天敵でもなかったかもしれない


腐れ縁の彼女

中学の生徒会役員で一緒だったのりこさん(仮名)は、私のことをライバル視していた。
彼女は美人で男子から人気があり、勉強もスポーツもできる人だった。中学1年ではずっと成績が良く、女子で1番だったりしたのだが、2年になるとやや不調になったのか、2年で成績が伸びた私が追い越してしまった。それ以降、彼女にはつらく当たられるようになった。
成績が張り合っているだけでなく、性格やタイプが正反対であったことも、仲良くできない理由の1つであった。

同じ高校に行きたくなかったのだが、田舎なので、成績がいい生徒の選択肢はそれほど多くない。同じ高校に進学し、運悪く1年で同じクラスになった。ただ、私は高校に入って早々に落ちこぼれるので、成績のことで攻撃されることはもうなかった。のりこさんの成績は知らないが、私よりは良かったはずである。

2年では別のクラスになったが、3年でまた同じクラスになる。1年の頃はそうでもなかったが、3年で同じクラスになったとき、のりこさんと、その親友のえみさん(仮名)が、私のことを嫌っているのは見え見えであった。いま思えば、えみさんとはそれほど接したこともないので、のりこさんに調子を合わせていただけかもしれない。なので、この2人とはなるべく距離を置くようにしていた。


のりこさんは意地悪なばかりではない

高校1年までは、私は彼女を天敵のように思っていたが、いま思えば、彼女はそこまで意地悪ではなかった。
高校1年の春(2年になる前の春休み)、中学でお世話になった先生が転勤になったので、生徒会役員は中学校の退任式に行かないかと声をかけられた。中学の体育館に着き、少し離れた場所に立っていると、のりこさんが他の高校に行った友人に、
「あんずさん、1年生で、放送部の県大会の朗読部門で優勝したんだよ」
と話しているのが聞こえた。
「1年生なのにいきなり1位ってすごいよね」というニュアンスであった。

3年の体育祭では、各クラスが劇のような出し物をすることになっている。私たちのクラスは、当時の人気の歌手に扮する「歌謡ショー」のような演目をやることになっていた。
司会に立候補した女の子がセリフに迷っていたので、
「最近人気の歌手の皆様をお呼びしました~みたいな感じでどうかな? 最初は、いまをときめくSMAP!みたいな感じでさ。いまときめいているかはおいといてさ」
とアドバイスをしていたら、そばで聞いていたのりこさんが
「きみ、こういうの、上手すぎるよ」
と笑ってくれた。
このように、彼女は、嫌いな相手であっても、他人のいいところをさらっと褒められる人であった(自分と関係のない特技だから褒められたのかもしれないが)。

「天敵」と言ったが、彼女との縁は、高校卒業後、早々に切れてしまった。高校時代も同じクラスになっただけで、接点もほとんどなかった。
人生を振り返ると彼女との縁は短く浅く、一瞬すれ違っただけの人である。彼女のことを思い出しても、あまり強い感情は湧いてこない。マイナスな感情を抱いたこともあるはずなのに、いま思い出すのは、彼女が私のことを褒めてくれたときの笑顔だけである。

彼女とは、二十歳の頃に開催された中学の同窓会で一度だけ会ったけど、彼女と一緒にいて居心地の悪さを感じることはなかった。他の同級生と同じように、なんということのない近況を話しただけである。
それ以降、私は彼女と会っていない。彼女はFacebookをやっていないようで、中学、高校のFacebookグループに入っていない。同窓会で会うこともない(私が欠席した同窓会にはいたのかもしれないが、同窓会によく来ているという話も聞かない)。
いつかどこかで再会することがあれば、天敵だなんて考えず、普通に挨拶できたらいいと思う。


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