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楽しんできなっ!

朝6時30分

いつもどおり目を覚ましてリビングに行くと、そこにはいつもとは違う光景が広がっていた。

すでに灯油ストーブがついていて部屋は暖かかったし、いつもは寝ている妻と息子も起きていた。そして、テレビ台の前には、黒いランドセルが無造作に置かれていた。

「そっかあ。今日から新学期か…。」

そうなのだ。

どういう風の吹き回しか、一昨年の4月からずっと不登校を続けていた息子が、

「三学期の最初の1日だけ、ちょっと顔出してみる」

と言っていたのだった。

その息子の顔を見ると、案外、冷静そうだったから、少し安心した。

でも、きっと内心は、緊張と不安で心臓がバクバクしているのだろう。

これまで、

学校に行くなんて当たり前なこと、

ではなくなったこの時代に、生まれてしまった息子をどこかでかわいそうだと思っていたのだけど、この日、そんな僕の心境に変化が起きた。

弱気な心をぐっと抑えて、勇気を振り絞って、一歩を踏み出そうとする彼の姿は、

まるで新しい冒険の旅に出ようとする勇者のように見えたからだ。

そんな小さなヒーローの背中に向かって、僕は自然とこんな一言をかけていた。

「思いきり楽しんできなっ!」


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