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アシモじゃねーよ!あやしもだよ!

僕が何気に自慢なのは、実はあのあやしもさんと同級生だということである。

ちなみに、このときの僕は、

「イチローと同級生なんだぜっ!」

と言う時とほぼ同じテンションである。

しかし、同級生と言っても、別に学校が一緒だったとかではない。というか、知り合ったのは、お互いにアラフィフになったこの数年の話である。

けど、あやしもさんご自身がいみじくも仰られていたみたいに、あやしもさんを含む仲良しグループでワチャワチャやってるときは、なんだかクラスの終わりの会にいるような感覚になるから不思議だ。

まあ、学生時代の僕はと言えば、いわゆる仮面の忍者青白影だったから、実際に同じクラスだったとしても、たぶん存在にすら気づかれてなかっただろうけど。

けど、できればもっと早くお知り合いになりたかったなあと思うのは本当のところである。

そして、折角だから勝手に二人の出会いを妄想してみることにした。

そう、僕らは、小田急沿線にある大学の新歓コンパで知り合ったのだった。

まあ、当時、鋼の対人恐怖氏だった僕は、案の定、ザ・若気の至りの商品サンプルみたいにはしゃぎ回る若者たちをよそに、テーブルの隅っこの方で、

早く終わらないかな〜と一人たそがれていたんだけど。

そんなとき、ふと同じ長テーブルの対角線上を見ると、かいがいしくみんなのお酒やつまみを注文している女性が目に映った。

それが、あやしもさんだった。

当時、全盛を極めていた八木亜希子アナ似の美人さんだったが、なんとなく周囲の人たちに馴染めてない感じに、勝手に親近感を覚えた。

もちろん僕から声をかける勇気なんてあるわけなかったから、その日は、ただこの世にあやしもさんがいることを認識した記念日となった。

その後の僕はといえば、結局、新歓コンパでもオリエンテーションでも、誰からも声をかけられず、寂しいと思う反面、内心、ホッとしながら、毎日、一人講義室の最前列で授業を受けていた。

それは別に真面目に授業を聞きたいわけじゃなくて、最前列は基本誰も座りたがらないから、一人の生活を満喫できるからに過ぎなかった。

そして、昼過ぎに大学を出ると、僕は下宿先とは逆方向の電車に乗って、よく下北沢に通っていた。

ヴィレッジヴァンガード、古着屋、ディスクユニオン、ライブハウス、小劇団の劇場などなど

当時も今と変わらず大学生が通うのに何ら違和感のない街だったけど、僕はそんな若者のシンボルのような店をことごとくスルーして、いつも同じある場所に向かった。

そこは、露崎商店と呼ばれる戦前に建てられたモダンなアパートをランドマークに骨董やアンティーク・レトロ雑貨を扱うお店が一同に会していて、そこに行けばさながら大正・昭和初期にタイムリープしたような気分になれる場所だった。

在りし日の露崎商店

ちなみに当時の僕がいちばんハマったのは、昔の企業のノベルティグッズ、次に、柱時計や丸いちゃぶ台や小ぶりの本棚といった古家具の類。

いい年した若者がハマるには、あまりにも抹香臭い趣味だったけど、初めてお店に入った瞬間、なんだかばあちゃんちの応接間にいるような居心地のよさを感じて以来、ほとんど習い事にでも通うような感覚で足繁く通うようになっていた。

そんなある日のこと。

いつものように、お店の中に所狭しと並べられている古い生活雑貨や家具を目を皿のようにしながら眺めていると(その日はブロンズの重厚な大隈講堂のミニチュアに釘付けになっていた)、背中越しに

「○○くんじゃない?」

と呼びかける声が聞こえた。

振り返ると、そこにはなんとなく見覚えのある女性が立っていた。しばらくして、ああ、あのときの居酒屋の…と思い出したけど、彼女に限らず同級生の名前は試験には出ないから全く覚えてなかった。

そんな僕の当惑を鋭く察した彼女はさりげなくこう続けた。

「私、大学で○○くんと同級生のあやしもといいます」

「ああ、そうですか…」と間の抜けた回答をした後、しかし、この人、なんだか僕以上にこの空間に馴染んでるなあと思ったら、ほぼ初対面にも関わらず、気づいたら、

「この緑色のガラスの器可愛くないっすか?」

「この生地の模様ってちょっとアールデコ入ってカッコいいですよね〜」

とか普通に会話が弾んでいる状況にビックリした。

自分の興味のあることなら急に饒舌になるのはまあいわゆるコミュ障のオタクあるあるなんだろうけど、何しろ、その会話の相手が大学の同級生、しかも思春期になってからほとんど喋ったことがない異性、女性だったからだ。

でも、彼女の態度からは、同級生だから一応付き合おうか、という偽善的なおせっかいさは微塵も感じられず、本当にアンティーク雑貨好きな一人の女の子がそこにいただけだった。

僕は、ああ、この子となら友達になれるかも、と思ったけど、無論、そんなことは言えず、店を出ると、目もまともに合わせられないまま、じゃあ僕は用事あるんで…とそそくさと逃げるようにその場を後にした(もちろん用事なんてなかったんだけどね)。

でも、それから放課後にその界隈をうろついていると、たまに彼女と会うようになり、いつしか露崎商店の中にある喫茶店で、その日のお互いの戦利品を見せ合うようになっていた。

「これはいよいよ僕にも8年越しの友達が出来たかも!」

と内心、ワクワクしながら、でも、もちろん、僕たち友達だよね、なんて確認する訳にもいかないから、本当のところは、ぼっち同級生に対する彼女のボランティア活動の一環かもしれないなあ、と思うと少し胸が苦しくなった。

というのも最初に出会った印象と変わらず、彼女は誰に対しても優しく気遣いが出来る女性で、同級生のみんなから菩薩なんてあだ名されるくらいだったし、一方の僕はといえば、若々しさのかけらも生気もないただの老青年だったから、僕がそう思っても何ら不思議じゃない状況だった。

けど、そんな秘めたさみしさ以上に、ミケネコ舎という名のその喫茶店で、彼女と話したアンティーク雑貨、小説、工業哀歌バレーボーイズ、彼女のイケメン彼氏の愚痴(という名ののろけ話)
といった他愛のない会話の数々は、結局、大学でもバイト先でも誰一人友達ができなかった僕にとって、唯一の青春の証みたいに、今もキラキラと光り輝いている。

喫茶ミケネコ舎

その後、大学卒業を機に、自然と彼女とは疎遠になったけれど、それから約10年後、都内某所を当時のガールフレンドとデート中、なんだか雰囲気が良さげなアンティーク着物の路面店を見つけたので、ふらっと入ってみたら、なんとあの彼女が素敵な着物姿で凛と佇んでいた。

社会人になって色々と鍛えられた僕は、久しぶりの再会のあいさつに、こんなボケをかましてみた。

「ア、アシモさんですよね?」

そしたら、両腕を振って膝を曲げたままのあの独特な歩き方で歩き出した後、彼女は

「アシモじゃねーよ、あやしもだよ!」

と力強く突っ込んでくれた。

「ああ、僕たちはやはり友達だったんだな」

と確信した瞬間だった。

ちなみにこちらがアシモ↓です。

僕のあやしもさんのイメージは空気公団みたいな感じ。


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