見出し画像

湯川学の専門分野 「沈黙のパレード」のネタバレ+補足説明あり

東野圭吾作の沈黙のパレードで、ちゃっかり湯川学の専門が明かされていました。
このノートでは前半は沈黙のパレードについて、後半は専門的な補足説明をまとめています。作品の核心に迫るネタバレを含みますので、知りたくない方はブラウザバックをお願いします。

興味のある人は画面のスクロールをお願いします。






磁性

湯川は磁性の研究が専門です。

原作の湯川を訪ねる場面で、
「帝都大学金属材料研究所」
「磁気物理学研究部門」
との記載がありましたので確定だと思います。

ちゃっかり教授に昇格した上に、研究部門の主幹になっていました。

ドラマでは黒板や床や壁に向かって色んな数式を書いていたので専門が謎のままでしたが、ようやく原作で明らかになりました。この設定は映画でも同じようです。

超伝導

湯川は磁性の中でも超伝導に関する研究を行なっているようです。
映画には湯川が液体ヘリウムを使っている描写が出てきました。液体ヘリウムは約4Kという極低温で液化する元素です。磁性、それも液体ヘリウムを使う研究といえば、超伝導で間違い無いでしょう。

個人的には量子とか宇宙物理とかだと思っていたのでちょっと意外でした。
湯川ほどの頭脳なので、もしかしたら色んな分野に首を突っ込んでいるかもしれませんが。

犯行手口との関係

原作でも映画でも湯川は、被害者の死因がヘリウムを使った窒息死だと考えていました。研究では液体ヘリウムを使っていたはずなので当然、最初に思い浮かぶのも無理はありません。

その後、湯川は液体窒素の犯行だと推理を改めます。
液体窒素も超伝導の研究には多用されているので、湯川の専門と犯人の犯行手口が関係するように東野先生は作品を作り上げたのでしょう。

液体窒素は約77Kで液化する元素で、液体ヘリウムより液化する温度が高い分、安価に手に入るのがメリットです。工業的にも冷凍食品をフリーズドライさせるときに使われるようです。


そもそも超伝導とは

超伝導とはある温度(臨界温度)で、電気抵抗が0になる性質のことです。
電気抵抗が0ということは、少しのエネルギーで大電流を流すことができ、電力のロスも0になります。

臨界温度は私たちが普段生活している常温よりも遥かに低いので、超伝導状態にするためには液体ヘリウムや液体窒素を使って冷やす必要があります。
よく、超伝導に関する場面でドライアイスのような湯気がもくもくしているのはそれが理由です。

こうした性質を持つ物質は医療機器のMRIやリニアモーターカーに使用されています。

超伝導の作り方

超伝導の作り方は結構簡単で、粉末になった超伝導になる物質たちを「混ぜて焼く」だけです。高温にすると粉末の中の物質が結合し、超伝導体ができます。しかし、焼き上がったもの全てが超伝導になっているわけではなく、焼いたもの中に僅かに超伝導の結晶が含まれています。

出来上がった超伝導体の特性試験は小さい結晶を取り出して電極をつけて行います。電極を取り付ける作業は、実験室レベルでは細かすぎて機械が使えないので、人間が顕微鏡を見ながら「手」で行います。

映画の中でも電気炉が写っていたので、ほぼ間違いなく湯川も超伝導を作っていると思います。普段はすかしている湯川も、電極を取り付ける時は必死になっているに違いありません。

どうでもいいですが、超伝導の性質そのものは冷やすと発現しますが、超伝導は焼いて高温にして作ります。

超伝導の研究は何が難しいのか

超伝導研究の難しさは、「何の物質を化合させると超伝導になるのかがわからない」ことです。身も蓋もない話ですが、超伝導体になるかどうかは「実際に色んな物質を混ぜて焼く」しかありません。

理論研究で超伝導体の発生機構が明らかになれば良いのですが、現代の最新の物理学でも超伝導体になる物質の予測はあまりできていません。
1957年にBCS理論という理論が提唱されましたが、BCS理論では説明のつかない物質が超伝導になったという報告も数多くなされており、実験・理論の両面で研究の進展が待ち望まれています。

ガリレオの世界では湯川が研究を推し進めているかもしれませんね。

超伝導と磁性

そういえば、なぜ磁性分野の中に超伝導の研究があるのでしょうか?

その理由は、超伝導の持つ「磁場をはじく」という性質(マイスナー効果)にあります。マイスナー効果には「スピン」と言われる電子の自転のような性質が関連しており、スピンも磁気的な効果を発生させます。
つまり、スピンの性質を解き明かすことが超伝導のメカニズムの解明につながるので、磁性分野の中に超伝導が組み込まれています。

余談ですが、超伝導はマイスナー効果によって磁石と反発するので、リング状の磁石の上に超伝導体を置くとぷかぷか浮きます。

スピンの特性を知るためには量子論を学ぶ必要があるので、湯川は量子力学も勉強しているはずです。実際にドラマ版で黒板に量子力学に関連する式が書かれていたり、映画「容疑者Xの献身」の湯川の登場シーンでも湯川が量子力学に関する講義をしていたのも納得です。

超伝導研究のこれから

超伝導の研究者の最終目標は「常温で超伝導になる物質を見つける」とこです。
常温での超伝導体には、わざわざ冷やすための液体ヘリウムや液体窒素が必要ないので、デバイスが飛躍的に進歩する可能性を秘めています。

超伝導体を電気回路に使えば、電流が流れることで発生する「ジュール熱」という熱が発生しないので電力ロスがほとんど無くなります。
すると、排熱、オーバーヒート、エネルギー消費量などの問題も解決に向かい、更なるデバイスの小型化、長寿命化につながります。

そういった意味で超伝導研究は物性の花形などと言われることがあります。
これからの技術の進歩に大いに期待しましょう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?