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地球温暖化時代を生き抜くⅠ                  ♦温暖化豆知識編♦

黒豹コメント:

地球温暖化問題をテーマとした小説も書いておりますが、普段耳にしない環境用語がたくさん出てきます。できるだけ物語の中で解説するようにしておりますが、説明不足と思われる事柄や意外と知らない温暖化豆知識についてご紹介していきたいと思います。
職業として長年携わってきた分野でありますが、温暖化の世界は学者や研究者の間でも意見が大きく分かれることが多く、提示する数値は、あくまでも目安程度に捉えていただければ幸いです。
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【1】温暖化が進行すれば寒冷化となるのか?
 現在は、260万年前に始まった氷河時代(北極と南極に氷がある時代)ですが、その中で、氷期(10万年)と間氷期(1万年)を繰り返しております。これをミランコビッチサイクルと呼んでおり、本来ならば、現在は間氷期を終了し、寒冷化の氷期に入っているというのが有力な説です。人間活動による二酸化炭素の増加が寒冷化を押さえているというということになります。したがって、何らかの引き金(例えば深層海流の停止など)により、寒冷化に逆転する可能性はあると思います。このことを国立環境研究所の専門家に質問したところ、現在は二酸化炭素濃度が高すぎて、2万年~3万年は寒冷化には移行しないでしょうという回答でした。将来どちらに転ぶかは神のみぞ知る世界。

【2】メタンハイドレートとは?
 海底に堆積した動物や植物プランクトンがメタン生成微生物により分解されメタンガスが発生する。メタンガスは、海底の低温かつ高圧の条件下で水分子に取り囲まれると、白色のシャーベット状の結晶となる。このように安定して存在できる個体となったメタンをメタンハイドレートという。意外とメタンハイドレートは、日本の周辺海域に大量に存在している。その場所は、水深500メートルよりも深い海の底やその下の地層の中。メタンハイドレートは、温度が低く圧力が高い環境であることが存在の条件となっているため、世界の深海や、シベリアの永久凍土の中などから多く発見されている。メタンハイドレートは、燃料としても利用価値があるので日本でも調査・研究が進んでいる。近年、温暖化の関係で問題となっているのは、メタンハイドレートは分解すると浮上し、大気中で二酸化炭素に分解することと、海底にはほぼ無尽蔵に存在することから、海水温がメタンハイドレートの分解点まで上昇した場合は、もはや手が付けられない「悪魔のサイクル」に突入するだろうという説もある。すでに世界の各地で、分解の痕跡が発見され、最近では日本の調査団が、北極海の海底でメタンハイドレートが分解し始めているという報告書を公開している。

【3】深層海流とは?
 コンベア・ベルトとも言われている。米国コロンビア大学のブロッカー博士が、全地球を覆う海洋大循環流が存在し、その表層水と深層水とが千年単位で入れ替わることを発見し、これをブロッカーのコンベア・ベルトと呼んだ。深層海流を駆動しているのは海水の熱塩循環で、北大西洋のグリーンランド西方のラブラドル海と南極のウエッデル海に見られる現象で、大気による冷却と海氷の発生に伴う塩分濃度の上昇により海水の比重が重くなり海底に深く沈み込んでいくことが最初の原動力となる。ラブラドル海で沈み込む深層海流の速度は毎秒十センチメートルほどで幅数百キロメートルに至る膨大な海水の移動であり、その水量はアマゾン川100本分とも言われ、移動する熱エネルギーは、全世界の電力システムの約160倍のエネルギー容量に相当する。この流れに牽引されるように北上する暖かいメキシコ湾流のお陰で北ヨーロッパ各国は温暖な気候を享受でき、発展することができた。近年、温暖化の影響で、北極グリーンランドの氷床が融解し、淡水がラブラドル海の塩分濃度を下げていることと、北極海全域の海水温が上昇していることから、この深層海流が異常に弱まっていると世界の研究機関から報告されている。一万二千年前のヤンガードリアス期と呼ばれる急激な氷期の再来はこの深層海流が停止したことが原因だとする説がある。

