パンセクシャルの僕が好きな人と幸せになりたくてもがく話。⑦

パンセクシャルの僕が好きな人と幸せになりたくてもがく話。⑦

①はこちら。

いつの間にやら眠りに落ちていた僕は、翌朝のうすば君からのLINEで目が覚めた。
うすば君に嘘を吐いていた事がひとつだけある。寝てる間、スマホの音は消してると伝えた事。
なので、眠りが浅かった事も相成り僕はすんなり目が覚めた。
内容は「うみ君、仕事前に通話したいんすけど。」…血の気が、ザッと引いた。

仕事前にわざわざ話したい内容なんて、きっとひとつだ。早々断ってくれるのか、それは感謝しないといけない。ああ、でも今日、ここで僕の恋が尽きるのか。覚悟なんてしてなかった。オフ会で返事を返すと言う言葉は、ゆっくり数ヶ月、僕にとっての気持ちの整理の時間でもあったのだ。

🌊「…ごめん、夜じゃダメかな…。こっちの都合だけど、振られるにしても仕事前は少し辛いかも。」
໒꒱「いや今で。夜皆と遊ぶかもしんないじゃないすか。」
🌊「…遊んだ後でも良いじゃない。」
໒꒱「…俺、前好きだった子に6年返事待たされた事があってー!すぐ返せるならそれが誠実さだと思うんすよねー!聞かないならこのまんま話しますけどー!」
🌊「いつになく押しが強い!!!わかったよ通話するよ!!鬼!」
໒꒱「これにおいてアド持ってんの俺っすよ!良いんすねそんな事言って!」
🌊「な、なに…今日どうしたの…!?僕の告白そんなに不愉快だったんだね!?」

そして着信。この言葉への返事も無いまま、いや確かに僕はこのまま話を逸らそうとしていたけれど。きっとバレていたんだろうな。
僕はこの間ずっと怯えていて、泣きそうになって、それでもそれが言えず。言う権利なんか、無く。気持ちを押し付けたのは僕だから。

昨日振りの二人きりの通話は、沈黙から始まった。
僕から何か話すべきなのか、逡巡しても僕の中に答えは見付からない。

໒꒱「あのっすね、まー単刀直入に言います。」
🌊「…はい。」
໒꒱「俺にはうみ君と付き合う準備があります。」(ほぼ同時に家の外からどなたかの叫び声)
🌊「ごめん普通に聞こえなかった」
໒꒱「…俺は!うみ君とお付き合いを!しようと!思ってます!!」
🌊「…はい!?…さては寝てないんだろうすば君!何血迷ってんだ!僕は君を好きだけど、君に付き合いを強要したい訳じゃ無かったよ!うすば君まだ撤回出来る、いいね」

໒꒱「一晩寝ずに考えたんで!」
🌊「ほらだから変な事考えてるじゃない!一旦寝よう!僕も仕事だから!」
໒꒱「なんか噛み合ってない気がするっす」
🌊「君が寝不足につき変な事考えたのしか今んとこわかんないよ」

໒꒱「ちゃんと考えたんですって!一旦って言うなら一旦俺の話聞け!」
🌊「ヒエッ…ハイ…うすば君の命令形、普段とのギャップでなんか良いな…」
໒꒱「余裕ありそうだから話しますね?」
🌊「ヒン…ハイ…聞きます…」

໒꒱「俺ね、うみ君が女の子だったらって考えたんすよ。これ失礼だったらスンマセン。女の子だったら、絶対もう俺から告白してるんすよ。これからも一緒に遊びたいし、可愛いなって思うし、…それが恋愛感情かはあれっすけど、絶対に他の人のとこに行って欲しく無いなって、…思って、汚いかもですけど、うみ君の最優先にいたいから。」

