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君の吐く息の白さに見とれていたあの頃

中学2年から3年にかけて、僕は電車で一駅先にある、地元の小さな学習塾に通っていた。

母親がその塾を選んだ理由はふたつ。

ひとつは何よりも学費が安かったこと、もうひとつは、その割には進学実績が良かったことだ。

そして、その母親の読みは見事に的中し、僕は、その塾のテストで度々一番になっては毎月の学費相当分の賞金(1万円)をゲットし、最終的には母が進学してほしかった高校にも無事に合格を果たしたのだった。

まあ今となっては、いや当時からそんなことは割とどーでもよくて、覚えているのは、授業中、ずっと早く家に帰って三国志のゲームをやりたいと思っていたことだったり、塾の帰りに近所のYショップでランチパックやナイススティックを買い食いしていたことだったりする。

いや、正直に告白すると、いちばん鮮明に僕の脳裏に残っているのはやはり彼女のことだ。

何しろいまだにフルネームを漢字で書けるどころか、たぶん彼女の似顔絵だって書ける自信があるほどだし。

うん、あの頃、気づいたら、いつしか僕は彼女に会いに行くために塾に通っていたように思う。

と言っても典型的なShy Shy Japaneseだった当時の僕は結局、最後まで彼女と言葉を交わすことすら出来なかったけれど、あんなにも人を好きになれたことは自分の人生でもそうそうなくて、だからこそ、いまだにあのときのことを思い出すと、胸の高鳴りやときめきが止まらなくなる。

これぞまさしく「ときめきメモリアル」というヤツなのかもしれない(やったことないけど(笑))

まあゲームとは異なり、僕は彼女とデートすることもなければ、その後に待ち受けるムフフな展開も経験せずじまいで、その代わりに思い出すのは本当にささやかな、たとえばこんなエピソードだったりする。

季節は12月

塾が終わり教室を出た僕は駅を目指して一目散にひとり商店街の道を歩く。

その道の途中でかじかむ手と身体を温めたくなって、僕はコーンポタージュスープを買いにあのいつもの青白く光る自販機に向かった。

そしたら、その自販機の前にはすでに先客が一人いた。

彼女だった。

彼女はちょうど缶入りのロイヤルミルクティーを飲んでいたところだった。

このとき、

ああなんて彼女にぴったりな飲み物なんだろう

と思った。

そして、気づいたら僕はフッーとその小さな口元から吐き出される彼女の白い息に見とれていた。

けれど、見ているうちにどんどん身体中がカーッ!と熱くなっていくのを感じた僕は、その姿を彼女に見られてしまうのが恥ずかしくて、すぐにその場を退散した。

確かにもはやコーンスープなんていらないくらい身も心も温かくなってたしね。

そんな季節がまたやってきた。


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