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たかが早なれと言うなかれ

 和歌山には、早なれという食べ物があります。和歌山ラーメンのお供にはなくてはならない食べ物です。

 本来、なれ寿司は魚や獣肉を発酵させた保存食なんです。東南アジアから日本に掛けての太平洋に面した地域の食べ物です。保存のため発酵させる過程で酸味が出て、より美味しく食べられる。でも、その内にお酢ってものが発明され、発酵させなくてもお寿司に酸味を付けることが可能になった。発酵に伴う嫌な癖もなく、酸味はしっかり味わえる。これが江戸前に代表される現代のお寿司。

 和歌山市では、発酵させた鯖のお寿司が本なれ、発酵させていないお寿司が早なれと呼ばれています。本なれを販売しているお店はおそらく現存していないと思います。本なれはお寿司を包んでいる葉っぱを捲ると、いろんな色のカビが生えたりしていて、ちょっと現代人には無理です。

 で、まあまあ早なれがどんな経緯で食べられるようになったかは分かった訳ですが、何故、和歌山ラーメンと一緒に食べられているのかは分からない。ラーメンを食べながら、早なれを食べるスタイルがどういった経緯で始まったのかが分からない訳です。

 この謎を解く鍵は、海南市にあったお豆というお店にあります。このお豆はうどんやお蕎麦を扱う丼物のお店で、一時期は東京の銀座にまで支店を出すほどの有名店でした。

 お豆では、入口を入った直ぐの所に、早なれの入れられた木の桶が置かれていて、お客さんが勝手にそこからなれ寿司をとって、うどんや蕎麦と一緒に食べていたのです。麺類と一緒になれ寿司を食べる。このスタイルが和歌山に普及し、ラーメンを食べる時でも早なれを一緒に食べたいというお客さんからの要望で、ラーメン屋にも早なれが置かれるようになったんですね。

 なれ寿司やゆで卵はお客さんが勝手に取って、後から自己申告するというスタイルも、発祥はお豆からかも知れません。地元の人からは『お豆さん』と呼ばれ親しまれたお店は、潰れてしまって現存しません。ただ習慣としては人知れず残り、全国的にも知られるようになっているのだななどと思うと、なんだか考え深いものがあります。

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