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あたい、和菓子たべたい【短編小説】

「ABCっていう新しい和菓子屋ができたんだ」
休み時間、いつものように魁人は私の机に座った。
「ふかみ、おまえ和菓子好きだろ?あたい和菓子たべたいって言ってみな」
また妙なことを言い出した。〈あたい〉だなんて変なの。
でも和菓子の話ならつきあおうかな。
「…あたい、和菓子たべたい」
「よし。おれと野田さんが何か買ってきてやろうか?」
私はうなずく。
魁人がにやっとする。
「ここで問題です。おれたちが頼まれた物はなんでしょう?」
どうやら魁人の好きな謎かけらしい。

「いま呼んだ?」
同じ5年1組の学級委員、野田さんが寄ってきた。
魁人はしめしめという顔でノートに自分たちの名前を書いてみせた。
「ヒマなら野田さんも一緒に考えて」


  芦名魁人  野田ゆかり

「和菓子屋なのにABCってのが怪しい。それがヒントだね。ふかみちゃん、ローマ字はもう教わったから書けるでしょ」
私は野田さんにあちこち直されながらなんとか名前をローマ字にした。

ASINA   KAITO

NODA   YUKARI

すると後ろから背の高い子がひょいとのぞきこんできた。
「アナグラムだな」
「おい、駿!お前はすぐ解いちゃうから何も言うなよ!」
魁人があわてた。

アナグラムというのは文字を並べ替えて別の言葉を作ることだ。
というのは駿からの受け売り。

「なんて言わされた?」
と駿に尋ねられて私は答えた。
「えっと…あたい、和菓子たべたい」
「ふ〜ん」

駿はちらりと魁人を見て言った。
「知らないのか?ふかみは粒あんのほうが好きなんだよ」
魁人は負けじと言い返す。
「そんなことないよ。な?ふかみ」
私は意味もわからずに答えた。
「うん、まあ、こしあんも嫌いじゃないけど」
「ほらな!」
魁人が勝ち誇ったように言う。
なんなのよ。

そこで駿はどことなく悔しそうに鉛筆をとり、さらさらと書いた。
「こう並べ替えると?」

UN    ATAI  

 KOSIAN      DORAYAKI   

駿にうながされて私は棒読みした。
「うん、あたい、こしあんどらやき

「へへ。正解はどら焼きでした」
魁人はぺろりと舌を出した。
「野田さんちの野田マートにもどら焼き売ってるよね」

なんだかどら焼きが食べたくなってきた。
「今日買いに行こうかな」
「私が持ってくからみんなで駿の家に集まろうよ」
「なんでいつもおれの家なの」
「一個だけわさび入れてロシアンルーレットしない?」
魁人の提案にみんな恐怖とも歓喜ともつかない叫びをあげた。
放課後が待ち遠しい。

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