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SF映画『THX1138』を観て

ジョージオーウェルの1984のようなディストピアものです。



※ネタバレ有りの感想


高校生の頃一度見たきり。当時はよくわからなかった。

真っ白い部屋の中で真っ白い服を着た主人公の絵が、強烈に印象に残っていた。

ユーネクストで配信されているのを知り 再度鑑賞。

内容

時は25世紀、コンピューターが支配する地下世界。機械的管理のもと、人類は登録番号で呼ばれながらさまざまな作業に従事していた。そんな中、そこで暮らす「THX1138」と女性のルームメイト「LUH3417」は精神抑制剤の投与をしない日々を続けてしまい、次第に「人を愛する感情」を覚え始める。

ユーネクストの作品紹介ページより

全員が髪の毛を剃り、同じ服を着ている。
投薬され、感情までも当局の管理下におかれている労働者の中で、一人の女性LUH3417(「ラフ」と呼ばれる)が薬を飲むのを拒否し始める。

彼女は、同室の男性THX1138(「ゼクス」と呼ばれる)の薬もすり替える。

恋愛感情が蘇ったラフはゼクスに言う、
「あなたが居なくて寂しかった」

性行為も禁止されているので、
「なんで僕を巻き込むんだ?」
と言いつつも、ゼクスはラフに接吻。

次のシーンでは裸で抱き合っている二人。
ラフ「見られてるのよ」と警告。
ゼクス「見えるもんか」と投げやり。

おいおい

立ち位置が逆になったね。


茶化してしまったが、このシーンは、労働者たちはリビドー制御薬を飲まされており、その投薬をやめた結果ラフとゼクスは性交渉を持ってしまう、
というくだりである。

ラフの言う、「見られている」というのは、監視カメラもあるし、他の労働者の密告もあるという意味で、労働者同士で監視や密告をしているのである。

ラフとゼクスは囚人となり引き離される。妊娠していたラフは胎児を摘出され、用無しの個体とし処分される。
それを知ったゼクスは逃走、最後は地上にでるが、彼が見たのは真っ赤な太陽だけ、というシーンで終わる。


ラストシーン


ラフとゼクスは、おそらく「love and sex」なのだろうと思う。

取り戻した人間性の核心にあるのは、ロマンティックでエロティックな愛ということか。



この映画は、あからさまに怖がらせようと意図したホラー要素は無いが、現実社会の管理されている部分を連想させる。だから怖い。

労働者全員が、真っ白い服でスキンヘッド、それが無垢さを演出して、集団の思考力が低下しているという不気味さ、空恐ろしさがある。

また、労働者向けの告解部屋があり、イエス・キリストは顔の部分のアップのみで十字架はなく、自動音声の司祭の最後のセリフが、「幸せになりなさい、どんどん買いなさい」となっていてゾッとする。

その他にオナニー用の自動機械もあり、その最中ゼクスが見ているのが全身メタリックのスキンヘッドの女性が踊っているだけの画像になっている。
ポルノの代用ということなのだが、徹底して信仰の自由も娯楽も無いのが怖い。




私にはユダヤキリスト教圏のホラーやSF作品を見ると、男女のキャラ設定にすぐミルトンの失楽園を連想するというクセがあるが、
この『THX1138』も楽園追放の要素がないわけでも無い。

最初に禁忌を破るのは女で、男を誘うところなんかがそれに当たるわけだが、天国を装った地獄から逃亡しようとしたカップルの話で、どちらかといえば、浄瑠璃の心中もののような話である。

女の方は捕まって処刑、
男は逃げ仰せたけど、そこにはまた別の地獄があった…という解釈をしたが、確信は持てない。

公開は71年とあるが、今もラストシーンの解釈は分かれるだろう。

ジョージオーウェル『1984』のように、時勢で解釈もガラリと変わる作品だと思った。

(終わり)

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