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何故だかちょっと全制覇癖。



 今回もまたまた自分語りに励みたいと思います(^^)。

 さて、僕には全制覇癖といったようなものがありまして本日はそのお話。

 全制覇癖とは?はい、それはある作家(や作曲家)などの作品を一度好きになってしまうと最早そのすべての作品に接せずにはいられなくなってしまうというものであります。そんなの多かれ少なかれ誰でもそうだよと言われれば全くその通り。それに僕が他の人達と比べて病的にそういう傾向が強いというわけでもなく、ちょっと強いかなといった程度のものなんですけど、ま、宜しかったら最後までお付き合いください(^^)。



 先ずは海外文学から。

 ①ヘルマン・ヘッセ‥‥ええ、これはもう本当にたくさん読みましたねえ。長短編はもちろんの事、詩、エッセイもほぼ全制覇。何故ヘッセかと言うとその理由ははっきりしていて、即ち学生時代にお付き合いしていた彼女の愛読書がヘッセだったからであります(^_^;)。
 正直、それまでの僕はたまに文学作品にも手を伸ばすとはいえ読書の中心はSF小説かミステリ小説‥だったのだけれど、文学少女の彼女と対等に会話するためならたとえ火の中水の中(^◇^;)。ヘッセのみならずドイツ文学という括りで更に難解なトーマス・マンにまで手を広げました。
 でもはっきり言って当時の僕は彼女の手前少し背伸びをしていましたね。トーマス・マンは、初期の「ブッデンブローク家の人々」は好きだったけど後の作品は良さがあんまりわからなかった。ヘッセも最初は寧ろ読んでて抵抗を感じたくらいでしたが読み続けるうちに次第に好きになってきて(‥でもそうなる頃には既に彼女とはお別れしてました(T . T))、以後も何度も読み返しています。
 彼女の存在に加えて作者が常に自分の内面を見つめ、人生への迷いを語り続けているところに僕は惹かれたのだと思います。
 彼の小説でとくに好きなのは「ナルチスとゴルトムント(知と愛)」です。この小説に登場する主要人物ふたりのキャラクターは旧約聖書創世記の「カインとアベル」に準える事ができるんじゃないかと密かに思っています(もちろんゴルトムントがカインです)。事実、小説「デミアン」の中で作者は創世記の「カインのしるし」について言及していますし、ヘッセ自身アベルよりもカインの方に魅力を感じていたもよう(まあ聖書を文学的に読めばきっと誰でもそうでしょう)。カインは人類初の殺人者(!)な訳ですがゴルトムントも小説中で殺人を犯します。そして優等生のナルチスよりもゴルトムントの方が遥かに魅力的な人物として描かれている‥そう、道を外れた者というのは現実ではダメ人間でも小説の世界ではいつも魅力あふれる主人公なのですね。

 「もしきみがコウモリに生まれついてるなら、アヒルになろうとしちゃダメだよ(ヘルマン・ヘッセ)」

 他にも特にお気に入りの「シッダルタ」や「クヌルプ」などは何度も読み返しました。ノーベル賞受賞のきっかけとなったらしい最後の長編「ガラス玉演戯」も2回読んだけど、うーん、これについては巻末に置かれてる付録みたいな3つの短編は良いんだけど本編の部分の値打ちは今のところ僕には全くよくわかりません💦



 では次に日本の(現代)文学で、

 ②福永武彦氏‥‥福永氏の著作との最初の出会いは何とミステリ小説でした。ミステリの短編アンソロジーに福永氏の作品が一編載っていたんです。といってもその作者名は「加田怜太郎」。これは正体を隠した福永氏が「かだれいたろう」→(並べ替えて)→「たれだろうか(誰だろうか?)」と読者に謎をかけたペンネームとの事。その上、この短編に登場する探偵の名前が「伊丹英典(いたみえいてん)」→並べ替えると「みえいたんてい(名探偵)」(!)と来れば、この一点だけでももう言葉遊びの好きな僕には放っておけません(^^)。そこで一気に福永氏という作家に興味を持つことになった訳なのでした(この伊丹英典シリーズは「加田怜太郎全集」として一冊の本にまとめられています)。
 さて、福永武彦氏が普段は純文学の作家であると知った僕は早速(例によって)氏の著作の物色を始めます。今では氏の著作は余り見かけなくなったけど、当時は新潮文庫で10冊ほど、河出文庫でも何冊かが常に書店の棚に並んでいたからとにかく片っ端から読み耽りました。文庫以外にも手を伸ばし、詩集やエッセイ、更に未完の「夢の輪」も読んでしまって手に入る作品がいよいよなくなってきた頃には「さらに1冊!」という気持ちがやたらと強くなってしまって、新聞などで「福永」という活字が目に入ると視線がピピッと反応したりもしましたね(競馬騎手の福永洋一氏や指揮者の福永陽一郎氏の記事があったりした時にね。ちょっと病的(・・?))

