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不意のできごとには、ベストを尽くして対応するしかないわね(ターシャの言葉)

夢を見た。

いくつもある色とりどりの浴衣の中から、
わたしはブルーがさし色になったゆかたをにこにこしながら手にとった。

うん、これがいい。
この浴衣がいい。

目がさめたとき、浴衣って高校二年のときの、
夏祭り以来着てないよなぁと思う。

ゆかたかぁ、
リーズナブルなものであれば揃えて、
ちょっとした場に着ていくのもありだな、
と、すっかりその気になったのだった。

お昼ご飯を食べて、真夏の炎天下、
電車に乗ってはじめて行くショッピングモールをめざした。

はじめて行く場所をあっちかな、こっちかなと、
うろうろしながら歩くのは楽しい。

空は晴れ♪

大橋トリオの「Happy Trail」が頭の中を流れる。
清々しいクリアなブルーに入道雲、
そういや、わたしは夏は元気なのだった。

ショッピングモール内の敷地に入り、
ふと見ると自動販売機の下で若いカップルがグレーの猫をなでなでして、
スマホで写真をパシャパシャ撮っている。

うわ、かわいい猫だなぁ。
野良ちゃんかなぁ、人なつっこいなぁと、眺めながら通り過ぎた。

ショッピングモール内に浴衣売ってるのかな?と(下調べなし)
二階に行くと、どーんと呉服屋さんがあって、
高そうだなぁ、とさりげなく値札を見ると、
「28,000円」「30,000円」・・・・・・

そっと手をはなし、そっとその場を立ち去る。

た、たか!
そりゃ呉服屋さんの本物はその値段が妥当でしょう。
呉服屋さんでの購入は今回諦め、
バーゲンの洋服を買い、
ひととおりモール内を巡って外に出た。

販売機の前の陰になった部分に、
どろんと横になったグレーの物体が遠目で見えたので、
「あ!あの猫ちゃんまだいる!」
と思い近寄ってみた。

すると、寝そべった猫ちゃんの前で、
自転車に日傘をさすべぇした紫外線完全防備の女性が、
スマホをさわっていた。

えらい、猫ちゃんと近い場所でスマホさわってるな、と疑問に思いながら、
グレーのきれいな猫ちゃんに微笑みかけると、いきなり女性がわたしに話しかけてきた。

「この猫ね、きっとおうちの猫だと思うんですよ!ずっとここにいるし、わたし気になって戻ってきたんですよ」

と、言う。

何やら勢いが、藁にもすがるような、心細さの思いのたけを、
すべてわたしにぶつけてくるような、そんな気迫があった。

気迫に押されたわたしは、

「いやぁ、わたし猫のことは正直何もわからなくて・・・」

と、やんわり言うと、

「わたしもわからないんですけど、さっきペットショップに行ったら、知らない、と言われるし、もうどうしていいか。この暑い中、放っておけないし」

と、早口で返してきた。

「いやあ、わからないんで。さーせん」

と言って、その場を逃げることは、「もう一人のわたし」の名にかけてできない。
わたしは覚悟を決め、

「おひとり不安ですよね。わからないけど、わたしも一緒に考えます!」

と、女性に言った。

と、言ってもわたしは地域猫を遠くから、じーっと見ることしかできない、何の知識も猫スキルもない、びびりだ。
いったいどうしたら。

猫は熱さにぐったりしているような気がして、
水を飲まさなければ!と販売機でミネラルウォーターを買っていると、
女性が冷たい水は飲まないんじゃないかしら・・・と遠慮がちに言う。

でも、
と買ってキャップに冷たい水を注いで猫の口もとに置いたら、

「いらん!」

とばかりに「プイ!」とされた。
えええええ、猫よ。

「多分この子、絶対迷い猫よ。血統書の猫で、ブラッシングもちゃんとされてるし、爪もきちんと手入れされてる」

え?
おばさん、猫のこと詳しいじゃんか・・・

わたし、それすらもわからなかったんですけど・・・。

「こんな場合交番ですかね!?交番かしら!?」

と、まったく無知なわたしに、あいかわらず判断を仰いでくるおばさん。
(決断できない体癖をお持ちね)

二人、途方に暮れて困り切っていたとき、
わたしの視界に救いの、
ひかりの断片が横切った。

ふっと右に頭を向けると、
50m先に、ゆっくりとこちらに歩いてくる、
大柄な、施設内を巡回する警備員の姿が。

わたしは彼に、後光がさしているのが見えた。

救世主や!!
救世主が来た!!


「おばさん!あの人に助けてもらいましょう!」
「そうね!」

わたしたちは転がり込むように救世主のもとに行き、
事情を話して助けを乞うた。

最初、若干圧に引いていた警備員さんは、施設内のことであるし、インカムで担当者と情報共有しあい、飼い猫らしきことであることも伝えてくれた。

グレーの猫は、
知ってから知らずか、
暑さにまいっているのか、相変わらず横になっている。
一度、立ち上がりわたしのそばに来て、足元にからだをなでつけた。

顔を見ると、あまり若い感じではなく、首輪もつけていなかった。

「警備員さん(救世主さん)!お任せしてもよろしいでしょうか?」

わたしがそう聞くと、救世主は、

「お任せください」

と笑顔で言ってくれた。

わたしは涙がこぼれてきて、ありがとうございます、と言って、買ったミネラルウォーターを救世主に渡した。

おばちゃんは、「良かったわ!」」と言って、
さすべぇの自転車に乗ってひらりと去っていった。

わたしは彼女を見ながら、わたしの「もう一人のわたし」が救世主を呼んだのか、
おばさんの「もう一人のわたし」が救世主を呼んだのか、
どっちだろう?

と考えてみたけれど、
まあいいか、と思いながら、心から、猫さんがちゃんとおうちに戻れますように、と祈るのだった。


その後、ふと、ターシャの言葉を開いてみると、

「不意のできごとには、ベストを尽くして対応するしかないわね。June.26」

だった。(実際はJuly.29だが)

もっと他にやりようがあったかもしれないけれど、
これがわたしなりのベストだった。


浴衣はふっとんだ。







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