運命とか美味しく調理できればいいのに

かつて友人に「青犬は神様と運命とか信じるタイプ?」と聞かれました。

「勧誘ですか?」「勧誘じゃないから」

私はその時、素直に思ったことを答えました。

「もし神様がいて、運命があるなら迷わず殴り込みに行ってる。私の人生、左右して楽しいかこの野郎って」


友人はその日1番の笑い声で手を叩きました。



もっと強くなれたら良かったのに


前回の記事で養成所に落ちても諦められなかったと書きました。

実はこれにはもう一つ大きな理由があります。

不合格通知を破り捨てた後の1ヶ月間、電車に乗っていても音楽を聴いていてもバイトをしていても、考えていたのは今後のことでした。

また養成所を探す?
ならお金貯めないと‎。
YouTubeとかで何か始めてみるとか?
なら機材とか買わなくちゃ。
それって声優になるために必要?
経験として必要だと思う、けど
いっそ諦めて違う道を探すほうが幸せかもしれない。
ああ、親に心配をかけたくない

こんなことが頭の中でぐるぐる巡っては泣きそうになり、吐きそうになっていました。

そんなある日、バイトに出勤するとお店の斜め前に人集りが。

レストラン街にあるので開店前は一般の人なんて入れないのに、なんだろう?

私は不思議に思いながら出勤しました。

すると店長がキッチンから顔を出して「何かの撮影みたいだよ?」と面白そうに言いました。

へえー、そうなんですか。と返し、仕事を始めました。

すると店のショーケースを覗き込む人物が一人。

私はその方を見た時、息がつまりました。

なぜなら誰もが知る有名声優さんだったからです。
なんなら昨日見たアニメにも出ていました。

「まさか、撮影後にうちに食べに来るとかないよね…?」

なんてほの暗くなっていく心を抑えながら作業を続けました。

ですが店長も他の社員さんもその方の存在に気づき、黄色の声を上げました。
有名人に会えば誰もが、そうなるでしょう。

ああ、なんでこんなタイミングなんだよ。


私は胸を握り潰されるような感覚を下唇を噛んで堪えました。

そして案の定、そのロケ班とその方はお店に来ました。

その方は礼儀正しく、誰にでもお辞儀をし、目を見て挨拶していく。

例外なく、私もお辞儀されました。

その時、私の中で無音の絶叫が響きました。

可能ならその場で暴れ回りたかった。泣き叫びたかった。

帰りの電車で無力の私はただ声を殺して涙を流すしかできませんでした。マスクをしていて良かったです。



なぜこんな気持ちになったのか。

簡単です。その方の目に、私は『お店の店員』として映ったからです。

そして出会ったのもアフレコ現場ではなく、私のアルバイト先。

こんな形で初対面してしまったから。

その方にとってはただ立ち寄ったお店でしかない。

でも私にとって屈辱の初対面になってしまった。

決してその方が悪いわけではありません。むしろ礼儀正しく、本当にいい人でした。

だから思うのです。

もしも運命とか神様が与えた試練であるというなら、

「私の人生これだけ遊んだんだから、無事で済むと思うなよ」

と。

そういったスピリチュアルを信じる方からすればなんて罰当たりなんて思うでしょうが。

所詮、人間なんてこんなもんですと私は答えるだけです。


それでは。

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