【4】地球の平均気温とは?(更新1) 
 地球の全地表面を緯度方向5度、経度方向5度の格子(5度格子)に分け、各格子の月平均気温から年間平均気温を算出する。さらに面積の重みを付けて平均することで、全球平均気温が算出される。現在、世界には7000前後の観測地点が存在する。
 現在、地球の平均気温は15℃ですが、もし地球上に二酸化炭素などの温室効果ガスが全くなかったとすれば、平均気温はマイナス19℃ほどに下がり、人間は存在できない世界になると思われる。国連は、最悪でも2℃の上昇(平均気温:17℃)に抑えようとしているが、それは縄文時代の平均気温とほぼ同じレベルで、海面が4mほど上昇したとされる。(縄文海進:東京の貝塚遺跡発掘から推定)。また、2億5000万年前のペルム紀の温暖化では生物が絶滅したという説があるが、この時の推定平均気温は25℃~30℃で最高気温は65℃まで上昇したという研究発表あり。最悪のケースとして、ここまでいく可能性はゼロとは言えないが、条件として、北極と南極に氷床があるうちはここまではいかないと考えられる。ちなみに、現在のペース(年3㎜上昇:4.5㎜上昇との観測もある)で氷が解けていった場合、計算値として両極の氷床がすべてなくなるまでは1万年ほどかかります(5000年~6000年説もあり)。世界が目指す1.5℃の上昇で抑えられればベストですが、突然勃発した戦争により、目標は限りなく遠のいたように思われます。
※ 戦争と二酸化炭素については後ほど。

【5】二酸化炭素の寿命は?
 温暖化を考える上でこれは大変重要なことなのですが、報道されることはほとんどありませんね。それは、極めて安定した物質だという共通認識はあっても、世界の学者から発表されている数値が数百年説から数万年説まであり、明確なものがないからかもしれません。以前、日経ホールで日本の著名な環境学者が発表していた数値は500年ということでした。IPCCもこの数値を採用しているようなので、ほぼそんなところなのかなと思います。二酸化炭素は一度対流圏に排出されると、消滅するまでに500年かかるということになります。産業革命以来蓄積されてきた二酸化炭素は2兆トンに上ると言われており、この蓄積された二酸化炭素により温暖化が起きていると考えられます。したがって、たった今世界の二酸化炭素排出量をゼロにしたとしても、すぐに過ごしやすい夏が戻ってくるとは限らないかもしれませんね。でもここであきらめてしまうと、前項で述べた「北極、南極から氷が消滅」という人類滅亡へと向かうシナリオが待っているかもしれません。やはり未来の人類のためにも、最悪でも蓄積を3兆トンでピークアウトさせる努力が必要なのだろうと思います。
※ IPCC:国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
※ 3兆トンでピークアウト:2℃上昇の限界値が、蓄積3兆トンと言われている。

