彼女の願い。

地上を照らす太陽が、その身体を地平線の向こうに隠すころ。
彼女は高く高く、穏やかな空へと昇っていく。

彼女には、夜という名前の友だちがいた。
夜は、彼女のことが大好きだった。
あの力強い太陽のように、彼女にはみんなを照らすことはできない。
だから優しい優しいその友だちは、いつでも彼女が輝くことを、手伝ってくれた。
自らを、漆黒の闇に染めることによって。

あの川を渡りたい。

煌々と、穏やかな光

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鯨とわたし②

第1話はこちらからどうぞ。

私の問いに、父はすぐには答えなかった。見せる決意をしたものの、全てを明かしていいものか。そんな心持ちが手に取るように伝わってくる。

『ちゃんと話して。このままじゃ、わけが分からなくて頭が変になりそう。』

畳み掛けるようにそう言った私に、父は覚悟を決めたような顔で頷いた。

『分かった、話そう。元々そのつもりだった。もう少し歩いた先に、父さんが建てた小屋がある。そこ

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恋だとか愛だとか。

毎朝お母さんの左手を離すのが嫌で、園の下駄箱を背に座り込んでわんわん泣いた。

「あっちにいっしょにいこう」
積木が散らかった部屋を指さして手を引っ張ってくれたおかげで、寂しいが楽しいになった。
もちもちのほっぺをくっつけて、好きを確かめ合った。

『好きな人は○○くん。内緒ね。』
鍵付きの交換ノートの中身、内緒にしてほしいような、広まってほしいような。
修学旅行の夜に仲良しグループでお目当ての彼

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鯨とわたし①

『この扉を開けてごらん。』

そう言われて重い鉄製の扉を開けると、そこには海が広がっていた。波瑠(はる)はわけが分からなかった。何故、父の書斎の奥にある扉が海に繋がっているのだろう。

我が家は20階建てマンションの8階だ。しかも都会のど真ん中。それなのに、どうして?

『お父さん、これ何?どうなってんの?』

夢を見ているのかと思った。こっそり太ももをつねったりもしてみた。普通に痛いだけだったし

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「好き」の温度

好きな人がいる。

ほうっておくと、「好き」がたくさんあふれて、「相手が軸」になってしまう。

わたしは、「好き」以上に、やりたいこと、やるべきことでたくさん満たしている。

家事、仕事、勉強、ライフワークである平和活動(継ぐ展、読み聞かせ)、ボランティア活動……

そして、しっかりと休息も取り、好きなこともする。音楽、ラジオ、ライブへ行く、美容院など……

いま、自分が、自分の「好き」で満たされ

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逢(あい)

瀬を早(はや)み 岩にせかるる 

滝川(たきがは)の

われても末(すゑ)に 逢はむとぞ思ふ

             崇徳院

[訳] 川瀬の流れが速いので、岩にせきとめられる滝川の水が、いったん分かれてもまた一つの流れになるように、今二人が別れても、将来はきっと会おうと思うよ。(出典:学研全訳古語辞典)

この画の水色の部分が、わかれた水の流れに見えて、百人一首のこの歌が浮かんだ。

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アンフェアな二人

スマホなんて、いっそ無ければ良かったのに。

『愛してる』と言うくせに、連絡は来ない。しても返ってこない。既読すらつかない。

最中に胸元に痕跡は残すくせに、その後一週間音信不通。

あ、違った。水曜日に二回だけLINEが繋がったんだった。もう明日は火曜日だけど。

寂しいのにそれを伝える素直さも持ち合わせていない。家を知っているのだから、押し掛けたって構わないはずなのに。昔よく見たドラマのように

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