「公共」に関わる「広告」の多重のターゲティング・ブランディングによる拮抗(4)

「公共の広告」のターゲティング、ブランディング

 前回までにお話したように、広告が効果を得るには、ブランディングやターゲティングが必須の要素となっています。このブランディングやターゲティングですが、いくつかの異なった方向性を持つことにより拮抗が起こることがあります。殊に、「公共の広告」は、「公共の広告」が持つ複雑さゆえにそうした拮抗が起こることがあります。
 前回、「公共の広告」には複数の種類があり、「公共」の訳語「public」の意味にも幅があると述べました。また、「公共の広告」の種類や「public」の意味の差異によって、ブランディングやターゲティングに異なった方向性が発生するとも述べました。
 ブランディングやターゲティングにおいて発生するこのような異なった方向性ですが、「公共の広告」のデザインでは、1つの企画の中にいくつか抱えることもしばしばあります。1つのポスターのデザインであっても、(前回述べたような)いくつかの「公共の広告」の種類が絡み合っていたり、「public」の意味が多義的に含まれていたりすれば、その中に異なる方向性による多重のブランディングや多重のターゲティングを抱えることになります。
 今回は、「公共の広告」におけるそうした多重のブランディングや多重のターゲティングが、実際にどんな場合に発生し、拮抗状態となった際にどういった対応をして、効果的な広告として成立させているのかを述べたいと思います。が、まず最初に、「公共の広告」に限らず、もともと広告デザインにおいて、どんな場合に多重のブランディングや多重のターゲティンが発生しているのかについて、考えてみます。

広告デザインにおける多重のブランディング

 まず、広告デザインにおける多重のブランディングについてです。実際どんな場合に発生しているのでしょうか?
 広告デザインにおける多重のブランディングは、例えば、タイアップ広告やコラボレーション広告といったダブルクライアントとなる状態の広告で発生するケースがあります。
 どんな広告を「タイアップ広告」と言うのかについてですが、例えばあるブランドとキャラクターが連携する広告が該当します。こうした広告のデザインでは、ブランドとキャラクターのどちらかがメインでどちらかがサポートする関係となります。それに対し「コラボレーション広告」は、同様の連携でもどちらかがメインということもなく対等に協力する関係となります。
 いずれにせよ、タイアップ広告でもコラボレーション広告でも、連携要素のブランディングの方向性が異なれば、その場合には多重のブランディングが必要となります。それぞれ逆の方向性でのブランディングにより、ブランディングそのものに拮抗が発生することもあります。
 ダブルクライアントの広告でこうした拮抗が起こることは、実はそう珍しいことではありません。互いを打ち消すブランディングの拮抗が起こる場合は、あらゆる手段でそれを解消する調整をし、効果的な広告を目指します。

広告デザインにおける多重のターゲティング

 次に、広告デザインにおける多重のターゲティングについてです。実際どんな場合に発生しているのでしょうか?
 広告デザインにおける多重のターゲティングも、同様に、タイアップ広告やコラボレーション広告といったダブルクライアントとなる状態の広告で発生するケースがあります。
 こちらも、タイアップ広告でもコラボレーション広告でも、連携要素のターゲティングの方向性が異なれば、多重のターゲティングが必要となります。
 そういった多重のターゲティングを効果的に利用することも可能ですが、うまくコントロールしなければ、ターゲティングが散漫になる可能性もあります。また、ターゲット層の差異によっては、互いを打ち消し合うターゲティングの拮抗が発生することもあります。そうした場合には、こちらもあらゆる手段でそれを解消する調整をし、効果的な広告を目指します。

「公共の広告」のデザインにおける多重のブランディングや多重のターゲティングの問題

 上に述べたように、タイアップ広告やコラボレーション広告は、ダブルクライアント——場合によってはトリプルクライアントやそれ以上——となり、それによって多重のブランディングや多重のターゲティングが発生する場合があります。
 このような多重のブランディングや多重のターゲティングは、ダブルクライアントとなる広告の例に限らず、冒頭で述べたとおり「公共の広告」においても発生します。こちらにおいても同様に、多重のブランディングや多重のターゲティングによって拮抗が発生する場合には、やはり調整をして、一定のまとまりがある効果的な広告を目指さなければなりません。
 調整が成功すれば効果的な広告が期待できる一方で、調整作業自体、手間がかかり難しい部分もあります。
 例えば、政府や地方自治体が送り手で、なおかつ、公共の場に置かれる広告としての「公共の広告」の場合。こうした広告には、政府や地方自治体としての「公共」、公共の場に置かれることによる「公共」、この両者の「公共」が含まれます。こうした「公共の広告」には、政府や地方自治体にフォーマルさを期待する「市民」もいますが、一方で、広告が置かれる公共の場によっては、その空間を利用する人々のニーズに合わせた派手派手しさが必要となる場合もあります。こうした場合、方向性がバラバラのブランディングやターゲティングを抱えることになります。
 これを、一定のまとまりがある効果的な広告として成立させるには、多角的な角度から分析を行い、それに基づいた企画やデザインが必要になります。これが、拮抗が起こった場合の「調整」です。こうした調整には、細かな分析と、それについての判断力も必要です。
 もともと、政府や地方自治体が広告の送り手であれば、ターゲットが「国民」や「市民」となることもあります。それは一見漠然とした老若男女のようで、しかしながら、実は、ハイティーンから20代ぐらいの若者層をターゲットにしているような例もあります。「選挙に行こう」などと呼びかける「公共の広告」が、実は若者を取り込もうとターゲティングしていることも少なくありません。ターゲティングをするにあたり、若者から高齢者まで方向性がバラバラであっても、メインターゲットとサブターゲットを自覚的にわけて取り込めるように企画していくなどの調整が必要になります。

次回に続きます。
次回は「自治体×キャラクターコラボ」の広告のアレコレについて考えてみようと思います。


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