苺状血管腫
人に背後に立たれるのが嫌で、常に誰かの後ろに回っては舌打ちをされることもある。「昔男にでも刺されたの?」と笑いながら聞かれることもあったが、そういったトラウマは無く、なぜ後ろに立たれるのが嫌なのだろうかと考えていた。
それがやっと、ピンと来るものがあったのだ。わたしは左後頭部に「苺状血管腫」というものを患っている。名前は可愛いくせに、それはそれはグロいモノで、後頭部の髪の間には赤くぐちゃぐちゃになった皮膚が見える。
普段髪の毛を伸ばしたままにしていたり、結えたりしてしまえば全く分からないのだが、中学の時、校則が厳しくてショートにしなければならなくなり、クラスの女子にバレた。
体育で、手押し車の体操をしていたときだった。両足を持ってもらい、手だけを使って歩く、その競技は意外と疲れるもので、体力のない私は「はあはあ」と下を向いた。
下を向いたと同時に、皮肉にも柔らかく短い髪の毛が、左右に分かれて、赤のぐちゃぐちゃが見えた……のだろう。それは一瞬だった。私の足を持ってくれていたペアの女の子は無言の悲鳴をあげて、隅っこに走っていった。
突然手を離され行き場を失った両足が、体育館の妙にキュッとした床に落ちて、案の定キュッと音を出す。「ああ、明日青たんができるかな」とぼんやり思った。
赤ちゃんの頃にレーザーで手術してくれさえすればこんなに苦しまなかったのに。保険適用で数万だっただろうに。コンプレックス一つでカーストが決まるのが中学校という世界だった。
このことがあってからだ。人が私の後ろにいると、いちごのぐちゃぐちゃがバレる!と無意識に構えてしまい、人の前に立たなくなったのは。
ついでにこれを書きながら、もう一つ発見したことがある。だからわたしは女の子に好かれがな可愛い苺に、そんなにそそられないのだ。
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