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春にまつわる思い出あれこれ

 春は好きだ。私の中での春の記憶は、子供の頃の記憶が一番濃い。大人になっても、車から春めいてきた景色を見るたびに、心が少し躍る。路肩に車を停めて、外に出たい衝動に駆られる。

①おままごと
 幼い頃、おままごとが好きだった。母からもらった赤い小さなトランクに、いらなくなった食器を詰めたものが、私のおままごとセットだった。私の家の裏には、空き地や畑があったので、そこから春の草花を摘んできて、お皿に並べておままごとをしていた。ほとけのざ、かたばみ、オオイヌノフグリなど、春によく咲いている草花だ。こんもり盛ってケーキにみたてたり、お椀に水を入れて花を浮かべたり、空想の中では、それはそれは豪華な食事だった。今でも春の草花を見ると、摘んでみたくなるし、なんとなくウキウキとした気分になる。

②花束
 花束を作るのに夢中な時期があった。小学生低学年の頃だった。家の裏の草花を摘んで、小さな花束を作るのだ。花束が出来上がると、祖母に持って行ってプレゼントしていた。今思えば、雑草の花束、祖母も困っていたかもしれない。それでも、祖母はいつも「ありがとう」と笑顔で受け取り、玄関の小さな花瓶に挿してくれていた。今でもその時の祖母の顔が浮かぶ。

③たけのこ掘りとツワブキ
 子どもの頃は、春になるとたけのこ堀りに行っていた。竹林の中を歩くと、地面の落ち葉の形が少し違うところがある。落ち葉をかき分けると、たけのこの頭がそっと出てきている。それを見つけるのが、私の役目だった。まるで宝物を見つけたかのような気持ちで、父を呼んでたけのこを掘り起こしてもらう。ツワブキも生えているので、ツワブキも取りながら歩く。ツワブキは皮を剥いて、アクをとってから料理する。アクがすごいので、ツワブキの皮をむいた後の手は真っ黒になる。ツワブキは、ちらし寿司に入れても、煮物にしてもおいしい。春の楽しみだ。ツワブキは関東の方ではあまり食べないと聞いたことがある。どうなんだろう。

④つくしとわらび
 山菜取りが好きだった。今はどこに生えているのかわからないので、行けない。子どもの頃は、どこに行けばつくしが生えていて、どこに行けばわらびが生えているのか知っていた。そろそろだな、と思うと、ビニール袋を持って出かける。日差しの暖かな斜面にたくさんつくしが生えている。次々と摘んで、ビニール袋に入れる。持って帰って、つくしのはかまをとってから母に渡す。母が作るつくしの卵とじが好きだった。少し苦くて、春の味がした。
 裏山の神社の奥の方にいつもわらびが生えるところがあった。私の秘密の場所だ。もしかしたら、他の人の秘密の場所かもしれないけれど。わらびも母に渡して、卵とじにしてもらっていた。今思うとアク抜きなど、大変だったかもしれない。でも、母も山菜が好きだった。
 子どもたちが保育園に行くようになり、春になると2、3本つくしを持って帰ることがあった。お散歩で行く土手に生えているそうだ。毎年、大事そうに持って帰るつくしを、小さな花瓶に挿して飾っていたのを思い出す。

⑤レンゲ畑
 最近、あまりレンゲを見ない気がする。小学生の頃などは、春になると田植え前のほとんどの田んぼがレンゲ畑になっていた。今思うと人んちの田んぼだけれど、お構いなく入ってレンゲを摘んでいた。レンゲを繋いで、花冠を作るのが好きだった。今も作れるのかなあ、作り方を忘れてしまった。

⑥モクレンの花
 モクレンの花が好きだ。好きな花は何かと聞かれると、モクレンが浮かぶ。いつも遠足の頃に咲いていた。モクレンの花は、空を向いてキリッと咲く。その潔い姿がいいなと思う。いつも下から見上げてばかりで、上から見たことはあまり無い気がする。下からモクレンの花を見上げると、木にたくさん小鳥がとまっているようにも見える。すてきな花だ。

⑦お花見
 家族でのお花見は、一度だけだ。私が就職した後、まだ結婚する前だった。当時就職先から実家までは車で3時間ほど。私は週末などに、よく実家に帰っていた。その時に、家族で近くの山にお花見に行った。父、母、姉、祖母、私、犬で行った。お弁当を買って、桜の木の下でお昼ご飯を食べるだけのお花見だったけれど、20代にして初めての家族でのお花見、しあわせな思い出だ。

⑧お別れ
 家族から離れた時…大学へ行く時、結婚する時、どちらも春だった。
 大学へ行く時は、初めての一人暮らしに不安もあったけれど、新しい暮らしへの期待もあった。母も、笑顔で私を送り出してくれた。私は末っ子だったので、家を出すのにも、もう慣れていたのではないかと思う。引っ越しには、姉がついてきてくれたので、母とは家の前で別れた。高校卒業したばかりの私は、家族は永遠にいるものくらいに思っていた。そんなこと、あるわけないのにね。 
 結婚する時は、夫が私の実家まで迎えにきてくれた。ちょうど、20年前の今日だった。夫の住むところまでは、車と船を使って、ほぼ一日がかりでの移動になる。そう簡単には里帰りできなくなるだろう。そして、一生あっちに住むのだ。自分で決めたことではあるが、実家を離れる時、やはり悲しかった。バックミラー越しに見える母は、目頭を押さえていた。


 春はやっぱり好きだ。暖かくなるし、外に出たくなる。庭に出たら、ほとけのざが咲いていた。いつのまに、こんなところに。

ほとけのざ
駐車場のすみっこにたんぽぽも

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