「企業買収における行動指針」 ー 買収防衛策の導入が厳しいのはどんな会社?厳しい中でも導入する際のポイントは?

今週金曜日は四季報オンラインのデータ更新の日です。株式時価総額が1000億円以下の中小型銘柄はアナリストがカバーしていないことが多く、四季報の記事は個人投資家が投資先企業と対話をしていく上でのネタの1つとして大変重要です。金曜日は仕事の合間と昼休みの時間は、主要銘柄の四季報チェックに明け暮れる予定です。

さて、前回、「企業買収における行動指針」として、買収防衛策について簡単に説明をいたしましたが、本日は、買収防衛策を導入する場合の条件などについて解説をしてみたいと思います。個人投資家向けというより、事業会社向けの記事になります。

東証や政府がPBR1倍割れの企業=問題企業(上場不適切企業?)と見る厳しい世の中であり、かつ、アクティビスト(物言う株主)が跋扈する状況ですので、時価総額が数百億円規模の企業は、数年前に比べて、敵対的買収リスクが格段に高まっていると思います。企業としては、敵対的買収者が出現した場合(以下、有事といいます)に買収防衛策を導入したいと考えるところかと思います。では、有事の際に買収防衛策は簡単に導入できるでしょうか?

まず、手続面からいうと、有事の際の買収防衛策の導入には株主総会で株主の賛同が必要になります。この点、企業買収における行動指針において「株主意思の尊重」として次の記述があります。

対応方針に基づく対抗措置の発動は、会社の経営支配権に関わるものであることから、 株主の合理的な意思に依拠すべきである。そして、対応方針の導入の段階、又はこれに基づく対抗措置の発動の段階で、株主総会における承認を得ることは、株主の合理的 な意思に依拠していることを示すための措置といえる。これまでの裁判例を踏まえる と、株主総会における決議を経ることで、対抗措置の発動の適法性が相対的に認められやすくなるものと考えられる。 なお、株主総会を経る場合においても、取締役会は、形式的に株主総会の判断に委ね るのではなく、対抗措置の必要性や、公正性の確保(例えば、独立性の高い取締役会や 特別委員会の関与)等について慎重に検討し、十分な説明責任を果たすべきである。

「企業買収における行動指針」より抜粋

実務上は、取締役会決議で急ぎ導入し、後日、株主総会で決議し、もし株主総会で賛同が得られない場合には、取締役会決議の効力を失わせるといったことになるかと思います。肝は、買収者が出現した時点の株主の賛同を得るということです。

では、株主の賛同を得る上でのポイントは何になるでしょうか?

答えとしては、一定水準のROEがあることが肝になります。「なんだよ、またROEかよ!」と思われる方もいるかも知れません。けど、今一度よく考えてみて下さい。前にも記事を書きましたが、ROEが5%を下回る場合は、機関投資家は経営トップに反対します。つまり、「この経営トップは失格である」と判断しているということです。
従い、買収者が出現して経営トップがクビになる可能性が大の場合に、買収防衛策を導入して経営トップはじめ経営陣を守るという会社の行動に賛同するインセンティブは、機関投資家は有していないと考えるのが合理的です。

ところで、買収防衛策は「株主に対して買収提案を検討するための十分な時間と機会を提供するのが目的」ということが多くの企業の事前警告型の買収防衛策のプレスリリースにひな形として記載されています。けど、これって企業の本音は違うかなと思います。本音は、買収への対抗手段を検討するための時間稼ぎが買収防衛策の目的であり、経営トップはじめ経営陣がクビにならないようにするためという要素が実際のところ大きいです。
機関投資家と会話をすると良く分かりますが、機関投資家は「買収防衛策=経営陣の保身のための施策」と見ていることが非常に多いです。

だから、ROEの低い企業が買収防衛策を導入するとなると、機関投資家の「ROEが低い中で、買収防衛策を導入して経営陣の身を守るとはとんでもない会社だ!」という怒りを買うことになるわけです。

では、ROEの低い企業が買収防衛策の導入で株主の賛同を得る道はないのでしょうか?

厳しいですが1つの手段としては、➀敵対的買収者の提案する買収価格(TOB価格)を超える市場株価にいつまでに到達できるのか ②仮に到達しなかった場合、経営陣は退任するという決意表明の2つを株式資本市場に示すことがあるかと思います。ここまでの本気度を示せば、賛同を得られるかも知れません。

日本企業は、欧米企業と異なり、中期経営計画で目標数字(売上高、営業利益など)を示すのが大好きです。けど、問題は、中期経営計画が未達でも経営トップや事業の担当役員が責任を負って退任するということはまずありません(ちなみに、欧米企業は、未達の場合の訴訟リスクを考えて明確な数値は示さないと言われています)。

そういう観点から、①のように「今は株価が1000円ですが、半年後に1500円まで株価を上げます」という表明だけでは、機関投資家は納得しないわけです。これに加えて、「1500円に到達しなかった場合には、次の総会の時に経営トップと担当事業の役員は退任します」という決意表明が必要になるかなと考えます。なかなか会社としては宣言しにくところとは思いますが、株式市場において、上場企業が責任を負うということは、本来こういうことなんだろうなと思います。