🌊「ごめん聞くって言ったけどちょっと色々想定外すぎる 情報量が多い」
໒꒱「そのまんま聞いといてください。そんで、…あー、…俺、勃たないんすよね。好きになるのは女の子だし、性的対象も女の子なんすけど…勃たないんすよ。誰相手にも。自慰も数年してねーっす。」
🌊「えっ、アッ、ハイ…。」

໒꒱「…どっちにしろ、って言ったら失礼かもです。でも、どっちにしろ抱けないなら男女は変わんないのかなって思って。」
🌊「一足飛びが過ぎる」
໒꒱「そんなんでも良いなら、って注釈付きになるんすけど。うみ君俺の恋人でいんすよね。」
🌊「良い!?訳!?ある!?それ絶対後悔するようすば君!?今後うすば君が好きになれる女の子が出来た時、その勃たないって事も受け入れてくれる女の子が出来た時、君は僕に変な責任を感じる事になるよ。そんなの、お互いしんどいよ。」

໒꒱「あー…、大丈夫っす、元々恋愛するスイッチオフにしてたんで。」
🌊「そんな貴重なスイッチを僕相手に使うな!!」
໒꒱「あれ、…嬉しくないすか?」
🌊「嬉しいよ!!!同じくらい複雑だよ!!!!!むしろ複雑の勝利だよ!!!」
໒꒱「だって、…うみ君なら良いかなって、…ずっと長くやってけるかなって思ったんすもん…」

🌊「……うすば君、僕から言いたくないけど、こんな事、…君は、恋愛スイッチをオフにしてた所に僕から好意を渡されて、同性と言えどそれがバフになっちゃっただけなんだよ。きっと久方振りの君宛ての好意だったんだろう。それでも、そんなので君の人生を決めちゃダメだよ…。」
໒꒱「…確かに、俺はこの告白がるる君でも受けてたと思います。でも今俺が話してんのはうみ君じゃないすか」

🌊「ほら!!!るる君でも良い言うとる!!そういうとこ!そしてそういう事!」
໒꒱「それは今まで築いた関係値っすよ!しゃーなくないすか!?」
🌊「…僕は!君にちゃんと人を好きになって欲しい、…エゴだけど、君に幸せになって欲しい…僕じゃダメだよそんなの…」
໒꒱「こっちの台詞っすよ。勃たねーって事は一生セックス無しっすよ。良いんすかアンタ。」

🌊「しれっと僕と一生一緒にいる事を前提に話さないでうすば君」
໒꒱「…恋愛する気無かったヤツのスイッチ押したんだから、一生付き合って貰うつもりなんすよ」
🌊「お、っっっもい 僕よりおっっっっもい」
໒꒱「で、いいんすか。セックス無し。」
🌊「………それは、良い、セックス、僕そこまで好きじゃないし…。でも僕、うすば君と手を繋いだり一緒に寝たりはしたくなっちゃうよ…。」

໒꒱「ちゅーはしたいしイけるなって」
🌊「君本当に何を!?言ってるの!?!?ノンケだよね!?僕髭面のおじさんだよ!?」
໒꒱「俺だってそうっすよ」
🌊「待ってうすば君きみ何歳!?」
໒꒱「あ、うみ君の10個上っす」
🌊「じゅっこ!?!?うえ!?!?」

໒꒱「で、お付き合いするんすかしないんすか」
🌊「…これ、仕事前にどうにかなる話じゃなくない…?」
໒꒱「気付きました?いっぱい考えててください、あ、あとるる君にもこの返事伝えて、るる君の意見も聞いたが良いんじゃないすか。」
🌊「…ねえ、うすば君僕の顔も見た事無いよね…?なんでキスが出来るの…?」
໒꒱「顔面で好きになったりしない人間なんで」
🌊「嘘だろそれ以前の性別の壁は!?」
໒꒱「あってないようなもんかなって、ネットスタートだし?」
🌊「君の感性が僕は今本当にわからない」

