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コーポレートガバナンスの議論が1年ぶりに開始 ー 金融庁のフォローアップ会議が開催


金融庁のフォローアップ会議が1年ぶりにスタート

金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議と言います)が4月18日に開催されました。前回の開催から約1年ぶりとなります。

https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20240418.html

フォローアップ会議は、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの改訂が議論される会議体です(その名のとおりですね)。

コーポレートガバナンス・コードが2015年に制定され、2018年、2021年に改訂が2回されましたが、制定・改訂ともにこのフォローアップ会議で議論、決定されてきました。東大名誉教授で会社法の重鎮である神田秀樹先生(説明がとても分かり易いです)を座長に機関投資家、学者、日立、ソニーといった超大企業のマネジメント層など早々たるメンバーが委員になっています。

今回からこのフォローアップ会議の資料や議事をこのnoteでも適宜、取り上げて紹介して行きたいと思います。

フォローアップ会議の資料は読む価値あり

フォローアップ会議の資料ですが、これは非常に役に立ちます。コーポレートガバナンスの最近の情報が盛り沢山です。

私は仕事で機関投資家との対話(エンゲージメント)をこの7年ほどずっとやっていますが、2018年、2021年の改訂の時もこのフォローアップ会議の資料と議事録を毎回、結構真面目に読んできました。それが機関投資家とのこれまでのエンゲージメントの際に理論武装になり、おかげて機関投資家とも同じ目線で議論が出来ています(と自負しています)。

是非、企業で資本市場まわりの仕事をされている方は(IR部門や企画部門の方でしょうか)、このフォローアップ会議の資料と議事録を目を通されることをお勧めします。書店で学者などの書いた本を買うより、フォローアップ会議の資料を丹念に読み・記憶することで、実践的な力が確実に身につくし、市場関係者と深みのある議論が出来るようになります。

今回の議論のポイントは?

今回の会議はユーチューブでもライブ配信されていたのですが、仕事の都合上、見れなかったので、後日で開示される議事録を見ないと会議での意見の詳細は不明なのですが(毎回、各委員が1人5分程度で意見を言うはず)、今後の議論のポイントになる事項が次のとおり資料に記載されています。

https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20240418/02.pdf

以下、各事項とそこに記載されている今後の方向性案をピックアップして、簡単に私なりに事業会社の立場から見た実務上の考え方、見方などを記したいと思います。

今後の方向性 ー 総論

今後の方向性(案)
今一度、各コードがプリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレイ ンのアプローチを採っている趣旨に立ち返り、すべての企業・投資家において、共通して必要となる対応に加え、各主体の規模や置かれた状況に応じ、きめ細かく必要な取組みを検討することが必要ではないか。こうした観点からは、各コー ドを形式的に遵守することより、むしろ丁寧にエクスプレインすることも重要ではないか

これは昔から言われていることで日本の企業は「コンプライしています」ということが必須と考えていますが、安易にそう宣言するよりもエクスプレインを充実せよということですね。今後、非開示の原則・補充原則についても、どのようにコンプライしているか開示せよという議論に発展する可能性もありですね。

今後の方向性ースチュワードシップ活動の実質化

今後の方向性(案)
エンゲージメントを一層実効的なものとするため、上記の報告書による提言 を踏まえ、協働エンゲージメントの促進や実質株主の透明性確保に向けてスチ ュワードシップ・コードを見直すことが考えられる。併せて、上記課題での指摘について、議決権行使と対話は点と線の関係にあり、議決権行使(点)に至るま での対話の過程(線)で、どのような対話をすることが重要かという意識をもつ ことが重要であり、その点も踏まえてスチュワードシップ・コードを見直すこと が考えられる。その際、スチュワードシップ・コードの見直しに際し留意すべき 点や、他に見直しが必要と考えられる点は何か(以下、省略)

機関投資家側の能力の課題も従前から言われているところです。私の経験上、極めて事務的な質問しかしない機関投資家の責任投資部の方もいます。機関投資家の規模が小さいところに多かったりします。多分、リソース不足なのでしょう。対話チェックリストをなぞったような質問です。
そういう機関投資家とは対話の時間の無駄と感じることもあります。そういうのを解消する手段として、協働エンゲージメントなどをあげているのだと思います。

