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橈骨遠位端骨折(Distal radius fracture:DRF)


橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折とは、


躓いた際などに手をつくことで前腕遠位部の橈骨が折れることをいいます。中高年の女性に多く、その理由は閉経したことにより骨自体が脆くなっている、いわゆる骨粗鬆症となっているからです。

閉経とは、女性の身体が更年期になることで卵巣の活動が次第に消失し、月経が永久に停止した状態です。閉経が生じる年齢は一概には言えませんが、おおよそ40代から60代までにはなっていることが多いです。

簡単な解剖と機能


図1:前腕骨の部位と名称

前腕は2つの骨と骨幹膜、靭帯などの軟部組織で構成されています。親指(母指)側の骨が橈骨(とうこつ)、小指側の骨が尺骨(しゃっこつ)といいます。

橈骨、尺骨ともに身体に近い方を「近位」、遠い方を「遠位」といいます。また、中間部は「骨幹」といいます。そのため、前腕近位部(端)骨折・橈骨遠位端骨折・尺骨遠位端骨折・前腕骨幹部骨折と呼びます。


前腕の機能としては、前腕部の回旋動作となります。回旋動作とは、前腕回内・回外動作です。


図2:前腕回内

外側に回旋しているのが回外


図3:前腕回外

内側に回旋しているのが回内となります。


次に、橈骨手根関節・手根中央関節・遠位橈尺関節についてです。


図4:RCJ、MCJ、DRUJ

まず、遠位橈尺関節からです。遠位橈尺関節は上の図でいうと緑の所になり、橈骨と尺骨で形成されている関節部分のことを指します。遠位があるということは近位もあります。近位部はそのまま近位橈尺関節という名称になります。それぞれの略語は遠位橈尺関節はDRUJ(Distal Radio Ulnar Joint)、近位橈尺関節はPRUJ(Proximal Radio Ulnar Joint)になります。

次に橈骨手根関節です。橈骨手根関節は上の図でいうと赤の所になり、橈尺骨と近位手根骨(舟状骨・月状骨・三角骨)となす関節です。橈骨手根関節の略語はRCJ(Radial Carpal Joint)になります。

最後に手根中央関節です。手根中央関節は上の図でいうと青の所になり、近位手根骨と遠位手根骨(大菱形骨・小菱形骨・有頭骨・有鉤骨)でなす関節となります。手根中央関節の略語はMCJ(Mid Calpal Joint)になります。


骨折分類

骨折分類とは橈骨遠位端骨折の骨折の程度を検者間で共有するためのものです。
海外で使用されている分類法はAO分類、Frykman分類、Melone分類、Cooney分類、Mayo分類、Fernandez分類などがあります。

国内での使用はAO分類、斉藤分類が用いられることが多いです。
国内外で一番使用頻度が多いのがAO分類です。
AO分類とは以下のようになります。


図5:AO分類

A1が一番軽傷な骨折でC3が一番重症な骨折の程度を表します。

Aでは関節外骨折。関節外とは橈骨手根関節に骨折線がかかっていない場所での骨折になります。
Bでは関節内骨折。骨折線が橈骨手根関節にかかった状態での骨折です。また、骨折自体は単純で横骨折や斜骨折であり骨折したパーツが1つとなっています。
Cでは関節内完全骨折。骨折線がBと同様に橈骨手根関節にかかった状態であるが、骨折したパーツが2つ以上となります。

この分類自体を知っていれば検者間でのやり取りが行われやすいですよね。


治療法

治療法としては現在では2つが選択されます。
1つが保存療法、もう1つが手術療法(観血的骨接合術)です。
保存療法とはAO分類ではA1,2の骨折で骨折線が単純であることが前提となります。その上で年齢・既往歴などを加味し、整復後にスプリントもしくはリストサポーターを装着しつつその上に三角巾で固定します。
手術療法(観血的骨接合術)とはAO分類でのA1,2以上の単純骨折以外の骨折に対して手術療法を行います。手術方法としては2000年頃より掌側ロッキングプレートが開発されたことにより掌側ロッキングプレート固定が現在の主流となっています。

引用:橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定後プレート折損の3例

また、保存療法、手術療法においても整復・手術後にコットンローダー肢位をした状態でのギプス固定をし、三角巾にて吊り下げることが多かったが2012年のガイドラインでも報告されている通りにその肢位をとることにより2次的障害を伴うため現在では、術後にアルフェンスシーネ固定を施行し、その後に作業療法士が作成するスプリントもしくは装具士が作成、提供するリストサポーターを装着した上での三角巾固定となることが多いです。


引用:(旧版)橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012

合併症

  1. 手根管症候群(正中神経麻痺):(CTS;Carpal Tunnel Syndrome)

  2. 三角線維軟骨複合体損傷:(TFCC;Triangular Fibro-Cartilage Complex)

  3. 長母指伸筋腱断裂、長母指屈筋腱断裂

1.手根管症候群
手根管と呼ばれる所は手掌側に存在し、手根骨と横手根靭帯(屈筋支帯)により構成されています。主に橈骨遠位端骨折後の炎症による浮腫、横手根靭帯の肥厚などにより手根管内圧が上昇することで正中神経が圧迫され正中神経領域の痺れ、痛み、親指(母指)から薬指(環指)の指の動きに違和感、動かしにくさが生じます。


引用:日本整形外科学会/手根管症候群

2.三角線維複合体損傷
下図のように手根骨と手根骨とを連結する重要組織です。三角線維軟骨複合体があることで遠位橈尺関節の安定性と回内外運動の円滑化が行われます。損傷パターンとしては、橈骨遠位端骨折を受傷した際に同時に損傷している場合もしくは橈骨遠位端骨折を受傷後に整復したが徐々に尺骨が遠位側へズレ(尺骨突き上げ症候群)てきてしまい三角線維軟骨複合体を圧迫することで損傷してしまうパターンがあります。


