湖のほとりに座り　釣り糸を垂れる人

あなたの姿が　あまりにも静かだから
私は　思わず　夢を見る

対岸の　そのまた向こう
緑濃い山々が　徐々に　黄色や朱に彩られ
その葉を散らしてゆく
降り注ぐ落ち葉の雨の中　立ち尽くす
そんな夢

やがて　空から　白いものが舞い降りて
あたり一面を　覆い隠す
そんな夢

雪解け水が注ぎ込み　水かさが増す頃
そこここに　小さな芽吹きが輝く
そんな夢

湖のほとりに座り　釣り糸を垂れる人

あなたの姿が　あまりにも穏やかだから
私は　思わず　夢を見る

あたりを駆け回り　歓声を上げる子どもたち
水切りに興じる　少年
湖畔を　楽しげに散策する　恋人たち
一人佇み　物思いに耽る　後ろ姿

ああ……
そうか……
どれも　ある日の　あなただ

ぐうんと
釣り竿が　たわむ

かかった！！

立ち上がり　きびきびと　リールを巻き上げる　あなた
釣り糸が　水面から上がる　その瞬間

日差しを浴びて　先端は　銀に光る

それは　あなたの　かけがえのない　瞬間

釣果が　あろうと　なかろうと
そこには　あなただけの　時　が　
光を放っている

流れゆく　時間の中の
数えきれないほどの　あなたの姿を

ここで　
確かに　
わたしは

見せてもらっているのだ

（イラストはみんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
　あんころうさん、素敵な作品をありがとうございます。）