取締役会等の実効性向上(独立社外取締役の機能発揮)

今後の方向性(案)
取締役会の実効性向上に向けては、今一度、関係者の役割や、取締役会におい て建設的な議論が行われているかについて確認することが重要であると考えら れるが、どうか。具体的に、例えば、社外取締役、取締役会の議長、指名委員会・ 報酬委員会の委員長や取締役会事務局が真に果たすべき役割や機能について理解を共有するとともに、こうした役割や機能がより一層適切に発揮されるため には、どのような方策が考えられるか。

取締役会の機能の充実ですね。課題として、「各委員会の議長・委員長が果たすべき役割の認識が共有されてお らず、未だ取締役会が実効的には機能していないとの指摘がある。また、こうした社外取締役等の質の評価が実質的には行われていない」とあります。社外取の質の評価が今後、議論されるのだと思います。
社外取のバックグランドとしては、企業経営経験やコーポレートファイナンスが必須と私は考えます。企業経営や事業戦略について執行サイドにアドバイス・モニタリングが出来る能力ですね。

収益性と成長性を意識した経営

今後の方向性(案)
上記の指摘も踏まえ、継続して各企業の取組みの状況をフォローアップし、実質的な対応を促すことが必要と考えられるが、その際、特に留意が必要と考えられる点は何か。例えば、開示の状況を確認するのみならず、(以下5.でも指摘 するとおり)開示の内容と実際の取組みの内容が乖離していないか、取締役会における議論や投資家との対話において具体的な議論が行われているか、こうし た対応におけるリソースが確保されているか等について着目することなどが考えられるが、このほか考えられる点はあるか

資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた要請が行われたところですが、要請を踏まえた対応について、 緊張感を持って経営の重要課題と位置付ける企業と、形式的な対応にとどまっている企業に分かれているので、形式的な対応の取り組みを変えるということだと思います。

市場環境上の課題の解決

今後の方向性(案)
従属上場会社について、少数株主保護に向け、上記の東証の要請も踏まえ、引 き続き、各社において開示を含む取組みが進められることが重要と考えられる が、このほか必要と考えられる点は何か。 政策保有株式について、今一度、コーポレートガバナンス・コードに照らした 保有目的の適否の検証や開示が重要と考えられるが、そのあり方についてどう 考えるか。

政策保有株式はこの数年で縮減が大きく進みました。けど、一方で、以前として縮減が進んでいない企業があります。保有の合理性があれば保有も許されますが、現実には「保有の合理性などない」というのがほとんどの企業の実態です。つまり、政策保有株式がなくてもビジネスには何の支障もないということです。
であるからこそ、更なる縮減をせよ、もし、保有するなら議決権行使結果の開示を企業に求める方向になるかも知れませんね。

サステナビリティを意識した経営

今後の方向性(案)
中長期的な企業価値の向上に向けたサステナビリティを巡る課題への対応に あたっては、上記指摘のとおり、例えば、財務情報と非財務情報とのつながりを 意識すること、取締役会による監督の役割、コーポレート・カルチャーを意識し た経営や対話も重要であると考えられるが、このほか重要と考えられる点は何 か。 ダイバーシティの確保に向けては、企業の特性や成長段階に応じ、多様性の確保や人材育成方針の策定を含め、人的資本への投資等に配意することが必要と 考えられるが、このほか重要と考えられる点は何か。

多様性の確保や人材育成方針の策定は大事ですね。企業の成長には能力のある人材の存在が不可欠です。少子化が加速し、加えて、一生その会社で勤め上げるというサラリーマン意識の希薄化により、人の確保と維持が企業の成長の大前提になっています。

今後の動向

上記が大きな論点ですが、いずれも驚くような内容ではないですね。けど、
いずれも極めて大事な内容かと思います。
株価を意識した経営等の企業への要望がこの1年であり、金融庁・東証は企業側にコーポレートガバナンス改革を促してきました。今後は、機関投資家サイドの機能を強化を図る時期かも知れません。機関投資家1社のリソースが小さいのであれば、協働でのエンゲージメントをしたりなど。
今回のフォローアップ会議の議事録が公表されたら、内容を見て、興味深いところがあれば、それを紹介したいと思います。