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ねたあとに

2012年頃書いた読書感想文

ねたあとに

僕は映画「ジャージの二人」を見てから長嶋有作品を読むようになりました。長島作品の特徴といえば、カラッとした作風と、ジメッとした固有名詞の多さ。そして妙なリアリティ。というのも、長嶋有という作家は一つの小話を大きく広げる才がある作家なのです。
例えば「パラレル」。
これはゲームデザイナーのちょっとした話を聞いただけでストーリーを作り上げ、ゲーム関係の裏話を入れつつ、それとは全く異なるホモソーシャルな作品になってました。
例えば「エロマンガ島の3人」。
これは某週刊ゲーム誌の企画「エロマンガ島でエロ漫画を読もう」の話から導き、雑誌編集者が主人公の、エロマンガ島を舞台にした青春小説になってました。
「ジャージの二人」はカメラマンの父と作家志望の息子が、高原の山荘で避暑を過ごす淡々とした作品ですが、長嶋家は実際に山荘を所有していてそこが舞台になっています。

そして「ねたあとに」は長島作品の中でもっとも私小説な割合が高くなってます。
主人公の作家「トイレコモロー」は「ジャージにて」などが代表作で、「オーエ賞」を狙って作品作りに励む・・・どこかで聞いたことがありすぎる。
で、舞台になるのは高原の山荘。父親と、友人たちとあっつ~い夏に涼しい山荘で遊んで過ごすというお話です。

「ねたあとに」というタイトルは、自分が寝た後に他の人達が楽しい遊びをしたり面白い話をしていたら悔しいから起きている、というところからきています。

作品解説をみる限りでは、作中延々とゲームをしているとのことなので、
長島作品にしてはページ数が多い本作、ひょっとして読むのがかったるいんじゃないかと、あまり期待はしてませんでした。しかし、
「久しぶりに豊満な胸というものをみた。」
という序文に惹かれ読み始まったら止まりませんでした。
おもろかった!
こーゆーのを大人の青春小説っていうんだな。
オチらしいオチはないけれど、そこがよい。

本作の一番の特徴は、主人公ではなく、主人公の友人久呂子さんの語りで物語が進むということ。久呂子・・・クロコ・・・くろこ・・・黒子!!
そう、黒子なのです。
自分のもう一つの人格をストーリーテラーにしているのです。だから長島作品によくある同性愛的な感情がにじみ出ております。長嶋ファン的にはエッセイでお馴染みのグッとくる固有名詞がたくさん出てきます。
藤子不二雄はFじゃなくAとか。
マグライトとか。
yが小文字とか。
そーゆーのを見つけてにんまりするのもまた楽しみ。


僕のような70年代生まれのインドア派におすすめな作品であります。読み終わったらめっちゃ映画「ジャージの二人」が見たくなった。
ところで本作の主人公「トイレコモロー」の僕にとってのビジュアルイメージは、堺雅人ではなく長嶋有氏本人なのだけれども、コモローの父ヨツオさんはどうしても鮎川誠さんが浮かんできてしまう。

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