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【読書記録】青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』【”ノック”で心情は図れる】

私は堤幸彦監督のドラマ作品が好きです。
普段ドラマは見る習慣がないのですが、「堤幸彦監督」ということで毎週かかさず見ておりました。
内容はミステリもので、原作を読むのはドラマが終わってから…と我慢をしていた次第です。


2人の青年が共同経営する「ノッキンオン・ロックドドア」なる、探偵事務所。
2人はそれぞれ、「不可能」と「不可解」を得意分野とする探偵である。
2人で1つの探偵は、互いに補いながら事件を解決していく…。

「どちらが探偵さん?」
「残念ながら両方です」と僕。「うちは共同経営でしてね」
「俺が不可能専門、御殿場倒理」
「僕が不可解専門、片無氷雨」
(中略)
 そうなのだ。僕らは二人とも探偵だが、微妙に思考の指向(もしくは嗜好)が偏っている。倒理はトリックの解明に強く、僕は動機や理由を探るのに強い。逆にいえば、二人ともそれ以外のことはさっぱりできない。

p.10~11


ドラマを見終わった後なので、「2人の関係性」はわかった上で読んでいます。
原作とは違う面もあると思うのですが、やはりドラマの結末が衝撃的でどうにか原作にて気持ちを補填したいという思いで読んでいます。
この作品は2巻出ているので、気持ちの補填はまだできておりません。
単体のミステリ小説としてはとても読みやすく、1話完結でさっぱりとしています。
個人的に上面図の出てくる小説、とても好きです。
あと「十円玉」事件、ドラマでの演出も内容も好きです。

「『十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ』」
 ゆっくりはっきり、言いました。
 倒理さんと氷雨さんはまばたきを二度繰り返し、仲よく首をかしげました。
「今朝学校に行くとき、そういう言葉を耳にしたんです。スマホで通話している男の人とすれ違って、その人が通話相手に話しかけているのが一部分だけ聞こえて」
「その聞き取った言葉が、『十円玉が少なすぎる』」
「『あと五枚は必要だ』?」
 私はこくりとうなずきます。
「大の大人が十円玉の話なんて、ちょっと変わってるじゃないですか。それで、その人は何をしようとしてたのかなあと思いまして」

p.184~185

十円玉でこの人物は何をしようとしていたのでしょうか?
これだけの情報で推測を深めていく様子はなかなか面白いです。


印象に残った部分を引用します。

 我らが住居兼探偵事務所の玄関口には、インターホンがついていない。ドアチャイムや呼び鈴、ノッカーの類もない。
 したがって来訪者たちは、必然的に素手でドアをノックすることになる。
(中略)
 というのも、ノックのし方によってどんな客が戸口に立っているか、だいたい推測できるからだ。慣れた調子でトントントン、と響けば近所の奥さんが回覧板を持ってきたのだとわかるし、ひじでドアを叩くような鈍い音がゴッゴッ、と鳴れば両手にダンボールを抱えた宅配員であるとわかる。三十秒ごとに四度ずつ、規則正しいノックが打たれればベテランのセールスマンなので要注意であるし、ガンガンガンガン!と怒濤の如く叩かれれば家賃の催促に来た隣家の大家であるからなおさら警戒が必要だ。

p.6

「お二人にかかれば、解けない謎なんてありませんね」
「んなキャッチコピーみたいにうまくいくか」
 俺は自嘲気味に笑い、自分の首を指で撫でる。穿地の視線を感じたが気にしなかった。それから独り言のように続けた。
「解けない謎なんて、腐るほどあるよ」
 頭の中で、氷雨が肩をすくめるのが見えた。

p.73

「タオルの巻き方もキャラ立ての一環?」
 少し間が空いたあと、そんなことを聞かれた。俺は「んぁ」と適当な返事。
「ここ、僕ら以外は誰もいないみたいだぞ」
「ああ。貸し切りだな」
「はずせば?」
「何を」
「タオル」
「……それもやめとく」
(中略)
 俺はしばらくのあいだ、首のタオルに手を添えていた。剥ぎ取られるのを防ぐかのように。

p.164~165

 そっと、倒理のほうへ手を伸ばした。
 いつもと同じ黒いタートルネックが覆い隠した首に、指で優しく触れる。その下にある赤い線を辿るように、撫でていく。
 僕ら二人の関係は、まるでファミコンの横スクロールアクションだ。プレイヤーが扱えるキャラクターは二人。片方のキャラは攻撃力が高く、もう片方のキャラはジャンプ力が強い。倒理じゃないと倒せない敵もいるし、僕じゃないと届かない足場もある。目前の敵や地形に合わせて、僕らは目まぐるしく入れ替わる。そうやって少しずつステージのゴールを目指す。補い合う。協力する。共闘する。
 共謀する。
 僕はふと、倒理を相棒に誘ったときのことを思い出した。あのときも彼はこんな感じで横になり、僕はその隣に座っていた。
 僕らのあいだに絆や友情があるかといえば、きっとないのだろう。
 僕らの関係は打算的だ。
 だけど。
「だけど、君のことは信頼してる」
 彼の首筋に指を這わせながら、僕は静かに言った。

p.238


ドラマを見ていなくても、どうにも氷雨には歪なものを感じる箇所が多数ありました。
お話の結末を期待しながら、次巻を読みたいと思います。


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