໒꒱「まあオフ会で会うまではどっちにしろお試しっすよ。オフ会で会ってみて、キスしてみてじゃないんすか。うみ君、それ傷付きます?俺はもう心決めたんで一生一緒にいてもらうつもりなんすけど…。」
🌊「……僕、めちゃくちゃ重いし、面倒だし、すぐ落ち込むよ。すみれちゃんに妬いた事だって一度二度じゃない。うすば君から今そう言ってくれるのはめちゃくちゃ嬉しい。…傷付くとは思うけど、ここでこの話を逃していいのか?って内心でざわついてる。…でも、大人なんだから理性で抑え込んでる。うすば君の人生を奪う覚悟は、今一朝一夕では出来ない…かな…。」

໒꒱「え?すみれに?いつ?」
🌊「そこは拾わなくて良いんだようすば君」
໒꒱「いや気になるんで」
🌊「…君がすみれちゃんを優先する、時…です…!」
໒꒱「ふーん…お付き合いしたら俺うみ君最優先すよ」
🌊「あくまのささやき?」

໒꒱「惜しく思うのに、俺の手離して良いんすか。俺また心閉ざしますよ。」
🌊「立場逆転してる!脅すな!」
໒꒱「ってことで、これからよろしくお願いします。」
🌊「君の中ではもう確定事項なんだね…?君決めたら譲らないもんね…」
໒꒱「はい!あ、お仕事っすよね。行ってらっしゃーい!」
🌊「は、はは…行ってきます…。」

その日の仕事は仕事にならなかった。ずっとうすば君が頭から離れてくれなくて、何ならずっとLINEでやり取りも続いてた。
うすば君は決めたらテコでも譲らない。それも知ってる。でもだからこそ、僕がちゃんと大人の対応を取らなきゃならないはずだ。それでも、これが僕の最後の恋かもしれない。本当に?本当に彼の手を取らなくて良いのか?いやむしろ取って良いのだろうか、この上なく、傷付いたりするんじゃないだろうか。…考えは止まないのに、うすば君から送られてくるLINEは既に恋人の熱を帯びていた。

໒꒱『うみ君もどうせ寝てないでしょ、無理しちゃダメっすよ』
໒꒱『明日遠隔デートしません?休みっすよね 』
໒꒱『ねー何で俺だったんすか、教えてください。』

この子が、悪い冗談を言うような子じゃないと知ってる。この子なりに、僕と恋愛しようとしているのが嫌という程伝わる言葉達だった。(未だこの子と思ってしまうが十歳上らしい。)
いっそ悪い冗談を言う人だったら良かった。それなら騙されて、終わりに出来たかもしれないのにな。

僕は事の顛末をるる君に話した。
うすば君に告白をした事、こういう返事だった事、お付き合いをしていいのか悩んでる事。
るる君の返事は、いつも通り彼らしいものだった。

🎶「やったじゃん!ノンケと付き合える機会なんて無いよ味わっとけ味わっとけ!楽しめ!あ、僕の事は巻き込まないでね~!」

言う必要無かったかもしれない。そう思った
のはるる君にもうすば君にも内緒だ。

僕は親友に背中を押され、好きな人に背中を蹴り飛ばされ、うすば君とのお付き合いを決めた。
傷付く事が怖かった。うすば君と、友達ですらいられなくなるのは何より怖かった。でも。
うすば君の言葉を信じたくも、あった。
久方振りの恋だったのだから。
それと、ひとつ。

໒꒱「俺、うみ君と付き合うなら死ぬの、やめます。うみ君と生きる事、ちゃんと考えます。」

そう、言ってくれたのが嬉しくて。
死を夢想していた彼に、すこしでも未来を渡せたのが僕なのかもしれない、なんて希望が嬉しくて。
きみの生きる未来が欲しくて、嬉しくて、どうしようもなくて、僕は君の手を取った。

その日の夜、隠す事なく泣きながら改めて「うすば君が好き」と伝えたら、うすば君は「めちゃくちゃ伝わってます」と擽ったそうに笑った。

これが僕たちのお付き合いを始めた日。

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