見出し画像

合格祝いはシャンディガフで

その夜、いわゆるKOボーイのOくんと僕は、銀座ライオン以上キリンシティ未満の中途半端な洋風居酒屋で、彼女たちの到着をぼんやりと待っていた。

「お待たせしました〜」

と二人は、待ち合わせ時間の15分遅れでやって来た。

もはや顔も声も何もかもが思い出せないので、とりあえず前髪を南米にいるインコみたいな形にオゾン層を破壊するスプレーで固めたワンレンボディコン女子二名を思い浮かべてほしい。

その日は、Oくんが企画した男女2vs.2のこじんまりとした合コンの日だった。

相手は、大手都市銀行いわゆるメガバンクに勤めるOLさんで、さすが三田会の人脈とブランド力は違うな〜と都内ではほぼ無名に等しい地方大学出身の僕は改めて感心した。

そう言えば、僕の生まれて初めての、そして、おそらく人生最後のスッチー合コンも彼がお膳立てしてくれたものだった。

とりあえず駒は揃ったので、この日の合戦も無事、口火が切られたのだった。

ちなみに当時の僕は、合コンキングコングと自称するくらい、男女比がほぼ半々の飲み会、いわゆる合同コンパニー略して合コンに積極的に参加していたのだけど、参加した理由は我ながら極めて不純なものだった。

というのも参加者の男性のほとんどは、純粋に女性とのメイクラブを最終目標にしているのに、僕だけひとり営業マンとしてのトーク力を磨くための、いわば修練の場として合コンを活用していたからだ。

もちろんいわゆるラッキースケベ的な展開をまったく期待してなかったかと言ったらウソになるけど、自分から女性にアプローチすることはまったく、いや、ほとんど←なかった。

いわゆるイケメンとは対極なルックスだったし、そもそも当時すでに既婚者だったしね(苦笑)

というわけで、自らの営業スキル=太鼓持ち力を磨くべく、男女構わず、できれば、このきっと一夜限りの邂逅の場を、参加者全員が楽しめるように、僕は、とにかく自分が出来るあらゆる手練手管を駆使したのだった。きっと血中アルコール濃度が一定値を超えないと反応しないような、雑でつまんないネタばかりだったとは思うけど。

それが証拠に、あのとき自分が話したことはまるで記憶喪失かと思うくらい本当に綺麗さっぱり何も覚えていない。

そんな僕が唯一、思い出せるのは、顔のはっきりと見えない男女数人がケタケタと笑っているシルエットだけだ。

でも、当時の僕にはそれで充分だった。

だって、営業になりたての頃の僕は、それこそ人を笑わせるなんてもはや魔法に等しい所業くらいに思っていた典型的なコミュ障陰キャ野郎だったのだから。

そして、その日も、話した瞬間に忘れてしまうような、どうでもいいネタで、時代遅れのワンレンボディコン姿の(本当は違うけど)そこはかとなく石鹸(バブル)の香りがする(これは割と本当)女の子二人を存分に笑わせることに成功した(いつもどおり性交は出来なかったけど)

そのうちの、温子ちゃん(もちろん仮名です。ちなみにもう一人の名前はゆう子ちゃんと言います)が飲み会の終わり頃に僕に向かって、突然こんなことを言ってきたのを未だによく覚えている。

「N.O.T.Eさんって、ホント典型的な営業マンですね」

この彼女の言葉の真意は正直、計りかねたし、もしかしたら揶揄する意味合いも幾分込められていたのかもしれないけれど、この言葉を聞いた瞬間の僕は、そんな相手の真意とか本当にどうでもよくて、

「ああ、これで僕もようやく営業マンとして免許皆伝したんだな」

と思えて、そして、それがたまらなく嬉しくて、そんな自分に向けた祝杯として、目の前のシャンディガフを一気に飲み干したのだった。

それは僕が営業マンとして働いて6年目を迎えたある春の日の出来事だった。

そして、実際にそれなりの営業成績を残せるようにもなっていた僕は何の未練もなくその数ヶ月後にはすっぱりと会社を辞めて、まったく別の仕事に就いたのだった。

その後、いろいろと紆余曲折はあったけれど、今、振り返っても、あのときの決断は大正解だったから、温子には本当に感謝している。

ちなみに、タイトル画像のお酒は(たぶん)シャンディガフではありま温泉。

で、こーゆー軽薄なノリ↓が嫌いじゃないのも、たぶんこのときのただれた(笑)体験のせいかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?