見出し画像

ロマンスのカっちゃん

なんか思いつきで急に旅に出たくなるときってないかな?

あるともー!

というわけで、GW狭間の戦い的な平日の今日、昼過ぎに

いざ鎌倉へ!

をしたくなった僕は夕方6時台の特急電車のチケットと藤沢駅近くのホテルをノリで予約した。

そして、こんなキチ◯イ父さんの気まぐれにもすっかり慣れっこになったカタギの妻子と新宿駅で落ち合い、弁当やらお菓子やらをしこたま買い込んで、あの

ロマンスカー

に乗り込んだ。

そしたら、僕らのすぐ隣の席にやたらとデカい声で話すおじさんがいて、

「これは早速、せっかくの旅情気分に盛大に水を刺されそうだぞ。」

と僕らの表情はみるみる曇り始めたのだった。

特に妻は明らかにテンションが下がって沈黙の艦隊と化してしまった。

でも、みんなお腹はぺこぺこだったから、無言で弁当を広げて淡々と食べ始めた。

このときさりげなくどんな人か覗き込むと、見た目も

かなりパンチの効いた感じのおじさん

だった。

まるでモアイ像のような赤黒くて大きな顔でルイヴィトン?の極彩色のフリフリの上着を着た彼を見た瞬間、僕は反射的に

「ダウンタウンのごっつええ感じ」で松ちゃんが演じていたキャシー塚本やトカゲのおっさんと同類の人

だと思った。

というわけで?ここからは彼のことを便宜的に

ロマンスのカっちゃん

と名付けることにする。

で、僕らの耳にはどうしたってカっちゃんの話し声が否が応でも聞こえてくるから、話の内容もいつしか聞き取れるようになっていた。

まずずっと独り言だと思っていたけど、隣の席の白髪頭のおじさんがどうやら彼の連れだったらしく、話の途中で時々そのおじさんの合いの手が入ることに気がついた。

しかし、その合いの手があまりにもたま〜に過ぎるのと、そして、あまりにも小声過ぎたせいでずっと独り言に聞こえていたのだった。

そんなロマンスのカっちゃんの話の中で一番印象的だったのは、ゲゲゲの鬼太郎の話だった。

というのも、彼は大声かつ独特な癖スゴな言い回しで

「ゲゲゲエの鬼太郎はよー、はじめは墓場の鬼太郎って言ってたんだよなあ。」

と鬼太郎トリビアを語っていたのだけど、なんと僕らは昨晩、まさにその墓場の鬼太郎の前日譚を描いた映画版の鬼太郎(何気に傑作)をアマプラで見たばかりだったのだ。

なんちゅうシンクロだ!

と僕らは目を丸くしながら顔を見合わせたのだった。

その後、途中の停車駅で次々と乗客が下車する中、ロマンスのカっちゃんと連れの人だけはなかなか降りずに結局、僕らが降りる藤沢駅の一つ手前の駅までずっと一緒だった。

そして、カっちゃんたちが降車後は、まるで堰を切ったように、僕らの話題は彼のことで持ちきりになった。

妻も息子もしきりと

「メチャクチャ変な人だったよね〜。」

と興奮気味に語っていた。

僕もそれに大きくうなづきつつも、二人と僕が唯一違ったのは、実は僕は内心では

ロマンスのカっちゃんのことを

そう、

周囲からの冷ややかな視線に決して動じることなく、そのハタ迷惑上等なキャラクターを終始貫き続けた彼のことを

なんかカッコいいなあ

と憧れの眼差しで見つめていたのだ(苦笑)

確かに僕らだけじゃなく、間違いなく同じ車両にいた全ての乗客から彼は決して関わってはいけない「危ない人」認定されて、その存在をないものに(erase)されていた。

でも、一方で彼がただ単に変で傍迷惑な人なんかじゃなかったのは、こうやって今まさに僕らが彼の話題で大いに盛り上がっている事実が見事に証明している。

そう言えば、なかなか周りの人に馴染めなかった20代の頃にも僕はこーゆー

ごっつええ感じな人

に出会っていたく励まされた、という経験をしたことをふと思い出した。

要するに、あれから自分なりに努力を重ねて誰とでも緊張せずに気安く話せるくらいにはなったけれど、人付き合いが苦手だという根っこの部分はきっとたいして変わってないのだろう。

でも、あの頃の自分と少しは変わったかなと自分でも思うのは

カッちゃんみたいに振り切ることもできなければ、一方で妻や息子や他の乗客たちのように彼のことを自分たちとは違う変人だと簡単に切り捨てることも出来ない

そんな中途半端にいびつな自分のことを

それでも別にいいやん

と少しは許せるようになったところかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?