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勝手にブランドパーパス「総合商社編」

勝手に企業のブランドパーパス(社会的使命)のステートメントを作ってみるシリーズ。今回は三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事などに代表される総合商社を題材にしてみたいと思います。

日本の総合商社は市場での評価が低い

総合商社は就職先としては高いステイタスを誇るものの、資本市場での評価は高くありません。

取引仲介型の口銭ビジネスから事業投資会社への事業モデルの変革に成功したともいわれていますが、株式の時価総額で業界1位の伊藤忠商事でも4.7兆円、日本企業中で26位に甘んじています。5大総合商社の時価総額を全て合計しても14.5兆円。「ハイテク業界専業の商社」とも言えるソフトバンクの株価16.5兆円にすら及びません。

総合商社という業態が投資家からわかりにくく、株価がいわゆるコングロマリットディスカウントされている面もあります。ウォーレンバフェット率いる投資会社バークシャーハサウェイが割安な株価に目を付けて、総合商社の株を大量に買ったことも最近話題になりました。

そんな総合商社のミッションとは何でしょうか。各社のミッションをHPで見ると、

三菱商事 ― 創業以来の社是である「三綱領」を拠り所に、公正で健全な事業活動を推進しています。
三井物産 ― 世界中の未来をつくる。大切な地球と人びとの、豊かで夢あふれる明日を実現します
伊藤忠商事 ― 創業より受け継がれてきた不変の価値観「三方よし」をグループ企業理念に掲げ、商いを通じて社会課題の解決を図るという善き循環を生み出すことで、持続的な企業価値向上を実現していきます。

となっています。どれもイマイチですね。

三井物産のビジョンの「世界の未来をつくる」は、あまりに一般的すぎて何も言っていないのと同じですし、三菱商事と伊藤忠商事は、「商売での心構え」を言っているだけです。

商社は各社社長のインタビューを見ても、利益額何千億円を目指す、とか総合商社No.1の座を守る、とか言った話ばかりです。日本の商社にある唯一のビジョンは「利益の追求」しかないようにも思えます。

資本市場で商社が評価されない理由の一つは、このミッションの欠如、すなわち社会で商社が果たす役割を定義していないことでしょう。ミッションを明確に決めず、時代の変化に合わせて事業モデルを変革して利益を追求してきたからこそ今の商社がある、という反論もありますが、果たして今後もそれでいいのか。

知り合いで総合商社から事業会社、コンサルなどに転職した若手の人たちに話を聞くと、商社の仕事は動かす金額は大きいものの「他社のふんどしで相撲」している感じがして、契約管理以外に自分のスキルが身につかない、とか、商社の主力フィールドはオールドエコノミーが中心なので将来が不安、といった話が多いです。

商社が社会で尊敬され、優秀な人材をひきつけ続けて成長し続けるためには、社会にどういった価値を提供するのか、つまり、企業としてのパーパスを真剣に考えることが必要でしょう。

権益確保と投資先支援が商社の基本的な事業モデル

商社は自前の技術、工場、設備などはもちません。商社の基本的な事業モデルは、まず事業会社、合弁会社、資源開発などの権益に資本を入れることで利益の分配権を確保する。その上で、事業成功の可能性を高めるために、投資先に対して人材、資材調達、販売ルートの開拓などの支援をおこない、回収できる利益を最大化していきます。

投資先の会社からの配当収入、出資比率に応じた出資先企業の利益の連結決算への組み込み、出資した株式の売却などが商社の利益となります。自ら事業を運営するのではなく、他社や子会社を資金、人、情報、ネットワークなどを提供し、上がった利益を自分たちにも分配してもらう。これが基本的な事業モデルです。

プライベートエクイティ、VCなどの投資会社との違いは、人材を自社から送り込みながら、販売ルート確保、資源確保など事業のために自社リソースを総合的に投入していくところにあります。

総合商社の社会的価値は、産業横断で、社会の課題を解決すること

では総合商社の社会的価値とは何でしょうか?

技術を持たない商社は、自動車、小売りなどそれぞれの業界に特化した企業にその分野の専門性では決して勝てません。ではどこに商社の価値があるのか。業界、企業を横断したソリューションが必要な社会課題に対して、資金を提供しつつ、様々なプレイヤーを束ねてソリューションを構築する、リーダーシップとプロジェクトマネジメント力にあるのではないでしょうか。例えば三井物産の取り組みはいい例です。

水素バリューチェーン推進協議会」の準備委員会立ち上げについて 水素社会の構築・拡大を目指し、民間企業8社(※)と共に水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進するための新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会」を設立します。現在、同協議会の設立に向けた準備委員会を立ち上げ、広く企業や団体の参加を募るとともに、多岐にわたる活動計画策定など具体的な準備を進めています。(三井物産プレスリリースより)

水素を燃料とした燃料電池を普及さるために、原料生成、自動車、物流など複数の業界を横断して水素のサプライチェーンをつくる壮大なプロジェクトです。長期的な視点で、資金面でのリスクテイキングと業界の境界を越えて複数のプレイヤーを束ねるマネジメントが必要なプロジェクトこそ、総合商社の価値が発揮できる分野でしょう。

こう考えると、総合商社のミッションのキーワードは、「社会課題」、「業界横断」、「ボーダーレス」、「リーダーシップ」あたりでしょう。また商社ばB2Bビジネスなので、ブランドパーパスは、コンシューマー目線ではなく、取引先企業に対するステートメントにするのがよいでしょう。

例えば次のような感じはどうでしょうか。

三菱商事/三井物産 ― 「ボーダーレス・ソリューション・パートナー」 私たちは地球・社会レベルの課題に対して、国境と産業を横断したリーダーシップとコミットメントを提供し、解決策を実現していきます。

B2BだけでなくB2Cにも力の入る伊藤忠商事はこんな感じでしょうか。

伊藤忠商事 ― 「商売で人を幸せに」 私たちは、商いの力でモノ、情報の流れを円滑にし、人々が幸せに暮らせる社会を実現していきます。

いかがでしょうか。ブランドパーパスを考えるにつけ、総合商社の事業のわかりにくさを改めて感じました。商社は本来、高い志をもって仕事をしているはずなので、ぜひその志をブランドパーパスとして言語化していってほしいと思います😊


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