】そうですね。

 

【吉田】三浦さんとも寺山修司とか行ったしね。あ、それは学生というか。

 

【三浦】学校だと……そうか、アングラじゃないですもんね。

 

【吉田】そう、なんかそういうオーセンティックなものに……。

 

【山口】いや、それ貴方、相当背を向けてましたよ。

 

【吉田】向けてないよ。だって俺、落語はね、悪いけど落語聞いてたんだよ俺。

 

【山口】そうなの!?

 

【吉田】カセットとか、あと俺、新宿に貸しレコ屋あったじゃん。今のビックロの地下にあったじゃん。あそこで志ん生とかのレコード借りてテープにとって、いつも寝る前に聞いてたんですよ。

 

【山口】ええ! そうなの?

 

【三浦】その、学生時代?

 

【吉田】聞いてるのは聞いてたんですよ、凄く好きだった。でもその、落語聞いてるって話はしてなかったんで。

 

【三浦】それはお互いに……もっと言えば良かった。

 

【吉田】少しコミュニケーション足りなかったんですね。もうでも、見れないじゃないですかね。時計の針は戻せないですもんね。

 

【三浦】でもこれからですよ、これから。

 

【吉田】今日これだけ言いにきたんで(一同笑)。

 

【山口】恨み節か。

 

【吉田】誘っておいてくれよお。

 

【山口】80年代ね。志ん朝とか、お元気だったのに。

 

【三浦】山口さんは、そういうのだいたい全部ご覧になってるんですか?

 

【山口】僕はもうほんと広く浅くで、ほんとに詳しくないんですけど……。

 

【三浦】あの三百人劇場の志ん朝とかは。

 

【山口】いやいや、あれって……。

 

【三浦】あれ和田さん行ってるんですか?

 

【和田】いや、あれはだって。

 

【山口】だいぶ前だよね。

 

【和田】1980年前後だから。

 

【三浦】和田さん、まだ……。

 

【和田】僕まだ9歳ぐらいですから。

 

【三浦】それは行かないですよね、9歳だとね。でもこの間ここにちょっと来てくれたオフィスエムズの加藤さんって、おじいちゃんに連れられてそういうとこ行ってたり。

 

【和田】ああ、大須演芸場に、行ってたって言ってましたよね。まあそういう人もいるとは思いますけど。

 

【三浦】まれな人ですよね、ああいう人は。

 

【山口】和田さん、落語はいつ頃から生で聞いてたんですか?

 

【和田】僕は14、5歳ですね。落語、嫌いではなかったんですけど、なんとなく圓蔵さん……(五代目)月の家圓鏡さんの落語とか聞いて面白いなあと思って。まあようするに僕は、漫才ブームとかの世代なんですよ、そもそも。

 

【三浦】いつの漫才ブーム?

 

【和田】いや、だから、ツービートとかの。

 

【三浦】あ、ツービート。

 

【吉田】『THE MANZAI』のね。

 

【和田】そう。で、あの流れだと、圓鏡さんとかに行きやすいんですよ。

 

【三浦】月の家圓鏡。

 

【和田】月の家圓鏡。

 

【吉田】でも、あんまり一緒には出てないでしょ。

 

【和田】いやいや、でも圓鏡対ツービートとかさ。花王名人劇場でああいうのやってたから、あのカルチャーとあの辺が近いんですよ。あと僕ははまらなかったけど、(三遊亭)圓丈さんとかね。

 

【三浦】あ、圓丈。

 

【山口】新作落語のね。

 

【和田】あの辺のがあるんですよ、その同じゾーンの中で。それで、なんかそれで嫌いじゃなかったんですよ。その流れ上。だけど、まあ落語ってのはあるな、ってのは思ってたんですけど、高校1年生のときに第一生命ホールで「談志一門会」ってのをぴあで発見して、友達と「行ってみようぜ」って行ったんですよ。

 

【三浦】高校1年で。

 

【和田】で、もう全然切符とかも普通に買えたんで。そしたら談志がトリに出て『らくだ』やったんですよ。これが衝撃で。

 

【三浦】それはもう鮮烈に覚えてる、今でも。

 

【和田】いや勿論です。鮮烈に覚えてるし、談志のベストスリーっていったら入ります。ベストワンといってもいいですね、その『らくだ』は。

 

【三浦】その『らくだ』は音源とかはないですよね。

 

【和田】ないと思うなあ。第一生命の……でもあの一門会、凄いいい一門会だったんですけどね。

 

【三浦】他、弟子はだれが出てたんですか?

