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「テレビ離れ」とは言うけれど(2)

そもそも「テレビを見る」とは?

 前回例示した資料や記事では、「テレビ離れ」と言っても、各々がそれぞれ「テレビ離れ」をイメージしているという面があり、そこから分析を行おうという状況がありました。こうした状況からは、「テレビ離れ」の定義の曖昧さがうかがえます。
 そもそも「テレビを見る」とは何なのでしょうか? 30年前、15年前、そして現在における、「テレビを見る」ことの像には差異があるのではないでしょうか?
 かつては、「テレビを見る」といったら「テレビジョン受像機でテレビ番組を見る」ことで、それ以外ありませんでした。テレビジョン受像機がいわゆる「テレビ」であり、そこで受像できるコンテンツはテレビ番組だけでした。他に強いて言うなら、色のテストパターンが映し出されるぐらいなものでした。
 しかし、いつからか「テレビ」ではない情報端末デバイスで、テレビ番組を受信して見ることができるようになっていました。そして、インターネットを媒介する動画・音声のストリーミング配信サービス——例えば「Netflix」や「U-NEXT」等——により、そうした情報端末デバイスで一部のテレビ番組の視聴をできるようにもなりました。現在では、ネットへの接続が可能であり、なおかつ動画・音声を再生できるデバイスならば、パソコンであろうともスマフォやタブレットであろうとも、テレビ番組の視聴が可能な状態になってしまっているいうことです。
 このように現在では、テレビ番組を視聴する際には、「テレビ」以外を用いることも可能な状態になっています。これは、ごく自然な流れであると筆者は考えています。

マルチメディア技術と高度情報化社会の情報端末デバイス

 1990年代から2000年代にかけ、情報端末デバイスは一般の人々に普及・浸透する段階にありましたが、1990年代には、インターネット、そしてパソコンとケータイ等の情報端末デバイスが並走しながら技術確信を繰り返す中、動画や音声の技術を取り入れようとする方向性が既にありました。
 2009年9月5日「ASCII.jp × iPhone/Mac」の「QuickTime」についての記事を見てみましょう(※6)。「18年越しの大改修! Snow LeopardのQuickTime X」と題するこの記事では、1991年からの「QuickTime」の動向についてまとめています。「QuickTime」はAppleが開発したマルチメディア技術で、静止画像のみならず動画や音声も取り扱うことができます。技術の内容に違いがありながらも、Appleの以降の「QuickTime X」(さらに言えば「AVFoundation」)に継承されるマルチメディア技術の始まりは、この「QuickTime」にありました。記事でも少々触れていますが、1990年代には「QuickTime」の技術で編集した動画をCD-ROMに記録して販売するということが行われました。そうしたCD-ROMをパソコンで視聴するという経験をした方も、読者の方の中にはおられるかもしれませんね。
 この「QuickTime」の例からもわかるように、1990年代の視覚と聴覚に関連するデジタル技術の開発においては、動画および音声の技術の取り込みが積極的に行われる方向性がありました。後に「Adobe Flash Professional」となる「Macromedia Flash」も、1990年代半ばに生まれています(※7)。脆弱性があるということで、「Flash」規格のデータを再生する技術「Adobe Flash Player」は2020年に惜しまれつつもサポート終了となりました(※8)。こうして、「Flash」の技術は時代遅れとなって棄てられることになりますが、かつては活気があったマルチメディア技術で、「Macromedia Flash」や「Adobe Flash」を用いれば統一的に動画や音声を編集することができました。Webデザイン業界では「フラッシャー」などという専門職があったほどです。
 高度情報化社会のデジタル技術の開発は、このようにしてマルチメディアの技術を取り込んで進んできたわけですが、それが後々「テレビ」と情報端末デバイスの境界を曖昧にしていくことになります。

次回に続きます。

[注釈]

(※6)「ASCII.jp」× iPhone/Mac>もっと知りたい! Snow Leopard 第6回 Snow Leopardの深層・その4「18年越しの大改修! Snow LeopardのQuickTime X」(https://ascii.jp/elem/000/000/457/457349/)
(※7)「Macromedia Flash」は、もともとは「FutureSplash」の後継アプリである。
(※8)「Adobe」Webサイト>Adobe Flash Player>サポート終了情報(https://www.adobe.com/jp/products/flashplayer/end-of-life.html)


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