【6】二酸化炭素濃度について。(更新1)
 現在、二酸化炭素濃度は沖縄県の与那国島(よなぐにじま)などで測定されております。また非常に安定した物質なので、南極氷床コアから過去 65 万年間の二酸化炭素濃度についても精度 の高いデータが発表されております。この期間中、二酸化炭素濃度は、低いときには寒冷な氷期の 180 ppm から、高いときには温暖な間氷期の 300 ppm の間で変化してきました。ところが、過去百年に、この範囲を超えて急激に上昇し、2021年の平均値として419ppmと公開されております。日本の測定開始は1987年で、当時の351ppmから毎年2~3ppm上昇し現在に至っている。濃度1ppmは二酸化炭素の量にすると80億トンとされており、毎年、160億トン~240億トンの二酸化炭素が大気中に蓄積されていることになる。昨年(2021年)の世界のエネルギー起因二酸化炭素排出量は363億トンなので、差し引き143億トンは海洋や森林に吸収されたと考えられる。ちなみに、2020年度の世界の排出量は315億トンで前年より18億トン少なかった(その後は再び上昇)。これはコロナパンデミックで世界経済が急激に落ち込んだことと交通運輸、特に航空産業の落ち込みの影響が大と思われる。それにしても、あれほど世界の社会経済活動が低迷しても、わずか18億トン(5.4%)しか減らないところを見ると、いかに二酸化炭素を減らすことが困難かということがわかります。ちなみに日本の年間二酸化炭素排出量は12~13億トンといったところです。さて、これを2050年にほぼゼロにするというのが世界の目標ですが、かなり厳しいものと思われます。特に日本は、これまで産業界の省エネ対策などはほぼやり尽くしており、目標達成は難しいと思われます(企業の環境マネジメントシステム審査・コンサルティング経験より)。また、あまり焦り過ぎると、それで利する軍事大国の周到な絵図に嵌るリスクもあるかもしれません。
※ 氷床コア:
北極や南極の氷床(島に積み重なった氷)からボーリングにより取り出された氷の試料。
※ ppm:パーツ・パー・ミリオン。100万分のいくらであるかという割合。

【7】カーボンニュートラルとは。
 日本も含め、国連が目指す「2050年までに温室効果ガス実質ゼロ」の中で出て来る用語で、温室効果ガスとは76%を占める二酸化炭素だけではなく、その他メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを含みます。これら温室効果ガスの排出を、国家や企業それに市民が必死に減らしたとしても、どうしても残る部分が出てきます(例えば航空機燃料など:長距離飛行はバッテリー駆動では重量の問題で無理という研究結果が出ている)。その残存部分を吸収と除去により差し引きゼロ(ニュートラル)にしましょうという考え方のことです。ここでいう吸収とは、植林や森林の整備で光合成による二酸化炭素吸収を促進させること。除去とは、二酸化炭素を回収して貯留する「CCS」技術のことを差しますが、詳しくは後日説明したいと思います。
 ではこれを、誰がどのような方法と計画で実行するのかという現実論になると、残念ながら日本も含め、世界でも明確な実行プランはまだ見えておりません。ただ前のめりになり過ぎると、現在のヨーロッパのような状況になりかねません。国家の危機に関しては、「焦りは軽視と同じくらい危険」という諺があるようです。温室効果ガスを減らさなくてはならないというのは世界共通の重要課題ですが、現実に襲ってくる洪水の対策など、優先順位は何かという国家レベルのリスクマネジメントも必要かもしれません。

【8】CCSとは。
 CCS:Carbon dioxide Capture and Storage」(二酸化炭素回収・貯留技術)
 発電所などから排出される二酸化炭素を分離、回収し、地中深く岩盤の下層にパイプラインで圧入・貯留する技術。日本では実証実験として、北海道・苫小牧で港内の海底の下に二酸化炭素を高い圧力で貯留する作業が行われている。年10万トン規模の二酸化炭素を3年間埋め込み、2年間、二酸化炭素が漏れ出さないようにモニタリングする計画。問題点としては膨大なコストがかかることと、地震国日本としては、圧入のエネルギーが地震の誘発につながらないよう、細心の注意が必要と考えられる。一方、米国などでは、二酸化炭素を古い油田に圧入するこにより、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、二酸化炭素を地中に貯留する作業が開始されている。全体として二酸化炭素削減と石油の増産にもつながることから、一定のコスト吸収も実現でき、ビジネスとして成り立っているようだ。このケースの場合、「利用」という意味も含め、
CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・利用・貯留技術)と呼ばれている。この技術は、現時点で最も有力な手段と思われるが、コスト及び安全性の面でまだ問題がありそうです。IEA(国際エネルギー機関)の報告書では、2060年までの世界の二酸化炭素削減量のうち14%をCCSが担うことを期待すると言っております。