 

【和田】だからそれが、そのときに志らくさんも出たんだけど。当時前座で志らくさん出たんですけど、僕はほんとにそれ、人生を決定づけたなと思うんだけど、トリに談志が出て『らくだ』やってものすごい「これ、こんなアートがあるのか」と思って。で、その前に出たのが高田文夫と景山民夫。

 

【山口】で、漫才。

 

【和田】いや、落語やったの。

 

【吉田】え、落語やったの!?

 

【和田】影山さんが立川八王子って名前で『時そば』をやったんです。『時そば』の改作ね。

 

【三浦】それが立川流のなんとかコースっていう。

 

【和田】そうです。

 

【三浦】なにコースでしたっけ?

 

【和田】Bコース。

 

【三浦】Bコースか。

 

【和田】で、高田文夫さんが立川藤志楼で『道具屋』をやったんです。

 

【三浦】立川藤志楼……トーシロ―ってやつですよね。

 

【和田】これもめちゃくちゃ面白かったです。この『道具屋』もめちゃくちゃ面白かった。それで「凄いな」って思ってて、最後に『らくだ』はもう、それに輪をかけるっていうか次元が違うレベルで凄いんですよ。だからそれがもう衝撃ですね。

 

【三浦】そのBコースの二人もうまいってのが凄いですね。

 

【和田】うまかったですよ、普通に。

 

【三浦】え、景山民夫がなにをやったんでしたっけ?

 

【和田】『時そば』。景山氏はあんま落語やってなかったんで貴重だと思います。これ聞いてるの。高田先生のほうが割としょっちゅうやってたので。

 

【三浦】高田先生は私も聞いたことあります。

 

【和田】それいつ頃ですか?

 

【三浦】いやあ、いつだろう。でも、2000年代のどこか。

 

【和田】ああ、そうでしょう。

 

【三浦】ええ。そんな昔じゃない。

 

【和田】末広亭でしょ。

 

【三浦】そうかもしれないですね。

 

【和田】2006年に末広亭に出たんですよ。そのときのだと思いますけど。あの、これは僕も、ずっと文章とかに書いてあるんでここでも言いますけど、80年代の高田文夫と90年代以降の高田文夫はもう別ですから。芸風が全然別なんです。

 

【三浦】そうなんですか? 落語の芸風が違うの?

 

【和田】落語も違いますしトークも違います。80年代がなんか凄かったんです。それをちょっと僕はもうアナウンスしたいんですよ。

 

【三浦】それは立川藤志楼として違ったってことですか? 高田文雄としても違った?

 

【和田】立川藤志楼としても違うし、高田文雄としても違うんです。割とけっこうはっきりした区切りがあって。

 

【吉田】あの、音源に残ってるのあるじゃないですか。

 

【和田】音源に残ってるのは全部90年代以降の。だからそれを僕は、ちょっと不満があるわけよ。90年代以降のものしか出てないから、あれで判断されちゃ困るところがあるんです。と私は思う。

 

【三浦】もっと凄かったってことですね、80年代。

 

【和田】そうです。

 

【三浦】でも90年代以降でも十分、僕そんなに聞いてないですけど、十分聞きごたえあるんですよ。

 

【和田】いや、みんなそう言うんですよ。

 

【吉田】あの音源の……なんだっけ、あの噺。噺の名前出てこない。

 

【山口】『死神』じゃなくて?

