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看護実習(1対1看護)

看護学校では2年生の秋頃から約1年間の長い長い臨床実習が始まる。
病院のみならず保健所や保育園、包括支援センター、老人ホームなど様々な場所での実習が待ち受けている。

実習(とくに病棟)の恐ろしさは、寮で先輩たちが日に日にやつれて老け込んでいくのを目の当たりにしていたため充分に知っていた。

…つもりだった。

実際の実習は想像の10万倍つらかった。

まずレポートの量に辟易した。
分厚いレポートを1日の終わりに指導者ナースに提出し、ダメ出しされた箇所を翌日までに書き直さなければならない。
実習中の睡眠時間は3〜4時間程度だった。
老け込むのも仕方ない。

指導者という恐ろしい存在。

毎朝ナースステーションの勤務表で自分の指導者が誰なのかを確認する。
ナースの方から「おはよう♪今日あなたの担当の○○よ!宜しくね♡」と声を掛けてくれることなど決してない。

大勢いるナースの中から指導者を探しあて、忙しく動き回る指導者に小走りで並走し「今日1日お世話になります!○回生の○○です!宜しくお願いしまァァァァァァァァす!」と挨拶しなければならない。

実習では必ず1人の患者さんを受け持つことになる。
その患者さんに対する看護目標と看護計画をたてなければならない。
と言っても学生に行えることは限られており、毎日の看護計画は主に「情報収集」「環境整備」「清潔保持」「コミュニケーション」のわずか4つを組み合わせて乗り切るほかなかった。
そこにたまに「気分転換」という名目で患者さんを散歩に連れ出していたが、明らかに自分の気分転換も兼ねていた。

患者さんの横にべったりと張り付いていては患者さんも疲れてしまう。
何か出来ることをひねり出してもすぐに終わってしまう。
ナースステーションでカルテを読んでいると「患者のもとへ行け」と指導者に叱られる。

♪ハァ〜居場所もねェ!やることもねェ!
レポートも全然すすんでねェ!!

歌ってしまいそうだ。暇だし。

あるとき「午前中は情報収集をし、、」まで言いかけた私に「毎日そんなに情報収集してどうすんの?あんた探偵かなんかになるわけ?」と指導者は怒った。

プッ(笑)上手いこと言う〜〜!!            

と笑いそうになったが笑って良いわけもなく「じゃあ洗髪します。」と私の計画は探偵から洗髪へとあっさり方向を変えた。

どの病棟でも指導者は厳しかったが、患者さんはみな学生に優しかった。
患者さんの前で叱責された時には「あの看護婦は俺達にもああなんだよ。気にしなくて大丈夫!」と後から患者さんが慰めてくれた。

「がんばって勉強して優しい看護婦さんになってな」という患者さんの励ましが、その後の実習の力となった。

病棟実習は今ふり返っても、つらく大変なものであったと思う。
できないことが悔しくて泣いた。
患者さんとの突然の別れに泣いた。
もうレポート書きたくないと泣いた。
眠い眠い起きたくないと泣いた。
(そして指導者が怖すぎて泣いた)

ただ、1つ思う。

1人の患者さんとあれだけ密に関わることが出来るのは学生実習のときだけであり、言ってみれば1対1看護である。
時間に追われず患者さんの傍らに添うことができるのは、今になればとても贅沢なことだと思う。
少し羨ましい。

あの頃「あ〜あ。やることないなあ。」と口をとがらせていた私に「本当にやることない?もっと学べることない?」と言いたいな、と思ったりもする。

学生時代も看護師になった今も、患者さんから学び患者さんに育てられているということを忘れてはいけないと思う。