【9】森林の二酸化炭素吸収固定について。(更新1)
「森林再生で温暖化防止」という言葉がありますが、さてどの程度有効なのでしょうか。
植物の葉は太陽光エネルギーを利用し、空気中から取り込んだ二酸化炭素を有機化合物に変えます。これを光合成と言いますが、森林の場合は木の幹に炭素として固定しながら成長していきます。したがって森林が最も二酸化炭素を吸収固定できるのは木の成長過程で、大きく成長しきった木は実はあまり二酸化炭素を吸収しておりません。ただ、成木も間伐など環境を整えてやると吸収した炭素を固定したまま、ほぼ永久に生き続けます。現在ビル・ゲイツ氏がサポートし、カナダの富豪が大気から二酸化炭素を取り出す実証実験(DACプロジェクト:Direct Air Capture)を行っておりますが、確実ですぐできる方法は木を植えることです。200億トン/年(世界の総排出量の約半分)の二酸化炭素を除去すれば、温暖化は緩和できると考えられますが、計算では日本の森林面積の50倍(1兆8,750億本)の植林が必要です(杉の木で計算)。その費用は、ざっくりと550兆円。DACプロジェクトの方は、プラント建設費のみで概算600兆円ほどかかり、吸引ファンと化学反応設備の膨大な電力消費が発生します。森林再生の問題点は広大な土地を必要とします。現在、水のない砂漠でも植樹が可能なゴムの木やポプラの品種改良が進んでおります。植林も重要ですが、農業用土地の確保も大切です。現在、LEDを使用した付加価値の高い農作物を生産する地下型農業工場が日本でも加速しております。光合成は太陽光だけではなく、赤色LEDと青色LEDの光の波長が植物育成用の光源として使用されており、両者のバランスにより植物の育成を最大限に高めることが可能です。地下農場の開発が進めば、森林再生も加速できそうですね。以前、ダボス会議主催で、「世界で1兆本植林プロジェクト」を立ち上げましたが、トランプ前大統領もこれには賛成したとニュースが流れておりました。おそらくフェイクではないと思います。日本でもスタートした「DACプロジェクト」については、またの機会に。

【10】このままいくと気温はどこまで上昇するか。(更新2)
 現状でも年々熱中症患者が増えておりますが、将来的にはどうなるのかを考えてみました。平均気温の上昇については、今世紀末の予測として1.5℃~4.8℃上昇と国連筋が発表しておりますが、最高気温については触れておりません。平均気温は気候変動の研究上重要なファクターですが、私たちが生きていくためには最高気温がどうなるのかが問題なのではないかと思います。様々な論文や地球10億年史から推測される最高気温について述べてみます。まず他の惑星の状況から。太陽に一番近い水星は平均気温が167℃、次に近い金星は平均気温が400℃で最高気温は500℃に達する。太陽により近い水星より金星が高いのは、大気の96.5%を占める二酸化炭素(現在の地球:0.042%)の温室効果と、その分厚い大気による90気圧の断熱圧縮による温度上昇が原因という説がある。さて三番目に近い地球に戻りますが、2億5千年前のペルム紀(P/T境界、生物絶滅)で65℃、1億年前の白亜紀(恐竜の時代)で60℃、260万年前に現在の氷河時代(北極と南極に氷がある時代)に入ってからは、12万年前のエーミアン間氷期で55℃、6千年前の縄文時代で50℃。ホモサピエンス(人類)が出現したのは20万年前。したがって、氷河時代は最高でも55℃で、人類は生き延びることができました。但し、現在解け続けている両極に、もし氷がすべて無くなった場合(計算では1万年後:5千年説もあり)、地球は自然の冷却装置を失うことになり、未来は想定外のものになるような気がします。それにしても相当長期スパンの話なので、焦る必要はないと思います。昨今の脱炭素に向かう世界の性急な動向は、グローバル金融パワーによる戦略的潮流の創出という一面もありそうです。国民の安定生活とバランスの取れた、無理のない脱炭素活動が望まれます。但し、水素やバッテリーなどクリーンエネルギーに関する技術開発は、世界のビジネスチャンスを失わないためにも急ぐ必要があると思います。