 

【和田】『死神』もやってましたね。

 

【吉田】『死神』じゃなくてあのほら、奥さんを女郎にしちゃう。

 

【和田】ああ『お直し』ね。『お直し』、CDになってますね。

 

【吉田】『お直し』聞いてやっぱなんか、CD聞いただけですけど、聞いた『お直し』の中では好きだなあって。

 

【三浦】へえ、そう。

 

【和田】はいはい。

 

【吉田】だけど、でもやっぱりあれなんですか、80年代のほうがいいって。80年代って。

 

【三浦】『お直し』って……レパートリーも違いますか?

 

【和田】違います。『お直し』とかやってないですし、高田さん……っていうか藤志楼でいうと、当時ほとんど誰もやってなかった『首ったけ』って噺があるんですよ。

 

【三浦】ああ、ネタの名前はなんか知ってます。

 

【和田】廓噺で、あれをまず取り上げるっていうのが独特のセンスだし、あれをやって……コロンビアのCDに入ってますけど、面白いです。『首ったけ』ってすごく特殊な廓噺で。ある男が女郎にふられるんですよ。ふられて、なんか店から「帰れ」みたいな感じになっちゃうわけ。で帰るんですよ。で、家帰るのも寂しいんで、別の店に上がるんです。その流れで。

 

【三浦】おお。別の店。

 

【和田】ね、「ここの店、もう俺足蹴にされた」と。

 

【三浦】別の女郎屋に上がる。

 

【和田】別の女郎屋にもう一回金払って、帰ってるから夜中なんだけど、上がるんです。そうするとその女郎屋のほうにいい扱いをされて、なんとなく仲良くなるんです。で、数カ月後に、吉原に火事が起きるんですよ。それで火事が起きて「わああ、大火事だ、大火事だ」って女郎が、まあ吉原炎上みたいな感じでみんなわあって走って、吉原のドブにどんどんこう詰まっちゃったり、ドブにはまったりするわけ。

 

【三浦】まあ火事だとね。

 

【和田】そうそう。で、お金とかちょっと巾着にいれてわあっと逃げるわけよ。そうすると自分をふった女郎が出てきて、その店から出てきて、そのドブにはまるんですよ。そんで、なんか「てめえ俺のことふりやがったな」って足蹴にするっていう。そういう噺なんです。

 

【三浦】なんか嫌な噺ですね。

 

【和田】嫌な噺なんです。めっちゃ嫌な噺ですよ。だからなんていうのかな、もうお互いになんか裏切りあいっていうかさ。

 

【三浦】なるほど。

 

【和田】そう断絶みたいなやつなんですけど。

 

【三浦】それで終わっちゃうんですか?

 

【和田】終わっちゃう。で一応サゲが、「おめえ俺のことなんかふりやがっただろう、ふざけやがって」って男が言うわけですよ。そうすると「そんなことないよ。私のこと見てごらん。こんなに首ったけだよ」っていうのがサゲなんですよ。首まで水に浸かってるから。

 

【三浦】ああ、なるほど。

 

【和田】首までドブに浸かって「ほんとにわたしは首ったけだよ」っていう、なんかとってつけたような。

 

【山口】ほんとですね。

 

【和田】まあ落語的な、ですね。

 

【三浦】それを得意にしてたんですか?

 

【和田】得意っていうか、やってたんで。

 

【三浦】やってた。

 

【吉田】それで、高田先生、藤志楼がとりあげる前は誰がやってたっていうこと?

 

【和田】前は、だから志ん生一家しかやってない。で、ほかの人出た……『首ったけ』聞いたことあります?

 

【山口】ある、(桃月庵)白酒とかやってるね。

 

【和田】だからそれは志ん生系だからやってるんだけど、藤志楼よりあとです。

 

【吉田】ああ、そうなんだね。(金原亭)馬の助もやってる。

 

【和田】そうそう、だから、基本的に志ん生一家のネタなの、『首ったけ』ってのは。

 

【山口】なるほど。古今亭のね。

 

【吉田】ああ。でも古今亭っぽい噺ですよね。

 

【和田】そうそう。

 

【山口】めちゃめちゃ明るみがあるってね。

 

【三浦】古今亭っぽいんですか、その噺って。どういうところが古今亭っぽいっていう感じなんですか?