引用:日本手外科学会/三角線維軟骨複合体

3.長母指屈筋腱、長母指伸筋腱断裂
長母指屈筋腱は親指(母指)の第一関節(DIP関節)を曲げる腱です。何故断裂するかというと、掌側ロッキンプレートを固定する際に設置位置が遠位になったり、スクリューの固定が弱くプレートが浮き上がってしまった場合、下図のように長母指屈筋腱(赤)がplateと接触してしまい腱が断裂します。


引用:橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定後プレート折損3例

長母指伸筋腱は骨折後の治癒段階や橈骨遠位部の骨片自体が背側転移した場合にリスター結節という橈骨遠位部の骨隆起部にて接触することで腱断裂が生じます。


図5:リスター結節

他にも合併症がありますが、今回は主要な合併症のみ挙げさせてもらいました。

リハビリプロトコル

リハビリのプロトコルは各々の施設によって異なりますし、文献・医学書によっても内容が異なります。言えることとしては、年々早期より骨折部の治癒を阻害しないように留意しつつ手関節、前腕の可動性を引き出す方法を模索しているのが現状だと思われます。また、海外の文献では橈骨遠位端骨折に対してリハビリが必要ではない、もしくはリハビリを行う方が術後成績が不良になるとの報告もあります。しかし、リハビリを行う側としては術後合併症に対する予防方法・発見・禁忌事項の伝達、術後早期よりリハビリを行うことによる早期機能改善〜職場復帰・ADL/IADL使用困難感の改善を図りQOLの向上を目指していく必要性があるのではないかと考えられます。

参考までに当院でのおおよそのプロトコルを一部紹介させていただきます。


表1:橈骨遠位端骨折プロトコル

プロトコルでの重要な事項としては、最初の1-2週間でまずは手指完全屈伸が可能となっていることではないかと思われます。理由としては手指の屈筋腱、伸筋腱ともに阻害因子・代償運動因子としても働くからです。阻害因子としては、手関節の運動を行う際に手指の腱滑走障害が生じていたら手関節運動の阻害因子として働いてしまうからです。代償動作としては手関節の主動作筋が回復に至ってない場合に手指の屈筋腱が手関節掌屈に対しての代償筋として働き、手指の伸筋腱が手関節の背屈動作に対して代償筋として働いてくれるからです。

次に重要な事項としては、抵抗期の4週間以降ではないかと思われます。理由としては、骨折部の治癒過程を踏まえた上でどれくらいの抵抗をどこにかけてよいかということを検討し機能訓練等を行わなければならず、抵抗を掛ける時期が遅れたり、掛ける抵抗の度合いを間違えてしまうことで機能改善までに掛かる時間が遅延してしまうからです。
私はこの辺りを注意しつつ毎回介入させてもらっています。


海外にて報告された論文のアブストラクトを載せさせてもらいます。


引用:PubMed/A prospective randomized controlled trial comparing occupational therapy with independent exercises after volar plate fixation of a fracture of the distal part of the radius


自主訓練

自主訓練としては上記でも述べたようにまずは手指の訓練の重要性が高いと考えます。手指の訓練と言えば、6 pack exerciseとgliding exerciseですね。


図6:6pack active hand exercise

6 pack exerciseは手指の多種の使い方ができるため全関節、筋・腱にアプローチしやすくなっています。


図7:腱グライディングエクササイズ

gliding exercise浅指屈筋腱と深指屈筋腱が屈筋腱zone2の腱交差を行う箇所で腱滑走障害が生じないように分離させることが目的となっています。また、行う際の順番は不順でも構いませんが私は患者様が行いやすいように順番を付け1から5までを繰り返し行いやすい形を取らせてもらっています。

上の図(6 pack exercise,gliding exercise)は私が作成したものですので宜しければ使ってください。


手関節の運動としては、ダーツスロモーション、リストラウンダーなどがあります。ダーツスローモーション前腕回内45°にて肘を着いた状態で橈背屈から掌尺屈を行う運動になります。それにより、手根中央関節(MCJ)が主体に動くことで橈骨手根関節(RCJ)が完全に動かない所まではいかないものの負荷を下げた状態での手関節運動となります。そのため、術後早期より施行するにはダーツスロモーションが良いと思われること、ペンを持った状態で行うことで認識がしやすいということで取り入れやすいと思われます。
橈骨手根関節周囲組織の治癒が進行してきたら次は反対にリバースダーツスローモーションを取り入れます。同一肢位にて先ほどの反対で橈尺屈から掌橈屈を行います。しかし、この動作を自動運動では施行しにくいため自動介助もしくは他動運動にて施行し、橈骨手根関節(RCJ)の可動性を引き出します。

リストラウンダーとは玉のようなものを机に置き、その上に掌を玉に付けた状態で玉自体を前後・左右に動かすことで手根骨間靭帯に対してアプローチを行い手根骨の可動性を引き出すことで手関節の関節可動域の向上を図る自主訓練用具です。自宅でも同様にボールなどの丸いもので代用することである程度同様の効果を得ることができると思われます。

前腕の運動としては、肘を90°屈曲位として脇をしめた状態が開始位置としその状態から前腕部の自動回内外動作を反復します。目安としては軽い棒を持つなどすることでどの程度回っているかなどが認識しやすいです。また、棒自体の重量を変更することで段階付けが行えます。



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