【11】DAC:Direct Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー)
(更新1)
大気から二酸化炭素を直接回収する技術。筆者の記憶では、10年ほど前、ビル・ゲイツ氏とカナダの富豪が協力し開発に乗り出したのが始まり。現在は、アメリカ、イギリス、スイスなどの企業が実用化に成功し、実際にプラント建設に着手している。日本でもIHI、川崎重工業、三菱重工業などが実証実験を進めている。但し、今のところ運転コストが恐ろしく高い。日本ではコストを十分の一に下げる研究が進んでいる。名古屋大学発スタートアップ企業は、新材料「金属有機構造体(MOF)」を使った二酸化炭素回収技術を手がける。MOFは狙った気体だけを大量に吸着する性質がある。空気を通すだけで二酸化炭素を安価に回収できる可能性がある。但し対流圏にはすでに2兆5000億トンほどの二酸化炭素が蓄積されているとされ、また年間400億トンと言われるエネルギー起源を含めた世界の排出量は増加の傾向にあることを考えると、現在の実機能力「米石油・ガス大手オキシデンタル・ペトロリアムで2035年までに最大7000万トン回収予定」の効果が目に見えてくるのはだいぶ先のことと思われる。

【12】戦争と二酸化炭素
極限の状況で人命が失われる戦争から地球温暖化を考察することは、神への冒涜にも匹敵する次元の違う試みであることを承知の上で、ざっくりと試算した結果を述べてみます。戦争を準備と実戦に分けて二酸化炭素排出量を考えた場合、前者は様々な理由で公開されておりません。各国の軍事活動の規模が推定されるからと思われます。英研究者らの試算では関連産業などを含め軍事部門は世界の温暖化ガス排出の最大6%を占める、という記事を見たことがあります。全体を年500億トンと仮定すると30億トンとなります。世界の航空機全体の二酸化炭素排出量は約8%と言われておりますので、決して少ないものではありません。後者の実戦については、武器の燃費、実戦配置数、交戦状況などから推定することになります。燃費から算出した、乗用車(リッター10㎞)との比較、戦車類:車50台分、戦艦:車2000台分、戦闘機:車5000台分を使用した二酸化炭素排出量に、爆発火災、貯油施設火災、建造物再建などをプラスした1ヵ月の二酸化炭素排出量は、大規模なケースではざっくりと2000万トンとなります。半年で1億2000万トン、日本の1年間の排出量に匹敵します。ちなみにイラク戦争の二酸化炭素排出量は1億4000万トンと言われておりますので、「当たらずといえども遠からず」かと。もとより平時の人間活動から排出される二酸化炭素と、戦争という流血をともなう二酸化炭素は決して同次元で語られるべきものではありません。仕事がら温暖化の全貌を知る必要があり計算したものです。

【13】世界のエネルギー起源による二酸化炭素排出量の推移について。
日本を含む世界各国の地球温暖化防止対策が進むなか、実際の排出量がどうなっているのかを述べてみます。ざっくりと過去から現在までの世界の排出量の推移は次のようになります。2000年:237億トン、2015年:323億トン、2019年:336億トン、2020年:317億トン、2021年:363億トン、2022年:368億トン。国連主導で最大限努力してきたのですが、排出量は増加の傾向にあります。唯一、2019年~2020年は約5.6%減となりましたが、皆さまご記憶のとおり、コロナパンデミックによる世界全体の社会経済活動の落ち込みの影響と考えられます。それにしても、世界のあらゆる活動が低迷しても、減少がわずか1割にも満たないということは、人類が二酸化炭素を減らすことがいかに困難かを物語っております。一方では、たとえ排出量をゼロにできたとしても、500年は現在の平均気温は下がらないという説があります。近代文明の本質、半導体を代表とするハイテク産業の拡大、ビックデータのさらなる増大など考慮し、予測される未来を冷静に考える必要があるかもしれません。減らす努力と並行して、適応と備え(サバイバル志向)がより重要になってくるように思われます。