 

【山口】いや、やっぱり古今亭と柳家ではね。

 

【和田】いや、ちょっと説明してください。

 

【三浦】なんとなくでいいんですけど。やっぱりその、それぞれの一門が……。

 

【吉田】いや、古今亭やっぱ軽いし、スラップスティックっていうか。ドライな笑いですよね。コント的というか。

 

【三浦】なるほど。ちょっとある種残酷味を帯びたりもする。

 

【吉田】本当にハイレベルなものはそこまでいくこともありますけど、基本的に「お笑い」って感じの。

 

【三浦】なるほど。

じゃ、柳家はヒューマン。

 

【吉田】柳家のほうがそうですよね。ドラマ性というかストーリー性というか。聞かせる。噺を聞かせます、ってイメージが強いですよね。

 

【三浦】ああ、なるほど。

 

【吉田】やっぱなんか、なんだろう、志ん生のイメージですかね、やっぱ。志ん生のイメージ大きいですよね、古今亭。以降の影響というのがね。

 

【三浦】志ん生、まあそうですよね。

 

【和田】あと基本的に廓が……そもそもそういう台本ではあるんだけど、狐と狸の化かし合いだよっていうのが世界観なんですよ。

 

【三浦】まあドブにはまってもそれやってるって話ですね、火事になって。

 

【和田】だから『文違い』とか……。

 

【山口】『文違い』『五人廻し』とかね。

 

【和田】そうそう。だからお互いに、こっちも向こうもウソ言ってるし、こっちもウソ言ってるしみたいな、しょうがないねえみたいな世界観。

 

【山口】『お見立て』とかね。

 

【和田】そうですね。

 

【山口】みんな廓噺は確かに同じパターンですね。

 

【三浦】じゃ、白酒なんかはけっこう『お見立て』好きでやるのは、そういうのもあるんですね、きっと。

 

【和田】だから(五街道)雲助さんも得意ネタだし、遡っていうと(金原亭)馬生師匠、十代目の。

 

【三浦】あ、そうか。あの一門ですね。

 

【和田】だからあのファミリーのネタなんです。

 

【三浦】もしかすると、あんまり志ん生まで最近ちょっと遡って聞いてないですけど、自分としてはそっち系好きかもしれないってちょっと今思います。割と白酒とか聞いてると、すげえ面白いなと思ったりするんで。

 

【山口】白酒は、美味しいとこどりしてるよねえ。

 

【三浦】ああ、そうですか。

 

【山口】上の人の、本当に研究してね。

 

【三浦】研究してる?

 

【山口】すっごいしてます。今、受けるように、全部こう。

 

【三浦】で、意外と……あんな感じですけど強きなんですね、白酒。

 

【吉田】いやいや、あんな人はいないですよね。あんな強きな。

 

【和田】「ね」と言われるとそこはですね(笑)。

 

【山口】いやいや、僕より全然親しい。

 

【三浦】ちょっとその辺のことってどうなんですか? ていうか仲間内から好かれてないみたいなことあるんですか?

 

【吉田】いや、それ答えられない……。

 

【和田】いや、それは分からないですけど(笑)。白酒がいかに悪い人かみたいな。

 

【山口】いや、それはどうか知らないですけど。

 

【吉田】これ公開されるんでしょ?

 

【三浦】あんま、そんなに聞いてる人いないから……。

 

【和田】さっきの話に戻ると、僕はほんと謎なのが「『小三治がいい』ってみんな絶賛するのはなんなの」って。

 

【山口】めっちゃ、ディスろうとしてますね、なんかさっきから(一同笑)。

 

【吉田】さっきインタビューしたって……それはそういう論調で『ユリイカ』も登場なさってるわけですか? 「なにがいいか分からない」って。

 

【和田】あ、そうです。だからどこまで再現されるかどうか分からないですけど、今回の小朝インタビューめちゃくちゃ面白いですよ。

 

【三浦】そうですか。

 

【和田】現場めちゃくちゃ面白かったです。12月末に出ますから、どこまでこうあの……。

 

