「食堂み」の女たち 最終話

調理場の裏口から「ただいま帰りました」きれいな声が聞こえてきた。「やっと帰ってきたわ。ミナとパソコン代わって。早う来て」響子は調理場に向かって叫んだ。「すぐ行きまあす」クスッと笑う光恵は、横目で祥子にウインクをした。祥子は旧姓の秋本祥子に戻っていた。
マージャンをした年明けの一月四日、祥子は気持ちが固まり、響子と光恵と美奈に連れ添われて自首をし、裁判で執行猶予がついた。

この子たちに任せておいたらもう大丈夫や。ええコンビや、と光恵は微笑んだ。
「光恵さん、電話や電話!俊一からや。母ちゃんに替われって」響子がスマホを突き出しながら光恵に渡した。「珍しいのぉ。忙しいって言よったのに」「あいつに言うといてくれ。おばはん言うなって」「へっ今は完全なおばはんやん」
光恵は響子のスマホを握りしめ、耳にギュッとあてがった。「もしもし、俊一、元気か?うんうん…そうか…」
光恵の優しい声が響子の耳に響いた。

もうすぐ春。
桜の蕾がほころび始めた。


おしまい



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