 ではなぜそんなに氏の小説に惹かれたのか?
 先に氏の言葉遊びについて書いたけれどそれだけじゃない。氏は作品の中で構成や文体において色んな実験をしていて、そんな仕掛けがまた僕の嗜好によく合っている。更に、(それ以上に)僕は氏の書く文章そのものに強く惹かれたんです。寒くて暗い情景が教養豊かな作家の筆から静かに立ち昇ってくる感じ‥とでも言えば良いのでしょうか、どこまでも読み続けていたくなる文章。こんな文章が書ける人って何て素敵なんだろうと憧れを感じるような、まるで好きな作曲家の音楽を聴いているような‥そう、音楽!音楽!!福永氏の小説は音楽なんです!

 知的で精緻な文章はモーリス・ラヴェル。
 暗く淋しげな情景描写はシベリウス。
 そして仕掛けのある凝った構成はマーラー!

 最早僕にとって内容はそんなに重要ではないのかもしれません(小説内容で福永氏に心酔している方、ごめんなさい(^人^))、ただただこの文章を読んでいたい‥その一点が、僕が福永武彦氏の小説に惹かれた理由だったのです!
 さて、そんな福永氏の小説の中でも特にお気に入りの作品は何かというと、やはり大作「死の島」ですね。シベリウスの第四交響曲の暗く淋しい響きを背景に(この音楽については作中に言及があります)、特に後半の東京から広島へと向かう夜汽車の場面が素晴らしい。主人公の気が急いている設定にもかかわらずこのシーンは結構長いのだけれど、現在の新幹線で「数時間で到着」というのではこの情緒は味わえません。そして最後に驚愕の結末が‥ネタバレになるから書けませんがこんな結末見た事ない!まさに実験小説!作者自身「最後はだんだんクレッシェンド」と仰っている通りの凄い盛り上がりと困惑の中で小説は終わります(マーラーの第二、第三、第八交響曲並みの巨大なフィナーレです(^^))。



 というわけで、上記2人がほぼ全制覇を達成した作家。他にも結果的に全作品を読んだ作家もいるけれど、この2人ほどに作品を「あと一作でも手に入れよう」と頑張ったわけではありません。
 では、既にかなり長くなっているので本の話これくらいにして、最後に特定作曲家のCDでの全制覇のお話を。



 ③ヤン・シベリウス‥この人は先の福永氏のところで名前が出てきましたね。福永氏は「死の島」をシベリウスの音楽をかけながら執筆されたとの事。僕がシベリウスを全制覇したいと思ったのも「死の島」を読んだのがきっかけです。
 好きな作品は有名曲では全ての交響曲(1〜7番+「クレルヴォ」)と、交響詩「タピオラ」「ポヒョラの娘」「エン・サガ」「レミンカイネン4部作」、ヴァイオリン協奏曲など。すべて陰に陽に北欧の神話(カレワラ)を背景としていて、北国の仄暗くて淋しく時には荒々しい自然の情景を彷彿とさせる音楽です。
 これも集めましたねえ。当時ネーメ・ヤルヴィ氏がエーテボリ交響楽団を指揮してこの作曲家の管弦楽作品を片っ端から録音していたので追いかけるようにして次々とこれを購入しました。更に歌曲やピアノ曲、ヴァイオリンと管弦楽のための小品、有名な「親愛なる声」に加え初期の弦楽四重奏曲も二曲、ヴァイオリン小品集全2巻、合唱曲集から唯一のオペラ「塔の乙女」まで。とにかくあの「死の島」の世界を耳で味わいたくてCDを買い漁りました。

 で、その結果言える事は‥

 シベリウスの音楽の魅力は僕の思うに作品に普通の音階とは少し異なる教会旋法が用いられていて、それが特異な管弦楽法と相まって他では聴けない独特の暗い響き(交響曲第2番の第二楽章のような)を作り出している、そして無名曲にも同じ雰囲気を持った曲が幾つか存在する事は確かです。でも意外とそうじゃない曲もたくさん。有名曲のあの厳しい響きに比べ何だか甘ったるかったり、えっ!?これがシベリウス?と思うようなインスピレーションの乏しい平凡な曲も多いという印象です。やはり有名曲には有名なだけの、無名曲には無名なだけの理由があるのだなと思いました。
 で、無名曲でお気に入りはというと一曲挙げるとすればヴァイオリンのためのソナチネですね(但し第一楽章のみ推し)。これは比較的明るい曲だけどいかにもシベリウスな語法で書かれていてしかもチャーミング。もしこれで(第二楽章はともかく)第三楽章がもう少し充実していたらもっと弾かれてヴァイオリニストの( 或いはヴァイオリン学習者の)大切なレパートリーになったかもしれないなと思いました。
 それと僕が知らなかっただけで有名な曲なのかもしれませんが「ソプラノと管弦楽のための交響詩〈ルオンノタル〉」(!)。これは実に素晴らしい!シベリウスらしさ全開の曲なのです(^^)



 という事で僕が特に力を入れて作品を収集したのはこの3人です。他にも例えば映画のDVDだったら宇宙SFのスタートレックシリーズとかゴジラやガメラなどの怪獣映画系をたくさん収集してるんだけど、丁度「ガメラ」の名前が出てきたところでこの長い文章はお開きといたします。

 えっ、どうしてガメラが出てくると最後なのかって?
 何故ってガメラは亀の怪獣で、本日のテーマは①ヘッセ②福永③シベリウス。この3人の頭文字をつなげると「ヘ、フ、シ」。





 「ペプシ」はコーラ(甲羅)ですからね(^_-)




     (おわり)






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