【三浦】カットされずに。

 

【和田】そのままになるか分からないですけど。

 

【三浦】でも事前にチェック入りますよね。

 

【和田】だから、僕っていうより小朝師匠がチェックするから。

 

【三浦】ああ、そっか。

 

【和田】小朝師匠がどこまでそのまま出されるのかなってことですけど。

 

【三浦】楽しみです。

 

【吉田】ここでしゃべってほしいですよね。実際どういう会話があったのか。やりとりが。

 

【和田】予告ってことでね、今はね。まあ出ますから。

 

【三浦】でもそんなに、晩年の小三治が駄目だ、とかっていうのって、やっぱそれはなんかあるわけですよね、何度かこうやっぱり。

 

【和田】いや駄目っていうか、多分その『らくだ』とか、『らくだ』は聞いてないけど、多分いいと思います。そこまで、晩年にやってないネタだし。

 

【三浦】ああそうだ、やってないですよね。

 

【和田】鈴本の余一会の、たぶんご本人も圓丈さんの見てあれやったんだと思うんですけど、それから、なんていうのかな……僕もいいと思うネタありますよ、もちろん『死神』とか『鹿政談』とかね。

 

【三浦】『鹿政談』。

 

【和田】『鹿政談』はめちゃくちゃいいと思います。落語研究会でやってます。『鹿政談』はものすごい長い間をわざととって、空白でポン、って言葉を置くっていうのがやるんですけど、それがものすごいプラスに作用してる。あれはシーンと聞いてくれる状況じゃないと成立しないんで。

 

【三浦】だから落語研究会でやるわけですか?

 

【和田】だと思います。

 

【三浦】みんなシーンと聞きますもんね。

 

【和田】聞きます。あと、プラス、シーンとさせるパワーを持ってるってことですよね、本人が。そのぐらいの圧がある。

 

【吉田】それいつ頃の……。

 

【和田】『鹿政談』いつだっけなあ。

 

【山口】2000年代?

 

【和田】90年代後半ですかねえ。

 

【三浦】じゃあ、もうけっこう……20年以上前ってことですね。

 

【和田】そうですね。だから最後のほうは、みんななんかオーディエンスがちょっと褒めすぎで……になってんのが不思議で、でもそういう風になるもんだよって言われればそうなのかもしれないんですけど。

 

【吉田】それは志ん朝が亡くなったからでしょう。はっきりいえば。志ん朝のファンが流れたでしょう。

 

【三浦】志ん朝ファンが小三治に。

 

【吉田】もう正統派、江戸落語。

 

【三浦】談志には流れずに。

 

【吉田】談志はまあ、ちょっと変わってるんで。

 

【和田】談志には流れにくいですねえ。

 

【吉田】ストレートに落語を聞きたい。談志は談志が前面に出るじゃないですか。

 

【三浦】ええ、そう。落語だけど談志って。

 

【吉田】自分が作品だ、みたいなところあるから。意外と僕は本格的に聞き始めたのはやっぱ談志さんだったんですよ。だから、いろんな落語好きな人と話すようになるじゃないですか、あ、落語好きなんだって。でもやっぱり、談志大っ嫌いって人意外といるんだなっていうのは、それまでは知らなかったです。やっぱりそういう、だから志ん朝、小三治の流れを大事にしてる人にとってやっぱ談志さんってのはちょっと、そういう……。

 

【三浦】異端ってことですか。

 

【吉田】異端だし、なんならもう目障りというか……ちょっとこう、そんな存在だったのかもしれませんね。

 

【山口】なかなか女性人気ないですよね、談志は。

 

【和田】そうですねえ。

 

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/

担当:炭治郎(ペンネーム)

この度も、ご依頼、有難うございました。『死神』『お見立て』など昔ラジオで聞いたのを思い出しました。とかくビジュアルに頼りがちな昨今のお笑い。いわば「語り」で勝負の落語は、私のような全盲にも意外と親しみやすいエンタメなのかもしれません。令和4年の初笑いは古典落語で決まり。

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