【14】エネルギー起源以外の二酸化炭素排出量について
エネルギー起源というのは、化石燃料を燃やすことにより発生する二酸化炭素になりますが、意外と知られていないエネルギー起源以外の二酸化炭素排出量について少々。一番大きなものは、世界の排出量の8%を占めると言われるセメント産業からの排出でしょうか。日本は平均値以下ですが、サウジアラビア、中国、韓国、トルコだけで、世界の半分以上を占めそうな勢いです。コンクリート構造の建物が急増する国が多い傾向となります。その他、森林破壊、森林劣化、森林火災、泥炭火災などで発生する二酸化炭素が15%ほどあり、セメント産業との合計が23%となります。従って、全体の二酸化炭素排出量の77%がエネルギー起源の排出量となります。
その他、二酸化炭素も含めた温室効果ガス(GHG)全体の排出量の推移も見逃せないところですが、次回に。

【15】世界の二酸化炭素排出量の最新情報。(更新1)
昨年(2022年)の世界のエネルギー起源二酸化炭素排出量は【13】で述べたとおり368億トンで、2021年比0.9%増となっております。主な原因として、1.異常気象によるエアコン使用の増加、2.アジアの石炭火力の増加、3.航空機の急増が上げられております。いずれも、人類が快適に幸福に暮らすために、グローバル経済をさらに発展させなければならないという避けられない現実なのだろうと思います。人類はどこかの時点で、これらのデカップリングを図らなければ本当に大変なことに、いや、もうすでに大変なことになっているのが現実かもしれません。
もう一つ、あまり知られていない地球規模で進行中の土壌からの二酸化炭素発生についての情報。国立環境研究所と宮崎大学の長期研究結果として、土壌有機炭素分解による二酸化炭素の排出量が人間活動による二酸化炭素排出量の約10倍あるということ、そしてその排出量は気温が1℃上昇すると約10%増加すると発表しました。土壌有機炭素分解とは、主に微生物が枯れ木などの有機物を分解するときの呼吸によるものですが、地球の膨大な大地を想像すると、納得がいきます。それにしても、平均気温が1℃上昇すれば、例え人間活動による二酸化炭素排出量をゼロにしたとしても、再び同じ量だけ増える??ということになりそうで、これだけはあまり想像したくない現実ですね。

【16】最近の氷河湖決壊現象から考えられる気候変動の行方。
今年、8月5日、米アラスカ州の州都ジュノーで、氷河湖決壊によって増水した川に住宅が流されるという事故を伝えております。豪雨の濁流ではなく異常に増水した清流の牙も、ひと際違った不気味さを見せつけております。これは10年ほど前から世界各地で発生している現象で、温暖化による災害と考えられます。拙作『ガイアの涙』から関連する文章を抜粋してみます。(原文のまま)
「深層海流とは、別名コンベア・ベルトと呼ばれ、一万二千年前のヤンガードリアス期と呼ばれる氷河期の再来はこの深層海流が停止したことが原因だとする説がある。十万年前に起こった最後の氷河期といわれるウルム氷期が温暖化に向かう後半の一万二千年ほど前、シベリアと北アメリカの湖から解けだした淡水が大量に北極海に流れ出した。海水は急激に塩分濃度が下がり軽くなったため、北大西洋ラブラドル海から沈み込んでいた深層海流が停止し、大西洋を北上していた温暖なメキシコ湾流が停止した。北ヨーロッパは急激に寒冷化へと転じ、それを引き金に再び氷河は北半球全域を覆うようになった。このヤンガードリアス期にマンモスは全滅したが、人類はその後二千年続く氷河期を生き抜き、今では風前の灯火となった近代文明を作り上げた」
ここで言う「北アメリカの湖」というのが、一時は黒海と同じほどの大きさを持っていたと言われるモンスター氷河湖「アガシ―湖」です。現在は、これほど巨大な氷河湖は存在しませんが、点在する氷河湖の決壊が続けば、グリーンランドの氷床融解も加速化されており、淡水による海水の塩分濃度低下は無視できなくなると考えられます。その先にあるのは、地球の歴史が示す寒冷化へのシナリオですが、願わくば温暖化と寒冷化が中和し、過ごしやすい地球が再び…という可能性も全くゼロではないと思います。気候変動は神のみぞ知るという側面もありますので、ディストピアの幻影にとらわれることなく、今、現在の危機感を研ぎ澄まし、生き延びることが肝要かと思います。

【17】世界の主な国々の二酸化炭素排出量割合について。
※ 2022年度IEA(国際エネルギー機関)統計値を概略計算したもの。
※ 1.5%以上の国をランク付け。
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中国:      30%
アメリカ:    14%
インド:     7.5%
ロシア連邦:   4.2%
日本:      3%
ドイツ:     1.8%
サウジアラビア:1.7%
韓国:      1.7%
カナダ:    1.5%

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日本は5番目の排出国となりますが、1人当たりでは4番目となります。これを先進国の特徴と捉えるか努力不足と反省するかは意見が分かれるところでしょう。もう一つ、1人当たりで注意すべき点は、中国は全体量では断然トップとなりますが、1人当たりではアメリカの半分以下で6番目となります。アメリカと日本は減少傾向にありますが、排出量の半分以上を締める上位3か国のアメリカ以外は増加の傾向があり、日本の努力だけで世界の二酸化炭素排出量を半減または全廃させることは不可能と言えます。
以上の、重くのしかかる世界の二酸化炭素排出状況と、最近の気候崩壊とも言える世界の洪水、旱魃(かんばつ)の惨状、また一たび排出された二酸化炭素は長期にわたり残存するという現象を冷静に見つめると、人類は、今からまったく新たな発想にシフト(パラダイムシフト)しなければ、この地球危機を乗り越えることはできないような気がします。

【18】寒冷化へのシナリオに新説発表。
米英の研究チームが、彗星が地球直近で空中爆発したことにより、約1万2800年前、地球が現在と同じように温暖化へと向かう時、ヤンガードリアス期と呼ばれる急激な寒冷化に向かったのではないかと論文で指摘しました。北半球の広範囲に衝突してきたのは、直径5キロほどのエンケ彗星の破片とみられ、大気が大量のちりとすすで覆われると同時に、爆発熱で、【17】で述べたモンスター氷河湖「アガシ―湖」の崩壊につながった可能性がある。結果として深層海流が停止し、北半球は急激に寒冷化へと向かった。地球が寒冷化すると海水温が下がり、二酸化炭素の吸収量が増加することにより、寒冷化が加速されることになる。現在も深層海流の調査が続いているが、もし停止した場合は、寒冷化に向かう可能性は捨てきれません。その場合、ヤンガードリアス期と同じように2千年ほどで終わるか、そのまま10万年続くと言われるミランコビッチサイクルに突入するかは、まさに神のみぞ知る世界。
<筆者の私的意見として>
気候変動には、温暖化加速論、温暖化懐疑論、寒冷化逆転論など様々な説が唱えられておりますが、いずれにしても、安易に滅亡のシナリオを語ることは、少年少女の夢を奪い、今を生きる人間として大切なことを見失う可能性があると思います。
今、国際社会で最も優先されるべきことは、罪なき人間を大量に殺戮し、利益を生まない二酸化炭素を膨大に排出する戦争を止めることではないでしょうか。

※ 以後、最新情報が入り次第更新していこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。




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